生き恥スキル ー恥を忍んで最強へー
第三話「体力作り」
はい。
ついに来ました。今日から体力作りのための訓練です。前回の話し合いから10日くらい様子見しました。
まあ、まだ3歳なので激しい運動はしないでしょう。一応怪我から復帰したばかりだしね。
動きやすい格好に着替え、屋敷の敷地内にある訓練場に移動する。
すでに訓練場には父ちゃんと、主にカンザス領内のいざこざや、有事にそなえて出撃するオルヴァス騎士団の面々も訓練を開始していた。
「おお!アル、今日からだな」
「はい。父様」
「まだアルは小さいからな。今日は少し身体を動かし騎士団の訓練を見学してみようか」
「まだ自分がどの程度動けるのかは分かりませんが、お願いしましゅ!」
噛んだ。
父ちゃんは笑わないが、口元が引き攣っている。そんな顔になるなら笑ってくれたほうがマシなんだが。
せっかくだから擦っておくか。
「お願いしましゅ!」
ブフォっと吹き出す父ちゃん。
まさかの天丼の味はどうだ。
最初から素直に笑いなさい。
「ごほん!じゃ……じゃあ今日はだな、最初からいかにも体力作りっぽいメニューはアルも退屈だろう。だから……」
「だから?」
「鬼ごっこだ!」
「…………」
「そんな目でみないでくれ。心に刺さる」
精神年齢が3歳ではないので、つい冷めた目で父ちゃんをみてしまった。
普通はキャッキャするところだったか。
「ごめんね。体力作りだから大変なものなのかと身構えていた分びっくりしちゃって」
「そ、そうか……今まで見たことない目だったからびっくりしたぞ……」
うっかり前世の素がでてしまうのはまずい。
まだまだ幼少期が続くのだから気をつけていかなければ。
「よし!気を取り直して鬼ごっこをするか。鬼はアルにやってもらう」
「もちろん手加減はするから、アルは全力で捕まえにきてくれ」
手加減されても勝負になんのかな?絶対に捕まえられない鬼ごっことかある意味いじめじゃないかしら。
「で、参加者は私と「おーい、ちょっときてくれ!」騎士団の面々だ」
声を掛けられた手が空いている騎士団の人がこちらへやってくる。あれ?あの人たちは……
「騎士団長のセッツと副騎士団長のエドガー、騎士団長補佐のロクスだ」
「うん。なんとなく思い出してはいるよ」
実は、体力作りまでの様子見期間で割と記憶は戻っていた。といっても昔にした会話の内容などではなく、顔や名前、屋敷の構造をなんとなく浮かんできた程度ではあるが。
そもそも3歳児の記憶領域なんてこんなものかもしれない。自分も前世では3歳のときの記憶なんて持ってなかったしね。おそらくこれから明確に思い出す記憶などはないだろう。
「みんな。手加減してね」
「「「は!!!」」」
元気よく返事をしてくれる。こんな親バカなものに付き合わせてすまん。
「よし!それでは10分ほどやってみよう。アルは限界になったら言ってくれ」
「では、スタート!」
父ちゃんを含めた4人は遠くに逃げるわけでもなく、俺から少し距離をとった位置でこちらを見ている。
無理ゲーの匂いしかしないが、いっちょ成長のために頑張って追いかけますか。
「いくよ!」
1番近くにいたロクスに向かってかけ出す。自分的には全力ダッシュをきめているのだけど、ロクスとの距離が一向に縮まらない。
1歩の距離が短すぎるんですよ3歳児……
しばらくロクスを追っかけたり、エドガーやセッツ、父ちゃんに相手を変えて追っかけたりしたものの、やはりというべきか全然捕まえられない。
しかし。しかしだ。
前世の頃に比べてみると、身体が全然動く。
たしかに大人たちを全く捕らえることはできないが、それでも身体がよく動く。なんでえー?
少し工夫をして追っかけてみようと思う。
「アル、まだいけるか?」
「うん。大丈夫だよ。頑張るね!」
天真爛漫な返事で油断をさそう。
そして、近くにいる父へダッシュ。当然反応して少し距離をとる。かどうかのところで急転換で父ちゃんの少し右斜めにいたセッツへダッシュ。
ダッシュは1歩分。これは追いかけるための踏み込みではなく、後ろへ飛ぶための踏込みだ。
その踏込みで背にした父ちゃんへ向かって力の限り飛ぶ。
「ぅらあぁああー!」
「ぅぉおおおお!」
焦って身を捻る父ちゃん。残念ながらタッチするには至らなかった。
けど。
「服にはタッチできたよ?」
「うぬぬぬぬ」
「アースレイ様の鬼ですね」
「アースレイ様アウトですね」
「ぷぷぷ」
騎士団の3人からのアウト判定。父は悔しそう。そしてキレそう。
「貴様らぁぁぁー!!」
そして速攻で3人をタッチと見せかけた鉄拳で捕まえ、最後に俺の頭をポンっとタッチした。
父ちゃん速すぎ。
「見たか。これが私の力だ」
ドヤる父ちゃん。
「アースレイ様スキル使ってましたよね。反則アウトです」「アウト」「アウト」
3人からのクレームである。
というかスキルとな?たしかに追いかけている最中の父は謎のオーラを纏っていた。
「スキルってなぁに?」
概ね予想はつくのどが、教えてほしそうなキラキラした目をイメージして父ちゃんに聞いてみる。
「スキルか……まだ教えるのは早いと思っていたのだが知られてしまってはしょうがない」
ここは言わざるを得ないだろうね。バラしたの父ちゃんやし。
「スキルはな、7歳になる子供に等しく啓示される個人の能力のことだ」
ほう。啓示とな?ただ啓示を分かっている体では話せないのでそこから聞いてみる。
「啓示ってなぁに?」
「一般的に啓示と呼ばれているだけで、その本質は定かではないが7歳になる子供の年度始め、その年の最初の日に等しくスキルを届ける声が頭へと響く」
なるほど。そういうものなのね。
「スキルの存在を早くに伝えないのはスキルの内容に期待し過ぎてしまったり、変に不安を煽ることにつながりかねないからだ」
たしかに子供がそんな特別な力を授かれると思ってしまったら浮き足立ってしまうだろう。
ましてや身分差が存在し(おそらくだけど)命の価値が低い世界だ。いくらでも差別や悪用に繋がることだろう。
「父様分かったよ。ひとまずスキルのことは忘れて、目の前のことを頑張るね!」
「おぉ!そうだな。スキルも大事だが、本当に大事なのは地力だからな。えらいぞアル」
満点回答ドヤァ。
それはさておき、スキルは気になるけど4年後まで分からないものを気にしていてもしょうがない。今はできることを限界まで鍛えていこうと思う。
そこで1つお願いをしておこう。
「父様、1つお願いがあります」
「ん、なんだ?」
「体力作りはもちろんこのまま続けていきたいのですが、合わせて剣術の型を教えてほしいです」
「それは……まあ問題ないが……なんで型なんだ?アルくらいの子供なら打ち合ったり剣術ごっこをしたいのではないか?」
「それもたまにはしたいけど、適当に振るより型から振り方を知った方が良いでしょ?」
あまり子供が言うようなことではないけど、早く知りたいので言ってみた。
(3歳だよな……)ヒソヒソ
(どんな頭してんだ……)ヒソヒソ
なんか言われているが気にしない。
「なるほど……。たしかにアルの言うことは正しいな。ではまた次の体力作りから簡単な型も教えていこう」
父ちゃんが親バカで助かった。特に息子の言うことに違和感はないらしい。
「じゃあ次から楽しみにしているね!今日は皆さんもありがとうございました!」
「父様、せっかくだからこの後は騎士団の訓練を見学していってもいいかな?」
「ん?いいぞ。我が領地を守ってくれている騎士団だ。将来のためにしっかりと見ていくといい」
よしよし。しっかりと目に焼き付けていこう。
その後、訓練が終わるまで食い入るように見続けるアルスレイの姿がみられたという。
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