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読書録~Purdue製薬オーナーのSackler一族の物語 Empire of Pain: The Secret History of the Sackler Dynasty by Patrick Radden Keefe

本書は、これまで強い依存性への懸念から終末期医療等、限られた場面でしか使用されていなかったOpioidの市場を開拓した先駆者であるPurdue製薬のオーナー一族Sacker家の3代にわたる物語です。

物凄い読み応えでした。

私がアメリカのOpioid危機についてよく耳にするようになったのは、2018年頃、アメリカ各自治体のPurdue製薬はじめとする製薬会社に対する訴訟が活発に報道されるようになってからでしたが、まさかこの問題が、90年代後半から続くものだったとは。

そして、慈善家として各地の名だたる大学・図書館・美術館に名前を冠するSackler一族が、この問題の背後にいるということが認知され始めたのが、つい最近のことだということにも驚きました。

執筆者は、2017年にNew Yorkerに、このSackler一族に光を当てた記事を書いた人物です。Purdue製薬は非公開企業で、Sackler一族のOpioid危機への関与を示す内部資料の入手は難しい状況だったなか、この記事が契機となり、アーティストであり活動家であるNan Goldin氏を中心にSacklerに対する反感を示すデモが美術館等で行われるようになり、またマサチューセッツ州のAttoney Generalの働きで過去のPurdueやSackler一族に関わる裁判の記録が公開されるようになり、本書が誕生できたようです。

Covid-19中の医療従事者の方の活躍・献身や、製薬企業のワクチン開発が光の側面だとしたら、Opioidに関わる一連の歴史は、医療・製薬業界の黒歴史というか。

こういう一連の歴史を知ってしまうと、ワクチン忌避の人たちの中に、医療・製薬業界への不信感を抱いている人の気持ちが少しわかるような気がしてしまいました。というのも、Opioid危機のある意味発端ともいえるOxicontinは、FDAの審査官を買収して通ったようなもので。一部の医師が、自身の利益のために不適切や処方を大量に行ったのも、危機の広がりに一躍買っていたでしょうし(そうした医師は免許はく奪になったようです)

製薬業界の広告・販売や患者団体とのかかわりには厳しい規制がひかれており、以前、その制約のせいで、稀少疾患の患者さんが病気が正しく診断されなかったり、標準治療の情報にアクセスできない現実について話を伺った際、規制をもどかしく感じたことを思いだしました。でも、Opioidの事例は、そうした規制の重要性を改めて認識させるものでした。企業が利潤を追求する存在である以上、二度とこうした問題が起き、こんなに長続きしないためにも、こうしたガードレールはとても大事だなあと。

いつか映画とかドキュメンタリー化したらいいんじゃないかと思う本で、結構長いのですが、読み始めると止まらない本でした。


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