見出し画像

古本屋で働いている日記

 私はアルバイトとして古本屋で働いている。仕事はてんで出来ないが何度同じことを訊いても怒らない先輩のおかげで何とかやれている。そして大事なことだが質問せずに大失敗するくらいなら何度でも質問した方がいい。まじな話。

 ところで私の働く本屋には出張買取というサービスがある。お客さんのおうちに出向いて本を買い取りに行くのだ。亡くなった本好きの方の親族からの依頼が多い。本が沢山書斎に残されていて、捨てるのもしのびない、と皆さんおっしゃる。先日もそうだった。

 (個人情報になりそうなところは一部、伏せて書きます。)

 娘さんからの依頼だった。亡くなられたお父様の本を買い取ってほしいとのこと。閑静な住宅街へと向かう。私は先輩の運転する大きなバンの助手席に乗っている。鼻炎がひどいのであまりほこりが多くないと良いなと思う。この願いはかなわないことが多い。

 部屋にあがる。お父様は大学教授をしていたそうだ。学術書や洋書、学会誌などが並んでいる。私はそれらをビニールひもでまとめてしばっていく。本の大きさや種類に気をつけながら。本のタイトルを眺めていると私の大学での専攻に近いと気づく。教授になるにはこんなに本を読むんだなあとぼーと考えている。人文系はテキスト読むのがが9割と私の担当教員も言っていた。本当にそうなのだと思う。

 作業のあいだに本以外のものが出てくることもある。
例えば写真。娘さんはお父様の写真を見て
「ああ誰かと思った笑」などと楽しそうにしている。

 「赤ワイン、すき焼きによし」と書かれたメモなども出てくる。
「赤ワイン、すき焼きによし」という言葉が出てくる大人がいいなと少し思ったりもする。

 なんとか作業が終わって帰り際に先輩がお父様の遺影に手を合わせようと良った。私もなんとなく手を合わせた。私はそんなにまじめな学生ではないが同じ学問を学んで、研究してきた人という親しみがそうさせた。娘さんの依頼ではあるけれど本を縛って売ってしまうといううしろめたさも少しだけあった。手をあわせ終わるとさっきまで明るかった娘さんは涙ぐんでいた。

「実は遺された本がプレッシャーで仕方なかった、、、」と言っていた。

 古本屋で働きはじめて本の「商品」の側面を沢山見てきた。本は「商品」である。それは間違いなく正しい。けれど100円の本が価値あるものとなることもあれば、高い本でもそうならないこともある。そして残された本は重たくのしかかることもある。

 なんとなく、いい仕事をしているかもしれない、と思うのはこういうことを思うからだ。
 願わくばこれらの本の価値がその価格を超えていってくれたら、と思う。
この願いはかなうだろうか。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?