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雪のひとひらの話

今日は京都は朝からごうごうと風が吹いていて、これはなんかどえらいものが来そうな雰囲気だなあという感じでした。で、昼ごろから雪が降り始め、夕方には結構吹雪いていました。

で、雪というといつも思い出すのはこの本です。

ご存知の方も多いでしょうね。ひとひらの雪が空から降って、やがて海へと流れてゆく様を、女性の人生になぞらえた美しい物語です。

この本が最初に出版されたのは、1953年だそうです。原題は「snowflake」。日本では矢川澄子訳で1975年に出版されました。

その後文庫化され、新装版もでましたね。それにともなって文庫もカバーが改められました。

最初の単行本は今のものよりもずっとシックな雰囲気で、文庫本は可愛らしい挿画でした。

この本の何がいいって、とにかく矢川澄子さんの訳ですよね。もしこの物語が矢川澄子訳じゃなかったら、こんなに人気にはならなかったかもしれない、と僕は思います。

タイトルがいいですよね。「雪のひとひら」。

ひとひらの雪、という表現が一般的になったのは、もしかしたらこの本が出てからなんじゃないかと僕は思います。

青空文庫の全文検索で調べてみたところ、「ひとひら」と言うと雲か花びらなんですよね。雪に「ひとひら」という言葉をあてているのは、桐山正雄さんが訳したアンデルセンの「雪の女王」だけでした。

だから、矢川さんはもしかしたら、この桐山訳の「雪の女王」をかつて読んだことがあって、そこからこの本のタイトル「snowflake」を「雪のひとひら」と訳したのかもしれません。

特に児童文学においては、誰が訳しているかってすごく大事ですよね。

ちょっと話がずれますが、少し前に梨木香歩さんがこんな話をどこかで書いていました。

梨木さんは「西の魔女が死んだ」でデビューして、児童文学にはとてもゆかりのある人です。それに加えて、彼女はイギリスへの留学経験もあり、英語が堪能です。実際、翻訳もされています。

そんな彼女の元には、児童文学の名作を新訳しませんかという話が結構来るそうです。でも、そういう話は断っているのだとか。

確か「秘密の花園」でしたっけ。他にも色々あるのでしょうけれど。

なんか、その気持ち分かるなあと思って。特に児童文学は、やっぱり小さい頃に出会ったあの文体じゃなきゃダメなんだよっていう感じ、ありますよね。

もちろん、新訳がダメだってわけではないんです。それはそれでいいし、特に僕は光文社古典新訳文庫の大ファンですけど、それとは別に、新訳でなくていい、新訳じゃない方がいいという価値観もあって、それはそれで素敵だなあと思うのです。

「雪のひとひら」だって、もうずっとロングセラーなんですから、いつの日か新訳が出るかもしれません。

でも、一番美しいタイトルはきっと「雪のひとひら」でしょうね。このタイトルには誰も勝てないんじゃないかなあ。

あ、そうそう、僕が書いた「雪のひとひら」のレビューはここにあります。無料なのでよかったらどうぞ。

ということで、また明日。

おやすみなさい。

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