ヤンキーたちは今どこで生きているのか〜インターネット上におけるヤンキーとはおとぎ話なのか?〜 『ヤンキーは絶滅してしまったのかーさとり世代に現れたヤンキーたちー』

DQN(ドキュン)というネットスラングをご存知でしょうか? 簡潔に言ってしまえば非常識で頭の悪い行いをする人たちを意味し、”ヤンキー風”で、見ているこちらが不快になる人たちのことを指して用いられる言葉です。
この言葉が生まれた背景に、テレビ朝日で放送されていた『目撃! ドキュン』(94-02)という番組があり、この番組があり、この番組内に登場するような「15歳で結婚して子供が生まれて、20歳になったら離婚して、40歳になったら『目撃! ドキュン』に出ている人たち」という意味で日本最大の電子掲示板である2ちゃんねるを中心に用いられるようになった言葉でした。今では(この論文を執筆していた当時では)、2ちゃんねるの中だけで用いられる言葉ではなくなり、日常生活にまで浸透したとわ言わないにせよ、TwitterやフェイスブックなどのSNS上のやり取りで使用されているのを目にする機会も少なくありません。

こういったやり取りの中で見かけるDQNの意味は、主に”ヤンキー風”の人という意味見合いで使われていることがほとんどですが、2ちゃんねるなどの「隣に住むDQNに○○されて困っているのだが……」といったタイトルで話される体験談に出てくるようなDQNたちを見ていると、私はヤンキー=DQNという図式を、そのまま鵜呑みにすることに抵抗を感じてしまいます。ここで私は、DQNはフィクションなのではないか? という疑問を抱きました。
第一に、2ちゃんねるなどで語られる体験談は、物語性を重視しているので誇張した表現になっていることは容易に想像できます。DQNというキャラ設定は、物語の展開を盛り上げるためのスパイスとして用いられているのではないでしょうか。
次にSNSがDQNというフィクションを表現するにあたって、適したツールであったということです。マイルドヤンキーの特徴に、「仲間内しか意識しておらず、インターネット上においても意識しているのは内輪ノリのみ」という点です。よって比較的アカウントに鍵をかけることをしていない傾向にあります。
この、世界中の人間に見られるという意識の欠落によって、仲間内だけでしか通じない内輪のニュアンスを削ぎ落とした形で、彼らとは関係のない他人に、面白おかしく切り取られる結果につながるわけです。

DQNというフィクションを作り上げる過程で、モデルが必要になり、フェイスブックやTwitter内に存在するヤンキー風の彼らのコラージュがDQNの正体なのではないかと考えます。DQNがフィクションであるという例として、「岩崎京也」という人物のTwitterを紹介したいと思います。このアカウントは26歳(2016年当時)、元ヤンキーの青年のアカウントで、呟かれるツイート一つ一つに、彼の熱い想いが込められています。このアカウントは10万人近いフォロワーを獲得しており、彼自身、フォロワーたちのことを「ダチ」と呼び、その彼を指示する「ダチ」の想いに応えるかのように、彼は思いの丈を発信し続けています。ここで彼のツイートをいくつか引用したいと思います。

「よォ、今のこの国このままにしておくのか? 創造力が平和に変える。俺らが変えていくんだ。」

「LGY神マジでたまんねぇ。ヒップホップが俺の耳を犯す様はまるで威風堂々いつでも来いよイヤホンから流れるステレオミュージック」

「夜が始まる。」

「拡散希望! みんな岩崎京也になろう。」

「岩崎京也」Twitterアカウント

DQNというフィクションが成立する理由に、SNSが適したツールであったのです。ヤンキー思想が持つポエム性は、Twitterやフェイスブックなど文字をメインとする媒体に非常にマッチしやすかったからではないでしょうか。
彼のツイートを見る限り、このポエム性を否定することは極めて難しく、更にこのポエムのような表現は、実態を曖昧にするのに適しています。私個人の見解では、この「岩崎京也」という人物がこのアカウントを実際に動かしているのかどうか疑問に思ってしまうところです。
TwitterアカウントのIDがある日を境にして@010uszmから@877uszmに変わっているという点と、ここまで話題を呼んでいるにもかかわらず、自身が面白がられていることに気付かないという極端な客観性のなさ、しかし、拡散希望という多くの人が見ているということを意識できているという矛盾が生じています。
彼が作られた偶像であるということの説明として十分な判断材料になるのではないでしょうか。DQNとは、私たちの中にあるヤンキー文化に対する偏見や、日常の中に非日常を求める欲求が生んだフィクションだと考えられるのです。

※本論文は2016年3月時点でのものです。


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