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ヤンキーたちは今どこで生きているのか〜バッドセンスとEXILE〜 『ヤンキーは絶滅してしまったのかーさとり世代に現れたヤンキーたちー』

さとり世代にヤンキー思想を受け継ぐ一定の層があると説明しましたが、人にだけではなく、ヤンキー思想は私たちが日々消費しているエンターテイメントの中にも姿形を変えて存在し続けています。それは、ヤンキーという思想が一般的な感覚まで浸透し、私たちの中に生き続けている証拠でもあるのです。
これから挙げるエンターテイメントの例は、冒頭で説明したヤンキー思想が「マイルドヤンキー」や「意識高い系」の彼らとどういった関係性を持っているのか示すためのものであり、また、遠いところへ行ってしまったかのように思われるヤンキーという存在が、実は私たちの隣に住んでいるのかもしれないという事実の裏付けになると思われます。

バッドセンスとEXILE

メディアへの露出が激しいアーティストで、ヤンキー文化を色濃く残しているグループと言えば、真っ先に「EXILE」「三代目J Soul Brothers」を挙げる人は多いでしょう。浅黒く焼けた肌に、男性性を誇張するような身体的な見た目に加え、衣装、派手な演出。中性的なかっこよさを売りとするジャニーズJr.の対局に位置しています。もちろん彼らは、見た目だけがヤンキー風というわけではありません。
男性性を誇張した集まり=ヤンキー集団、という単純な方式というだけでなく、「EXILE」のメンバー間の仲の良さや、弟分、妹分に当たる三代目やE-girl’sとの間にある家族のような関係性も重要なポイントであります。しかしここではバッドセンスとしての「EXILE」を紐解いていきたいと思います。
これまで、ヤンキーのパロディとして活動してきた音楽グループはいくつもありました。「ヤンキー音楽の系譜」(『ヤンキー文化論序説』五十嵐太郎編)というテキストの中で、かつて矢沢永吉が所属していたキャロルについて触れています。当時ロカビリーブームからビートルズブームを経て、すでに”ダサい”とされていたリーゼントヘアで登場し、それを”アリ”に変えてしまったそのムーブメントは、ヤンキーのパロディであったはずのものが、パロディとしてではなく一つのファッションとして受容されたことを意味しています。
この後もヤンキーという一つの様式は、誇張され繰り返しパロディされていきます。横浜銀蝿や氣志團の流れは、パロディのパロディのパロディという感じで、バッドセンスのもつ「様式化とそこからの逸脱を繰り返しながら徐々に溜め込まれていった”いびつさ”の集積」につながっていくのではないでしょうか。
しかし、EXILEがなぜバッドセンスなのかを考えたと時、見た目だけの話をすれば横浜銀蝿や氣志團と同じ系譜には位置していません。だとしたら、EXILEのどこがバッドセンスなのでしょうか? 先ほど冒頭で、EXILEと対になっているのが中性的な魅力のジャニーズだと説明しましたが、この関係性からEXILEのバッドセンスを考えていきたいと思います。

2016年(時点)の今を生きている男性たちで、これまで以上に他人の目を気にするようになった人が増えた印象があります。ファッションのトレンドワードには「ジェンダーレス」というワードが挙がるくらいです。ファッションやヘアスタイル、美容まで意識し、街を歩けばモデルのような見た目をした中性的な男性、言ってしまうと”ジャニーズ的”な見た目が増えている事実は否定できません。
ジャニーズの存在について、わずかならば言及するのであれば、ジャニーズのそれは中性的であると同時に、少年性のデフォルトだったのではないかと思われます。筋肉や体毛など、大人の男から連想されるものを排除し、少女マンガの王子様のような見た目の”男の子”たちばかりが活躍する様は、女性たちが求める非現実のエンターテイメントとして成立していました。
しかし、今現在、中性的な男性が現実において存在し、それまで非現実とされていた、ジャニーズ的な存在が全く非現実かと言われれば決してそうではなくなってしまいました。
そもそもジャニーズのタレントたちが性への執着を露わにすることをメディアを通して見ているだけでは、その男性的な部分を感じることは容易はことではありません。
また、少年性のデフォルトであるジャニーズたちから性の匂いを漂わせることはご法度であり、ジャニーズのタレントたちが、現実の生身の男であるという事実は、非現実生を欠く原因になってしまいます。
しかし、現実世界においてジャニーズという存在の非現実が薄まってしまったとするならば、女性たちは新たな対象に非現実を求めるようになったのではないでしょうか。それは、性の匂いのする古いタイプ、いや新しいタイプの男性像です。EXILEは、これまでのジャニーズが非現実であったとう風潮の上に成り立つ、大人の男のデフォルトなのではないでしょうか?
少年が第二次性徴に伴う筋肉や体毛(主に髭)という大人の男になるための象徴の逸脱を繰り返したいびつさの集積が、EXILEが横浜銀蝿や氣志團とは違ったバッドセンスに位置している理由なのでしょう。

※本論文は2016年3月時点でのものです。

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