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バンコクの洪水被害、どうなる?

一昨日(9月8日)まで、バンコクは大雨が降りました。一時は土砂降りとなったことから、都内各地で冠水被害が発生。大渋滞を引き起こしました。SNSでは、「500メートル進むのに3時間かかった」と、渋滞のひどさを訴える投稿もありました。

バンコクの洪水。
2011年秋に起きた大洪水は、ほんとうにひどいものでした。幸い我が家周辺は無事でしたが、物流が滞って生活必需品が品薄になったことには、たいへん頭を痛めました。そんな体験をしていますから、バンコク在住者としては、今年の洪水被害の可能性が気になります。

大雑把ながら、バンコクが洪水になる理由として3つが挙げられます。

(1) 集中豪雨による大量の雨量を、排水設備がさばききれずに洪水、冠水となる。
(2) 北部で降った大量の雨水が、チャオプラヤー川などの河川を通じて南下し、その一部が堤防を超えて浸水してくる。
(3) 海の潮位があがり、海水が河川を通じて内陸地へ逆流する中で、その一部が堤防を超えたり下水を通じて浸水してくる。

まず、(1)について。
9月8日にバンコク都を襲った集中豪雨は、スワンナプーム空港近くにあるラートクラバン区で、1時間131ミリという降水量を記録しました。1時間に131ミリの雨量とは、どのような激しさか。日本の気象庁が、興味深い資料を公開しています。

1時間で80ミリ以上の降雨で、「猛烈な雨」。それが131ミリですから、まさに「超猛烈な雨」。これでは、排水が追い付かなくても仕方なさそうです。

実はバンコク都は長い歴史の中で、こうした豪雨対策として遊休地を多数確保していたのです。豪雨になったらその遊休地に雨水が貯まるようにしていたんですね。王室資産の中にも、そのような緊急時用の遊休地が多数含まれています。単なる「空き地」ではなかったのです。それが次々と開発されてスワンナプーム空港になったり、商業施設になったり、高層住宅群になってしまったわけで、歴代のバンコク都知事(ないし政府)は、先祖伝来の洪水対策を無視して水害が増加する原因をつくりながら、今になって洪水対策に多額の費用をかけている、というわけです。

次に、(2)について。
タイ北部で降った雨は、河川を通じてバンコクに流れてきます。その代表がチャオプラヤー川。バンコク都の真ん中を縦断するこの川は、タイ北部のナコンサワン県でピン川とナーン川が合流し、起点となっています。特にタイ北部を勢力の強い熱帯低気圧が通過しますと、それが数日に渡って降らせた大量の雨水が、両河川を通じてチャオプラヤー川に流れ込んできます。そのため、まず同県で洪水が発生し、続いてその大量の雨がゆっくり、ゆっくりと南下して河川沿岸各地に洪水をもたらし、さらにその巨大な水量が15~20日かけてバンコクに到着してくるわけです。

かつてはタイ北部には豊かな森林があり、そのおかげで土地に保水力がありました。それが木々の大量伐採が進んだ今では、降った雨が地下内に溜まる保水量が激減。短時間で河川に流れ込んでしまう状態になっています。これも洪水被害が悪化している原因のひとつです。

ちなみに、バンコクから240キロほど離れたナコンサワン県の標高は、平均33メートル。またチャオプラヤー川水源の標高は、25メートルだそうです。一方、バンコクの標高は2メートル弱。つまりその標高差は、1キロあたり10センチ強しかありません。ほぼ「まったいら」といっていいでしょう。それゆえ、川の流れがゆっくりなんですね。

では、(3)はどうでしょうか。
先ほど、バンコクの標高は2メートル弱と記しました。低い所は、1メートルだそうです。そしてバンコクと海の距離ですが、クロントイ区にあるバンコク港からタイ湾河口までの距離は約30キロです。

このタイ湾の潮位は、もちろん月の位置によりますが、高い時には3メートルを超えます。すると、その時海水がチャオプラヤー川を逆流し、30キロ以上離れたバンコクにまで達する時があるのです。チャオプラヤー川を観測していますと、時々ですが、水の流れが下流から上流に向かっていくのを目撃します。それがこの潮位が高い時期なのです。

9月8日の最高潮位は、チャオプラヤー川がタイ湾に合流する河口付近で3.77メートル。しかもその観測時間は17時45分頃。土砂降りとなった夕方の時間帯と合致します。それゆえ、高い潮位がバンコクの排水能力を低下させた、ということになります。まったく不運だったとしかいいようがありません。

では最後に、今年も2011年のような大洪水が発生するのかどうか。

気象の話ですから100%断言できませんが、タイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)は、「その可能性は低い」とみています。それは、現在のタイ北部で水害をもたらしている水量によるものです。

下図の水色部分は、水害が発生している地域を示したものです。左が、2011年8月末時点での洪水状況。右が今年8月末時点の状況です。

あくまでも8月末時点での比較となりますが、2011年は水害被害が5,594,614ライ(タイでの土地面積単位。1ライ=1,600㎡)に達していたのに対し、今年は1,856,836ライ、33%に留まっています。それゆえ、この水量がこれから半月ほどかけてバンコクに南下してくるにしても、2011年のような被害に至る可能性は低い、という理屈です。

さらに9月9日以降、9月中旬まで潮位は下がります。どうやらその間に、チャオプラヤー川を流れている北部からの大量の水量が海に放出されそうですから、このことも、2011年ほどの被害には至らないだろう、とタイ政府が楽観している理由です。

結論としては、どうやらさほど心配する必要はなさそう。

とはいえ、豪雨による一時的な洪水、冠水は間違いなくありましょうから、備えを怠っていてはいけません。と、自分に言い聞かせています。

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