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【感想】僕らは2度死ぬ3度死ぬ
僕らは2度死ぬ3度死ぬ
※ トップのイラストは擬人化FAです
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最近になって、「花は2度咲く3度咲く」を読み始めて、あんまりにもハマってしまってうめいていたら、優しいフォロワーたちが「僕死ぬも読んで!」と勧めてくれた。
そもそも「花咲く」自体、「僕死ぬ」の世界線のお話らしい。
最高の出会い、そして紹介に感謝。
ネタバレしかないです。
あと思い浮かんだことをそのまま書くので、物語の順序に則ってないかも。
読みづらいということです。ごめんね。
主人公は「枯木(こぎ)タカラ」。
純朴で、どこか幼く、あきらかに不安定な印象の子で、読み始めた当初からずっと(な、なんなんだこの子…)てじっとりした不穏が付きまとう感じ。
タカラって自分の中では、「余裕がある/面倒見がよい/どこか底知れない/愛嬌がある」イメージがあるんだけど、枯木はほんと余裕ナシ、本人も気付いてないタイプの底知れなさが身体のまんなかにうつろな空洞があるようで怖かった。
読み始めた当初からいや、放火って自分自身こそが犯人では?確証ないけど…という気持ちがあり、最初はそれこそ「過去に放火したけど忘身刑で記憶がない」のかな?と思ってて。
でも、それじゃ説明のつかない記憶だとか、どうやら犯人の刑は通常の忘身刑ではないらしいだとか、色々と情報が出てくるんだよね。
犯人本人?いや違う…?でもさすがに…いや、でも……ていうグラグラした状態がずーっと続いていく。
これホントに凄くて、物語中に「情報」が出たら、それってそのまんま結末だとか、真実への「ヒント」になるわけじゃない?でも僕死ぬだと違うんだよね。
そうかも、違うかもってあっちこっち引っ張られるから、予想が全然落ちつかない。読んでて飽きないというか、たぶんこうなるんだろうな~はやく答え合わせしたいな~て気持ちにならない。
そもそも、べっとりした不安がずっと目の前にあるから、うっすら答え合わせしたくない気持ちもあったし。
オムニバスっぽい形式も良かった。
読み手も、タカラも、忘身刑に対して初心者なわけでさ、だからその刑が起きると何が起きるのか、人生に対してどんな影響を及ぼすのか、囚人によって色んな物語を見せてくれる中で、少しづつ読み手の中にも、タカラの中にも、忘身刑がどういうものなのか定まっていく感じがする。
3番さんのくだりは泣いたなあ…。
あともう少しってところでマルミちゃんが泣き喚くんだけど、あの展開のすごいところは、その後すぐヘイトを近所の人が買っていくから、マルミちゃんに対してな、なんだこのガキ!!?て感情にならないんだよね。
う、うわーーーーーーーー………………………………という気持ちだけが残る。
ショボンはさ、〝マルミちゃん〟のことわかってたと思う?
正直、最初はわかってて、3番さんに合わせてるんじゃないかって思った。でもすぐ違うって、本当にマルミちゃんだと思ってて欲しいって気持ちになった。
そうじゃないと救われないじゃんか。
あの出来事を「誘拐殺人」て話すのはどんな気持ちだったろう。見返したら、ものすごくそのまんま話していてビックリした。3番さんは本当に強くて、しなやかな人だったね。
誘拐殺人発言もそうだけど、ガリガリ書いているシーンも、看守さんとのやり取りも、というか3番さんに限らず全編を通して布石がハチャメチャに多い。
見逃して(→布石と気付かず)読んでる箇所もあるんじゃないかなと思うぐらい。
布石。布石ほんと凄かったな…。
そもそも始まりの「ボク」で話す彼女の場面から、タカラの場面へシームレスに繋げるのが上手すぎる。
思えばほんと全部繋がってんだよね。
犯人を〝呪う〟枯木タカラ。
タカラの面倒を見てくれる3番さん。
情報屋をやっているアネノザキ。彼女が〝良い人=信頼出来る人物〟だと確信できるエピソード(→3番さんと旧知の仲)
囚人と忘身刑の関係を色んな角度で見せてくれるエピソード群。
囚人の味方に立ってくれる看守さんたち。
敵対する記憶管理局という存在。
投獄される富佐野。
……彼が忘身刑になったのって、今思えば「鉈木ツボミの記憶を片平ギコ」に移した罪も含まれてるんじゃない?
トカゲの尻尾切りというか、作中だと、ディスポ……。
ネーさんが富佐野の罪を調べて、わざわざ言い淀んだ理由、いやハッキリ「見つけらなかった」ってタカラに伝えたのはそういうことなんじゃないかと…。
ていか記憶管理局の故人、「鉈木(なたぎ)局長」ってまんまツボミのお父さんだよねえ!!?
ぜーんぶ読み終わってから気付いた。これ、タカラが「鉈木ツボミ」の名前を思い出した瞬間にハッとした人もいるんじゃないか。
記憶管理局だとか、忘身刑だとか、物語の核を成り立たせるシステムになりそうなものを、そのまんま核にできるの本当に凄い。変なところでずっと感動している。
そして、鉈木ツボミの呪い。
片平(かたひら)。
繋がりそうで繋がらない、バラバラだった情報が糸をピンと張るみたいに一気に繋がった。
名前、名前~~~~~~~~~~~~!!
名前の由来の場面、もう本当にストーン!と腑に落ちるというか、どうして気付かなかったんだろう!て真っ白になった。
確かに、タカラの記憶はチグハグだった。
だからこそ「タカラは犯人→かつて忘身刑で記憶を失い、年齢を理由に別の幸せな記憶を上書きした」と予想してたんだけど、「犯人本人だと思ってたけど、どう考えても被害者側の記憶がある説明がつかない→でも火傷の描写と辻褄が合わないような→いや医療技術がめちゃ発達してるからワンチあるのか…?」となり、「もしかしたらタカラは本当に被害者なのかも→じゃあこの虐待されている記憶はなに→同じだけ暖かい記憶もなに…」となり、そのうち囚人たちのドラマとか、どんどん出てくる情報の波に予想すること自体が流されていって、気付いたら読み終えていたような感じ。
面白かったなあ。
ぽっかり放り出される終わり方がこの物語のおしまいに、忘身刑をイメージさせるようで好きだった。身体がフッと軽くなるというか。
終盤で、タカラのこと、看守さんたちが「いい子ちゃん」て呼んでくれるのあたたかかったなあ。
毛利さんが「お前が来てからの一年半、俺らは結構楽しかったんだから」って言うところ。
この「お前」って、片平でも、ツボミでもなく「タカラ」を指してるんだってわかって、それがほんとに嬉しかった。
コンビニ強盗を起こしたのがツボミの残した呪いによる影響だとして、刑事さんの回想で「あの子、また逮捕されたみたい」という言葉を聞く限り、タカラはそういうことを何度か繰り返してるんだけど、それこそ最初の忘身刑による記憶障害でなんどもなんども忘れてしまっていたんだろうなあ。
だからこそ結末の忘身刑は、呪いにのたうち回った果ての解放なんじゃないかって物語を通して思う。
本当にね、何も分からないまま救いを願って忘身の日を求めていた彼が、「僕は生きる」「2度でも3度でも」「何度だって」とタイトルまでもひっくり返して、決意で締めるのが眩しくて、ああここに辿り着くまでの物語だったんだって思わせられた。
僕死ぬ、本当に面白かった。
今はとにかく花咲く読み返したくてしょうがないので、ゆっくり追い直します。