THE MATCH 2022後のキックボクシング業界について

長年実現が望まれていた天心対武尊が発表され、RISE対K-1という形で対抗戦も発表されたTHE MARCH 2022まであと2ヶ月を切りました。

会見ではYA-MANが芦澤と乱闘し天心武尊以外にも大きな話題を生み出し、盛り上がりを見せています。

先に言っておくとある意味このビッグイベントに水を差す内容になりますがどうしても気になることがあるのでそこに触れておこうと思いました。

今回のTHE MATCH 2022はRISEとK-1の王者や王者クラスが多数参戦する日本キックボクシング界ではこの10年ほどの中では最大のイベントと言っていいでしょう。
そして見方とすれば、日本キック界の2トップであるRISEとK-1の全面戦争ということになります。
しかし、会見を見ていて本当にそう言って良いのか?というところとこのイベント後に起きかねない不安が頭をよぎりました。

まず、RISEとK-1が本当に2トップなのかという話題です。
今回のイベントの配信はAbemaTV、K-1、RISEの3つのチャンネルで生配信されました。
私は特に意識することなくK-1のチャンネルで会見を見ていましたが、途中で何となくほかはどうなっているか興味が湧いてRISEのチャンネルに途中で移動しました。
その時に気づいたのですが、視聴者数がK-1が1万人を超えていて確か1.2万人くらいだったのに対し、RISEは3、4千人しか見ていませんでした。
何が言いたいかと言うと、K-1とRISEは人気を二分するイベントではないということです。
ここで両団体と出場する選手のTwitterフォロワー数を確認してみましょう。(2022年5月5日時点)
RISE(3.2万) vs K-1(10.3万
那須川天心(63.5万) vs 武尊(36.4万)
鈴木真彦(7,553) vs 金子晃大(8,318
志朗(9,166) vs 玖村将史(6,952)
風音(6,180) vs 黒田斗真(1,951)
ベイノア(1.5万) vs 和島大海(3,134)
中村寛(6,074) vs レオナ・ペタス(2.5万
白鳥大珠(3.0万) vs ゴンナパー(704)
原口健飛(2.9万) vs 山崎秀晃(2.2万)
YA-MAN(2.1万) vs 芦澤竜誠(5.7万

両団体、対戦カードごとにフォロワーの多い方を太字としています。
正直意外だったのは、対戦カード毎に比較した時にRISEの選手のほうがフォロワーが多いカードが多いということです。
ただ、団体のフォロワーはK-1がRISEの3倍ほど差があり、これだけ見るとK-1はよくこの対抗戦を引き受けたなという印象もあります。
あとはRISEファイターのほうがフォロワーが多いのは天心と絡んだことのある選手が多いのも影響しているかもしれません。
55キロ契約の鈴木、志朗や53キロ契約の風音は皆、天心と対戦経験があります。
しかしK-1の金子、玖村、黒田は武尊とは絡んでいません。
逆に対戦経験のあるレオナは多くのフォロワーがいます。

そしてやはり天心と武尊のフォロワー数が両団体でも突出しており、特に天心はずば抜けて多いです。

そしてこの天心が圧倒的にフォロワーが多いのに団体のフォロワーが多くないというのがこのイベント後に発生すると考えている問題です。
問題と言うよりはRISEの危機と言って良いかもしれません。

これは私が以前K-1とRISEの違いについて言及したことがありますが、新生K-1ファンはいてもRISEファンはあまり多くないということです。

RISEという団体を過去の歴史で分けると、旧K-1への登竜門と言えた時代、旧K-1が潰れた後にその続きを見せてくれていた時代、そして天心の時代の3つに分けられると思います。
そして那須川天心登場がRISEの起爆剤となり、彼に大きなスポンサーが付いたのと同時に団体にもスポンサーが付き、大きな会場で興行を開催できるようになりました。
それが影響してかRISEは那須川天心を唯一神とする団体へと変化し、各階級の王者が決まる試合よりも天心のワンマッチがメインイベントになるように変化していきました。

ちなみに武尊のK-1における立場も同じだと思われる方も多いと思いますが、彼がタイトルマッチやトーナメントの決勝を差し置いてワンマッチでメインイベントを戦ったことは一度もありません。
ヨーキッサダーとの試合では興行内で他の階級のタイトルマッチはありましたが、そもそも日本対世界の対抗戦がタイトルマッチよりも後に設定されていたので彼の試合だけ特別扱いとは異なると思います。

そしてこの情報を探すのに両団体の結果を色々調べましたが、RISEはそもそもタイトルマッチを大きなイベントのメインにしていることがほぼないということです。
これはとても良くないと思います。
一方K-1はスーパーファイトがイベントのメインになることは、ほとんどありません。
前述したKsfestaでの日本対世界の対抗戦しかありませんでした。
つまりK-1は武尊がいくら人気が出ようが、他に人気のある選手がいようが、あくまでK-1のタイトルが一番頂上にあり、選手はそれを掴むために戦うという揺るぎなき前提があるのです。

RISEの場合、これがありません。
というよりも天心がベルトよりもあるいは団体そのものよりも上の存在となっているため彼が問答無用でメインとなってしまうのです。
それは団体のベルトの価値を下げる行為にほかなりません。

もちろん天心がいる間は良いです。
しかし、彼は武尊戦でキックを卒業します。
団体のベルトよりも大きな象徴が無くなってしまうのです。
RISEファンはいないと書きましたが、RISEへの思い入れはなくても天心の試合が見たいというファンは多いと思います。
そういう人たちが天心がいなくなった後のRISEを見てくれるのでしょうか?
私はそうは思いません。
長くなりましたが、だからこそ今回のTHE MATCH 2022はRISEにとって、とてもリスクの大きいイベントなのです。

今回の対抗戦でRISEが勝ち越してもK-1ファンがRISEに移動することは考えにくいです。
なぜならこれも以前別の記事で書きましたが、K-1は世界観が作られているからです。
K-1の興行には世界観があるのでしょう。
そしてそれが今のフォロワーの差に繋がっていると思います。
RISEは今回の対抗戦は絶対に勝ち越さないといけないです。
勝ち越してようやく現状維持だと思ったほうが良いでしょう。
負け越したらただでさえ天心がいなくなるのにK-1より実力が下のただのキックボクシング団体となりこんなの誰が見るんだ状態になってしまいます。
もしかしてそのリスクヘッジも兼ねてGLORYとの提携があったのかもしれませんがヨーロッパの知らない選手がいきなり日本で人気が出るとも思えないです。

試合はやってみないとわかりませんが、運営の仕事ぶりに関しては明らかにK-1に軍配が上がっています。
両団体のオフィシャルサイトや試合動画の公開スピードなどはっきり言って全くレベルが違います。
今のK-1、RISEを経済的な言い方で一言でまとめると、
K-1は自国の製品を丁寧に売って売上を伸ばし、経済成長してきた国で、RISEは突如吹き出した天然資源に頼って経済成長した国です。
当然資源に頼った国の資源が枯渇すれば・・・もう言いたいことはわかるでしょう。

天心ほど自分でいろんな話題を作ったり自走してくれる選手はそう現れないです。
RISEはこのビッグイベントに向けて力を入れる以上に今後のRISEをどうやって盛り上げるか、具体的に言えば団体として売上、利益を伸ばすか真剣に考えたほうが良いし、そっちのが先にやることだとさえ思います。

最後に、会見でYA-MANがRISEが黒船という言葉を発しました。
もう5年以上言われているK-1の独占契約について持論を述べたいと思います。
RISEはトーナメントのたびに豪華なメンバーを集めています。
例えば昨年の53キロ契約のトーナメントはK-1と比べてもネームバリューのある選手が多く、その中で無名でタイトルを取った経験のない風音が優勝したことで一つのドラマとなりました。
では、ここで一つ考えたいのは、過去にも梅野源治や石井一成、女子では伊藤紗耶と言った日本ムエタイ界の大物をトーナメントに呼んでいますが、今現在のRISEに貢献してくれているムエタイ界の大物ファイターはどれだけいるでしょうか?
答えは志朗ただ一人です。
他の選手は負けたら俺の本職はこれじゃないとばかりにムエタイに戻り次の試合を行い、RISEから美味しい試合が来たら参戦するというイメージです。はっきり言ってこれは費用対効果が悪いと思います。

そして独占契約をもう一度よく考えた時にこちらの方が団体としても誠意ある姿勢で責任を負っていると私は思います。
というのもK-1グループには格闘技界ではそこまで有名でなくてもK-1ファンの間ではそれなりに知名度の高い選手がいます。
そしてそうなっている要因はその選手が基本的にK-1グループの試合にしか出場していないからです。
また、K-1ファンの間で認知度が高いのは試合が面白い、強いのはもちろんK-1が選手をしっかりとプロモーションしているのが大きいと思います。
イベントを盛り上げるために選手の名前に頼るのではなく、選手の名前を団体が売るのです。
金子などは明らかにそのルートで有名になった選手でしょう。
また、K-1でデビューした選手はそれなりに試合が組まれている印象でそもそも試合で飯を食うのが大変な業界にあって安定して試合が組まれるのは選手としても安心感が高いと思います。
それは選手を預かるあるいは契約している団体の責任を果たしていると言えないでしょうか?

逆にRISEは天心以外にも今ある名前で団体を成り立たせています。
残念ながらキックボクシングはマイナー競技なので名前がこの業界で知られていても大した効果はありません。
私はRISEが天心無きあとにも運営継続できる最後の手段は逆に独占契約による世界観の形成だと考えています。
天心がいた事で幸運にも55キロは良い選手が集まってきました。
この選手たちを囲い込んで次の主役の座を争わせれば良いのです。
そしてその積み重ねがRISEらしさの醸成につながると思っています。

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