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403バルト3国に学ぶこと

「日本の北方領土は第二次世界大戦の結果としてソ連領になった。これを覆すことは国際政治上許されない」。ロシアの主張だが、それに反論しない(らしい)日本外務省は総員入れ替えが必要だ。
第二次大戦で確定した国境線が平和裏に変更された例はいくつもある。その代表例の一つがバルト3国。ソ連領から1992年に完全独立して、今はEU(欧州連合)とNATO(北大西洋軍事同盟)の加盟国だ。
明石書店の『リトアニア』『ラトヴィア』『エストニア』を一挙読みした。共通する歴史は、13世紀頃からそれぞれの主要都市がハンザ同盟に参加。十字軍の関連でドイツ騎士団が進出し、ドイツ人が地元民の上に立つ構図ができる。スウェーデンやデンマークが幅を利かす期間もあったが、ロシア人がじりじり侵食を開始し、19世紀にはロシア帝国領に併呑してしまう。それらの期間中、地元民は農奴や零細農民とし従属。
20世紀には自国語復活運動と絡めて独立基準が高まる。第一世界大戦でドイツ軍が前進してくると、ロシアからの独立闘争になり、ロシア革命で国際孤立したボルシェビキは独立を承認して、3国が成立。しかしソ連の地盤が固まると協定を無視して3国再領有への画策を始める。第二次世界大戦の端緒となった独ソによるポーランド等の分割で、3国にはソ連の恫喝で傀儡政権ができる。これに反発した国民は、その後の独ソ開戦では義勇軍を組織してソ連軍を駆逐している。
戦後はスターリンの「鉄のカーテン」に閉じ込められた。ポーランド等他の東欧諸国との違いは、ソ連の領土に直接組み込まれたこと。ロシア人が移住してきて、地元民の比率が低下し、言語も失われそうになったこと。
ソ連は1980年代のアフガニスタン侵攻の失敗で国力を失い、ゴルバチョフはペレストライカを提唱する。その流れを利用して3国は再独立への運動を加速する。ソ連軍の戦車に非武装の市民がひき殺される悲劇にもめげず、3国をつなぐ200万人の人間の鎖運動で国際社会の共感を得て、ついにロシアからの独立を達成。その背景には、アメリカが一貫してソ連の支配を認めていなかったこと、海外に脱出亡命
していた市民の支援があったこと、ソ連支配時機を通じて海外亡命政府(形だけでも)が存続していたことなどがある。
三国は今でもロシアの侵攻を想定した対応をしている。2014年のプーチンによる東部ウクライナでのやり口は3国にとって他人ごとではない。第一次、第二次世界大戦後にロシアが行った方法だからである。自衛のための軍備や当然のこととして、国民の大多数が軍事教練を受けた予備兵に登録している。ロシアからの経済封鎖に対してはEU加盟で、軍事的脅しにはNATO加盟で対抗している。エネルギーでもロシアの天然ガスでは、切断されるおそれがあるので、原子力発電を含む自前エネルギー確保を模索している。
「隣国だから親善」などとの甘い考えでは、領土にひたすら貪欲なロシアに飲み込まれてしまうのだ。ロシアは国際条約や協定を平気で破る。これが3国国民の共通認識。国の指導者がごっそりシベリヤに抑留された経緯もあり、ロシアによるジェノサイドへの反発が根付いている。
ソ連時代に流入したロシア人には、忠誠心が確認できた者以外には容易に国籍、選挙権を与えないことで、ロシアからの政治工作を防ぐ。それでもロシアによる政治家買収が摘発されるのだ。文化面で重要なのが国語対策。3国はそれぞれの固有言語への優先を強化し。ロシア語を排除しようとしている。第二外国語もロシア語から英語等へと切り替えを進めている。
では3国はなぜ合併しようとしないのか。「三本の矢」で束ねれば強くなるはずだ。だがその考えはない。それは固有住民のルーツが違うから。その最大要素が言語。19世紀末から固有言語を体系化し、表記の整理などが行われてきた。それが3国それぞれの国語に集大成しつつある。リトアニア語とラトヴィア語はまだ縁戚だが、エストニア語は体系が違い、フィンランド語やハンガリー語と祖先を共通にする。
ところで3国の位置関係はわかるだろうか。リトアニア、ラトヴィア、エストニアは南からの順。それぞれにゆかりの日本人では、杉原千畝、小野寺信、把瑠都。
杉原さんはユダヤ人に発給した命のビザで日本人の精神的誇り。
小野寺さんは大戦末期、スターリンの参戦を見抜いて報告した現地公使館の武官。しかるに外務省はこれを握りつぶし、何と対米和平交渉をスターリンに依頼しようとした間抜けぶり。小野寺情報を活かし、幸福を早めていれば、スターリンの火事場泥棒的侵攻を防げ、北方領土を占拠されることはなかった。
把瑠(ばる)都(と)はエストニア人の大相撲力士だった。彼の影響で同国では相撲が盛ん。
最後に、2008年の経済危機への対応について。わが日本では財政拡大。政府借金を増やし、国民や企業が政府にたかる姿勢が高まった。3国では基本的に財政緊縮。社会保障の効率化などで乗り切った。その際注目されるのは、選挙では緊縮派の政党がおおむね勝利し、バラマキ派は大敗している。民度の点で、日本とバルト3国、どちらに軍配を上げるべきか。

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