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408関空被災とフェイクニュース

3年前の台風21号(9月4日)の強風によって流されたタンカーが連絡橋にぶつかった事件を覚えていますか。
近畿地方の空の玄関、関西国際空港(関空)は大阪湾を埋め立てて造られており、連絡橋でつながっている。衝突でその橋がずれてしまい、鉄道も車もほとんど通れなくなった。8千人ほどが空港内に閉じ込められ、不安な一夜を明かすことになった。
3年も前のことで記憶は薄れているが、鮮明に残っているのが、「中国政府がバスを差し向け、中国人を救出した。その際、台湾籍の人も申請があれば人道的に同道させた」というニュースだった。
日本政府は何をしていたのかと強い憤慨を感じたのを記憶している。

ところがこのニュース自体がまったくのウソ。フェイクだったという。産経新聞『話の肖像画』に登場中の台湾中日経済文化代表処代表である謝張廷(しゃちょうてい)さんが証言している(第11回2021年9月11日)。
― 中国メディアが「中国の駐大阪総領事館がバス15台を緊急手配して、中国人を優先して救出した」と相次いで報じました。これがフェイクニュースです。関空側が救出措置として、高速船やバスで旅行客らを避難させたのが確認されている事実で、中国のバスは空港には行っていません。一方、救出を待ちながら関空で孤立していた台湾の旅行客は不安を感じていたし、台湾メディアは中国の大阪総領事館にはできて、なぜ台湾の大阪便事処は救出に行けないのかと、強硬に批判を繰り返したのです。 ―
日本のマスコミで、これをフェイクとしていたところはなかったと思う。中国政府の英断、美談として持ち上げるものだった。(間違っていたら当時のボクの注意散漫。潔く反省する)。
激しい批判に追い込められた大阪便事処(台湾の大阪総領事館に相当)の蘇(そ)啓(けい)誠(せい)処長が9月14日に自殺したと、謝さんは述べている。マスコミ報道が正しかったとしても、自殺に追い込む必要があったのかと思うし、フェイクだったとすれば、それを裏取りせずに騒いだマスコミの責任は重い。

ネット記事を追っていくと、取り残された旅行客がバスで救出されたのは事実だが、そのバスを手配したのは関空だったという。そうすると疑問が残る。なぜ関空や日本政府は、関空がバスを手配して早急な旅行客の救出をしたのであるという事実を、マスコミを通じて世界(特に中国と台湾)に発信しなかったのか。そうすれば関空は事業者責任をしっかり果たしていたと、逆にプラス評価を得られたはずだ。そして台湾の蘇処長は命を投げ出すことにはならなかった。関空や日本政府がフェイクニュースに厳しい怒りを表明していれば、警察にフェイクニュースの仕掛け人への追求捜査を促すことになったのではないか。

指摘されたことが事実であれば潔く謝る。これは民主主義社会の構成員のあり方だ。これは同時に、批判が事実でない場合には、周囲から雷同して責められても、一身を賭して反論しなければならない義務とセットなのだ。そうでなければフェイクを事実として認めることになるからだ。
この点、日本人は、前者の反省については満点に近いが、後者の反論については落第点だ。いわゆる慰安婦、いわゆる徴用工、いわゆる南京大虐殺…。なぜこれらが蒸し返されるのか。日本人の行動パターンが自ら引き起こしているのである。
3年前の関空事件も同じ構図だった。蘇処長の遺族が、「自殺は日本政府や関空によるフェイクニュースに対する適切な対処の欠如が原因だ」として賠償請求を求めてきたらどうするのだろう。「台湾の人は親日だからそのようなことはしない」かもしれないが、危機対応の検討事例にはなるはずだ。

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