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【アイズワイドシャット】のイケてるところ

キューブリック見直しキャンペーン

私だけが開催中のキャンペーンのため、以前観て意味がちんぷんかんぷんだったアイズワイドシャットを改めて観た。
今観てもちんぷんかんぷんだったけど、やっぱりどう考えてもこの映画はイケてる。

まだ観たことない人におすすめしたい。
あなたは観た後で全ての謎が解けないタイプの映画は苦手ですか?この映画は、もといスタンリー・キューブリック監督の映画は、観た後の人間にむしろ謎を投げつけてくるタイプです。
あなたは映画にカタルシスを求めますか?スタンリー・キューブリック監督の映画は、観た後の人間に切っても切っても切れない痰を仕込ませてくるような釈然としないタイプです。

それでも私はおすすめします。
なぜならイカしてるから。

あらすじ

開業医のビルと妻アリスは友人宅でのパーティーに出掛ける。そこでビルは友人でありパーティーのホスト・ビクターにバスルームに呼び出される。ビクターは愛人とセックス中、愛人が麻薬中毒で倒れたため、慌てて主治医でもあるビルを呼んだのだった。
一方、アリスはある男性に積極的に迫られていた。夫がいると誘いをかわすが、その表情は満更でもない。

翌日、あのパーティーで別の異性と接近していたことを互いになじり合っているうちに、アリスが過去を独白し始める。
数年前、家族旅行先で見掛けた男から目が離せなかった。もしも彼に誘われていたら、私は寝ていただろうと。

ショックを受けたビルは、患者の訃報にかこつけて家を飛び出し、夜の街を欲望に従って歩き回る。
そのうちに奇妙な儀式に紛れ込むのだった。


欲望のタガが外れたら

ビルはハンサムで開業医で地位もお金もありながら、女遊びに縁のない男。彼が妻の欲望を知ってしまったその時から、自分の欲望に対して開き直り直り始めるのを見てるのがめちゃくちゃ楽しい。
タガが外れたというのは少し違うかもしれない。スポーンと何がが外れたとかすっぽ抜けたというよりも、ビルの場合はじわじわと、恐る恐る、「この蓋、取っちゃってもいいよね…男ならみんな取ってるんでしょ?…アリスだってさ…若い男に欲情してるんだし(ぐすん)」というような、弱々しい理性の残り汁。最高。もっと苦悩しろ。

その蓋を外してみた結果、誰とも寝ることはなかった。浮気をしてみようとはするのだけど、なにかと行き違いが起きて事には及ばない。
それどころか、ある儀式に潜入したことから彼はだいぶ怖い目に遭うことになる。
これって思春期男子みたいだ。
他者の欲望を知ってしまう→自分の中の欲望が顔を出す→みんなもやってるんだからいいだろう→開き直ると少し自己嫌悪があり→誰かに見られてる気になり→誰かに追われている気になる

ビルを思春期男子扱いしたことは反省しつつ、この一連の挙動に、私は「面白可哀想」という初めての感情が止まらない。そしてだいぶ可愛い。

キューブリックのお料理は

キューブリックが【夫婦】をお料理すると、こんな事になる。奇才が過ぎる。

例えば中盤に登場する仮面パーティーはいわゆる○交パーティーなのだけど、キューブリックがお料理すると仮面の儀式になる。
しかし考えさせられる。
美しい女性ばかり集められ、男性の合図で女性側から男性の元に進み、全裸で誘導までしてくれる。仮面は着けているけど欲望は剥き出しだ。現実離れしているようでよっぽど俗世間的かもしれない。

一方で序盤の仮面なしのパーティー。
こちらは顔は剥き出しだがみんな作り笑いで回りくどく口説き、思わせぶりにかわす。
「お前ら顔を出すと欲を隠し、顔を隠した途端節操ないよな」と指摘されてる気がする。

ちなみに「人間=パーソン」という言葉の語源は「仮面=ペルソナ」にある。
人間と動物の違いは、仮面を被って生きているかいないか、というわけだ。

トイレは人間性出る

トイレ(欧米でいうバスルーム)がとても重要なシーンを担っている。

まずはパーティーに出かける準備をしているシーン。
ビルはバスルームの鏡で身支度をし、すぐ後ろではアリスがシャーシャー用を足している。

どちらか待てんのかい。

と思ってしまった。
夫婦って慣れきってしまうとこうなるのだろうか。

もうひとつはビクター宅のバスルームだ。
愛人が麻薬中毒者だと分かっていながら、しかもバスルームの外には妻や多くのパーティー参加者がいるのにも関わらず行為に耽り、結果愛人は生死の境をさまよった。

共通していえるのは、トイレは人が仮面を外すところ、ということだ。

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