【小説っぽい日記】癖
無意識にやってしまう癖というものは、気をつけていてもなかなか矯正できるものではない。
例えば、小さな脳みその中で膨らみ続ける考えが爆発寸前まで大きく広がってしまったとき、なぜか思考は停止する。流れ続ける水が一瞬で氷漬けになってしまったような沈黙の中、私の指は右足の裏に向かい、せっせとかかとの皮を剝きはじめる。剥こうと思っているのではなく、無意識に。
何度も皮をはがしたかかとは固く、足首へとつながる縁の部分は粉吹きのように白くなっている。そこを爪で何度もこそぐようにすると、次第に正常になりかけている皮が浮いてきて、するーっと剥ける。その瞬間が小さな快感を生んでいた。
しかし、皮が途中で剥がれ落ちてしまうこともある。そうなると固い皮が小さな棘のように隆起して、なんとも気持ちが悪い。すべてを中途半端に放置したような不快感にかられた私は、また爪で掻いて無理やり皮を剥がす。すると、針を刺したようなピリッとした痛みが走り、足裏を見てみると血の色をした肉が覗いていた。ようやく私は我に返り、またやってしまったと後悔の溜息を吐くのだ。
この癖はほとんど無意識のうちに始まったものだから、いつ頃やりだしたかはよく覚えていない。ただ、おととしの夏は何も考えずにサンダルを履けたが、昨年の夏からはかかとを気にしていたように思う。左のすっきりとしたかかとに対して、真っ白く変色したかかとの不気味さを、誰よりも私自身が感じている。それなのに……、今年の夏もまた、胸を張ってサンダルを履くことができなかった。
皮を剥ききって真っ赤になった右のかかとを見つめながら、癖というものはもう一人の人格なのかもしれないと考える。思考の外から、私にとって不利益なことを行い続けるこいつ。いつか、もし、こいつが私の人格に成り代わることがあったとしたら、私はどんな癖をもって、こいつに反抗するのだろうか。
そんなことを考えながら文章を書いていると、右のかかとにぴりっと痛みが走ったのだった。