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【読書】「土・牛・微生物」 デイビッド・モンゴメリー著 片岡夏美訳

まさに目から鱗な常識を覆す本。畑といったら耕さないと始まらないだろうと大半の人が思うが、畑に犂を入れることは間違いだというのだ。家庭菜園とはいえ家の畑を毎日眺めている私には驚きだった。

トラクターや犂を用いて土を耕すことで土壌が雨や風の浸食に弱くなり土壌が流出していく。何世代か経過するうちに肥沃度は無くなり下層土が露出することにより、全く作物が育たないやせ細った畑になってしまうのだ。古代文明ではそれが遠因となって滅んだものもあるし、19世紀アメリカでは断続的な砂嵐「ダストボウル」のような人災を引き起こした。

やせ細った土地の農民はどんな行動をとるか?より化学肥料の使用を増やして増産を図るようになる。しかし、収穫量は増えることはなく、そのほとんどが土壌には吸収されずに河川に流されて湖や湾のアオコ(有害藻類ブルーム)の発生につながり環境を破壊している。収穫はあがらず化学肥料等のコストは増大して利益は少なくなる。

このように、にっちもさっちもいかないアメリカ農業の絶望ともいえる実態が浮き彫りになっている。このあたりは菅 正治 (著)の「本当はダメなアメリカ農業(2018/6/14)」も詳しく書いていて、職業の中で農家の自殺率が上位に入るといういたたまれない現実をリポートしている。

ではどうすればこのような絶望的な慣行的農法から脱却できるのか。著者は世界中を駆け巡り、土壌の健康を守る農業を実践し啓蒙している農家の事例を数多く紹介している。キーワードは「不耕起栽培」、「被覆作物」、「輪作」の3つ。この3点を実行し土壌肥沃度をあげれば、化学肥料や農薬の過剰な使用を抑えることができ、農家の手元に残る利益も増え、環境に与えるダメージも少ない持続可能な農業が可能になる。

あまりにもいいことだらけなのに何故この農法が広まってないのかも本著で書かれているので興味のある人は読んでみて欲しい。ちょっと自分も畑でこの方法を試してみようと思った次第。

目次

第1章 肥沃な廃墟―人はいかにして土を失ったのか?
第2章 現代農業の神話―有機物と微生物から考える
第3章 地下経済の根っこ―腐植と微生物が植物を育てる
第4章 最古の問題―土壌侵食との戦い
第5章 文明の象徴を手放すとき―不耕起と有機の融合
第6章 緑の肥料―被覆作物で土壌快復
第7章 解決策の構築―アフリカの不耕起伝道師
第8章 有機農業のジレンマ―何が普及を阻むのか?
第9章 過放牧神話の真実―ウシと土壌の健康
第10章 見えない家畜の群れ―土壌微生物を利用する
第11章 炭素を増やす農業―表土を「作る」
第12章 閉じられる円環―アジアの農業に学ぶ
第13章 第五の革命


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