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「誰かの為に, ではなくあなたの為に. あなたの為には自分の為に」-羅針盤#6

2018年度の東南アジア青年の船も終わり,2019年度の募集もいよいよ始まりました.2019年第2弾のインタビューは,筆者と同じ2017年に東南アジア青年の船(以下,東ア船)に参加した杉浦真吾さんです.

インタビュイープロフィール
所属:東京外国語大学
専攻:マレーシア語,古代ギリシャ文学
その他の活動:多摩市若者会議の運営(まちづくり)
※「東南アジア青年の船」に関する詳細は,こちら内閣府のウェブサイトをチェック!
※2019年度の募集要項に関しては,こちらを参照ください.

———よろしくお願いします.最初に簡単に自己紹介お願いします.

 杉浦真吾です.今は東京外国語大学の4年生です.専攻言語はマレーシア語なんですが,大学で主に勉強してるのは,ギリシャ文学と国際政治です.

——東ア船に参加したのは2017年(第44回)ですが,東ア船はいつ知りましたか?

 東ア船を知ったのは,ちょうど参加する1年前です.大学のマレーシア語学科の先輩が自分たちの前の43期で乗ったんですね.それで,その先輩と結構仲良かったし尊敬している先輩だったから,その先輩を通じてまず東ア船の存在を認知しました.徐々に魅力を感じていったのは,その後で,その人が帰ってきてからすごいアクティブにいろんな活動をし始めてたんですよ.その先輩は,東ア船に参加する前とした後で明らかに生き方がすごい変わったと端から見て思って,すごい興味を惹かれました.

———それで応募しようと思ったんですか?

 もともと海外に興味はあったし,東南アジアにもすごい興味があったんですけど.海外留学をしようとは思ってなかったんですよ.僕は結構ひねくれてるから,「マレーシア語学科だから,マレーシアに1年間留学してマレー語学んで帰ってこよう」みたいに, 目的意識とかも特になく, 何となく留学に行くようなキラキラ系大学生がすごい嫌いだったんですけど,短い期間でも海外に行って,「俺はこれを得たぞ」みたいなものが欲しいなあとは思ってました.その中で,東ア船はそれになるな,とその先輩を見て,その先輩と喋って思ったから,応募してみようと思いました.
 それと,大学で前からお世話になっている着付けの先生がいて,その人も「青年の船」(※東ア船の前身の事業)出身だったんですよ.その人もいろいろ後押ししてくれたのも,応募を決めた一つの理由でしたね.ちなみに東ア船の準備の時に僕が皆に着物の着方を教えられたのは, その先生のおかげです.

———応募する前は,東ア船に対してどんなイメージを持っていましたか?

 うーん,特にはないですね.自分たちの前に参加してた人たちを見て,代によって色が違うんだな,という印象くらいしか持ってませんでした.内閣府のウェブサイトを見ていろいろ調べてたんですけど,事業のリアリティみたいなものはあんまり感じられませんでした.ただ,さっきの先輩を見て,すごい熱量が高い事業なんだなとは思ってました.

———参加する前に,こんなことしたい,みたいなことはありましたか?

 大まかですが,この事業に参加することを通して日本を知りたいと思ってました.これまで日本を代表してきたことがないのと,「全然日本のこと知らないじゃん」って言われたことがコンプレックスとしてあったので,漠然とですが「日本を知って帰ってきたい」と思ってました.

———実際東ア船に参加して,日本を代表して色々やってきた中で,「日本を知る」という目標に関してどれくらい達成できたと思いますか?

 100で測ると,3くらいですかね(笑)東ア船のために,着付けとお茶をはじめて,高校時代にやってた柔道もまたやり始めたんですけど,それらを東ア船で実践する中でいろいろな発見がありました.例えば,柔道をやってる中で,先人が紡いできた歴史に思いを馳せたり,なぜ受け身を最初に習うのか, 根底にある「道」の哲学を勉強したり, 過去と現在の相違を発見したり.今まで「文字の上」でしか知ることがなかったことを,実際に体験を通じてさらに理解が深まった感じがあります.特にナショナルプレゼンテーションなんか,あれだけの時間をかけてやったのに,まだ知らないことがあるので,それで3ということですね.

———じゃあ残りの97は,これから頑張ると(笑)

 一生100にはならないと思うけど,今足りてない97を,92にでも,50にでもして行けたらいいなと思ってます.

———東ア船に乗って,乗る前にあった「熱量が高い」というイメージは変わりましたか?

 変わってないですね.しかも,船に乗ってるときでも今でも熱量が高いことをひしひしと感じています.しかもそれが自分事になったというか,今まで客観的にみて「熱量が高い」と思ってたのを,実際に体感して「熱量が高い」と思ったので,尚更「熱量が高い」ということを強く思いました.

———東ア船を通じて一番印象に残ってることは何ですか?

 ルームメイトですね.僕のルームメイトはベトナムとラオスの参加青年だったんですけど,ラオスの参加青年の人が英語があまり得意ではなかったんですよ.一方ベトナムの参加青年は英語教師をやってたので英語が得意だったんですね.それで,ラオスの参加青年がベトナムの参加青年の人に英語を教えてほしいと頼んでたんですが,自分でもびっくりするくらいそのベトナムの参加青年が熱心に英語を教えてたんですよ.それは自分の得意分野であるからということもあるんでしょうけど,あんなにも熱心に人の為に何かをすることができるという点で,人間の温かみを感じましたね.あとは, その二人の熱意には驚かされました. ラオス人の友達は少数民族で小さな村の出身だったのですが, それで大学に行けて, この事業にも参加できて, とこれまでお世話になった人へ恩返しをしようという意識が非常に強かったです. 毎晩寝ながら「卒業したらビジネスを起こして地元に還元できるようにするから, 真吾も手伝ってくれ」と言われていましたね(笑)

———その経験が今の自分に与えた影響はありますか?

 直接的に与えた影響というわけではないんですけど,まず第一に自分が人に対して真剣にやさしく接しようと思いました.そして,ああいう空間を自分たちが生きる現実社会に実現したいからこそ,自分が与える側,受け取る側どちらの立場に関わらず,自分が他人にやさしく接することによって,そういう「やさしさの輪」みたいなものを他人に広げていきたいな,と思うようになりました.あとはパブリックマインド(公共精神)に対する姿勢が変わりました. これまでは何となく「誰かのために」と思って活動していたんですが, 東ア船を通して「誰かの為に, ではなくあなたの為に. あなたの為には自分の為に」 という意識になりましたね. 僕はいつも金欠でヒイヒイ言っているんですが、社会関係資本は多いぞ!と思ってます(笑)それで今振り返って,東ア船が終わった後後輩たちと飲みに行くことが増えたなあって思います.

———その「飲み」でいま思い出したんですけど,誰かが「真吾はお酒の力を使ってディープなコミュニケーションができるから羨ましい」と言ってました.船の中で,その「飲みニケーション」にまつわる思い出深いエピソードはありますか?

 もちろんあります(笑)何と言っても僕らはSG-Dという,「SG Drink」というグループだったので(笑)それは置いといて,その「飲みニケーション」の場で,公の活動の場所では話せないようなことをたくさん話せたことがとても大きかったです.たとえば,「お前の国の政治についてどう思う」とか,それぞれの将来のビジョンとか,第2次世界大戦の話とか.そういう会話から得た学びや気づきは本当に大きかったです.

(仲間と部屋で乾杯するシーン)

———その中で特に印象深かった話はありますか?

 インドネシアの参加青年とした話が特に印象に残っています.彼は日本とインドネシア,日本と東南アジアとのかかわりについて,第2次世界大戦まで遡って,「インドネシアの立場から」いろいろ赤裸々に話してくれました.彼は,インドネシアは,他の東南アジア諸国に比べたら,第2次世界大戦のときに日本にやられた,という意識はあまりないと言っていたんですが,それでも東南アジアをめちゃくちゃにした事実は変わりない,ということを真剣に語ってました.それでも,戦後復興の時は日本からの支援によって生活が劇的に改善した,そのことにとても感謝してる,とも言っていました.そうやって極端に「善悪」を決めないで物事を見ることにまず感心しました.一方で,今日本のプレゼンスが下がってる中で,「今,自分たち東南アジア諸国が日本を求めている以上に,日本が東南アジア諸国を求めているんじゃないか?」ということを言っていました.実際,インドネシアの優秀な学生は,日本よりアメリカや中国に留学に行きたがる人は多いそうです.そこで,「自分は日本が大好きだからこの状況をどうにかしたいと思ってるんだけど,どうしたらいいと思う?」という問いを僕に投げかけてくれたのと同時に,一緒に考えよう,とも言ってくれました.

———最後になりますが,今後,東ア船で得た経験をどのように活かしていきたいですか?

 さっきも少し話したんですが, 「やさしさの輪」を作ることと, 「社会への還元」を軸に活動していこうと思っています.
 実はこの夏まで, 僕は国家公務員を目指していました. 何となく人の為に仕事しているイメージがありますし. でも試験には受かったんですが, 官庁訪問の最後の面接で落ちてしまいました. 「君, 役人向いてないよ」と言われ(笑). その後色々考えてたんですが, 確かに僕は役人向いてないなと思いました. 顔が見えない不特定多数の誰かの為に, ひたすら頑張るのがやっぱり公務員なんだなーと実感した反面, 僕はそこまで顔も見えない人のために頑張れるほど出来た人間ではないなと. 頭では, やった方が良いんだろうとは思うけど, あまり感情の部分まで揺さぶられないイメージです. どちらかと言うと, 「愛するあなたの為に」と言う感覚の方がしっくり来ました. もちろんその「あなた」を広げる為に, 様々なところに顔を出し, 交流する努力はしてきているとは思うのですが, 流石に日本人1億2800万人全員への愛って難しい. そして海外に住んでいる数千人の友達のことはどうするんだという問題も大きかったです. なので, 最近は物理的な距離とかは関係なく, 心理的に僕に近い愛する人たちを中心に, 優しさの輪を作っていきたいなと思っています. その僕から発信した優しさを受け取って, その人がまた, その人の近い愛する人を優しさで包んであげられたら, どんどん芋づる式に, この世界は少し良い世界になるだろうと思っています. そういう, 小さな努力, 小さな愛で, 少しずつ愛を, 優しさを増やしていけたら良いなと. 僕の好きな英語のフレーズ’’Slowly, but surely’’という感覚です.
 今僕は多摩市の嘱託職員をやっているのですが, それも今では愛着のある地域・人の為になる活動であると思っていますし, 昨年にインドネシアのPaluというところで大震災が起こった時にささやかながら支援したのも, そのような心からです. インドネシアの参加者には, まさにこの地域出身の人がいましたし, この支援活動を頑張っている参加者もいました. 今年度の東ア船の神奈川でのディスカッション活動を手伝ったのも, 愛着のある東ア船の後輩たちの学びを増やしてあげる為. それと社会人になったら, 同じ東ア船仲間の1人と一緒に人材系の会社で働きます(実は二人とも既にインターンとして働いているんですが). 海外の優秀なエンジニアを採用してきて, 日本に連れてきて, 日本の企業に紹介する仕事です. 僕は今ベトナムの採用担当兼, エンジニア達の日本語研修を担当しています. 東ア船でベトナムのことが大好きになったので, その同じベトナム人のエンジニア達の, 日本で働きたい!という望みを叶えてあげたいと思っています. またどこの国・地域の出身者でも一度は僕の日本語研修を受け, 必死に僕の言うことを吸収しようと頑張ってくれるので, 彼らの為に良い授業をしよう, 良い職場を紹介できるようにしようと, 日々思っています.  

 (同じ会社で働く予定の東ア船の同期との写真)

 何よりも, 「あなたの為に」というのは, 僕自身がとても納得できるスタンスなんですよね. そりゃ愛する人たちが笑顔になったら嬉しいじゃないですか. もちろん願わくば僕の隣で笑顔になってくれたらもっと嬉しいですけど. だから, その人たちの笑顔を作るのって, 実は自分の為なんだなと最近すごく思うんです. 人の為になることをして, 自分も楽しくなるって, 一石二鳥ですよね.
 こういう僕なりの社会還元の意識を持てたことは, 本当に東ア船のお陰だと思っていますし, ここで得られた意識を, 今後の生活・活動でバンバン活かしていこうと思っています!

 皆さん, これからもご指導ご鞭撻のほど, よろしくお願い申し上げます!

(編集後記~ざーたくの戯言#6~)
 「誰かの為に, ではなくあなたの為に. あなたの為には自分の為に」
 不特定多数の人に愛を与えるのは難しい-記事中でもそのようなことを杉浦さんは言っていますが,私もとても同感します。「なるべく多数」を志向すると,やはり一つ一つの行動が最大公約数的になってしまって,個別具体性に欠ける分,一人ひとりに対する訴求力が低くなってしまう。実はこの羅針盤は,「誰でもいいから,偶然東ア船を知って救われる人がいれば」という想いで始まっていますが,これは「誰か」と「あなた」の中間なのではないかと思っています。私がこの記事を読んでいる人を知らないという事実,これは「誰か」を対象にしてるからであり,かつ「東ア船を知って,あの時の自分のように救われてほしい」,このことは私にとっては具体性を持った「あなた」でもあります。「誰か」でもあり「あなた」でもある,そんな曖昧性を持った企画ではありますが,必ずや救われる「あなた」がいるであろうことを信じて,これからも記事の発信を続けていきたいと思っています。

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※東南アジア青年の船に関する詳細は,こちら内閣府のウェブサイトをチェック!
※「東南アジア青年の船」に参加した青年たちの物語を紹介する本プロジェクト「羅針盤」に関する詳細はこちら
※2019年度の募集要項に関しては,こちらを参照ください.

※本note,及び「羅針盤」ウェブサイトに掲載されている内容の一切は,「東南アジア青年の船」事業主催である内閣府の公式見解ではありません.