7日間ブックチャレンジ
2年前、2020年の春、緊急事態宣言の折にFacebookで回ってきたチャレンジ。その時にあげた本と文章をまとめておきます。動きの止まった何ヶ月でしたが、立ち止まり、これからを見つめ直す良い時間だったと思います。
Day 1「ソース 〜 あなたの人生の源はワクワクすることにある」
マイク・マクナマス
訳/ヒューイ陽子
VOICE 1999
ロバート・ハリスの「人生の100のリスト」に刺激を受けてリストを作り出したら、30個もリストアップすることができなかった。私がやりたいことって何だろう?と考えていた時に出会った本だったと思う。
自分がやりたいことなんでも書き出していいんだ、と書き出してみたら、「ジャムを作る、アップルパイを焼く」とかほんと些細なものもあったけど80個ぐらいは出せた。そうこのリストこそ私を形つくるものなのだ、と思った。
できていないものも多いけど、「通訳ガイドになる」とか「パタゴニア で働く」とか、まるでダメだろう、と思っていてことでできたこともある。
「時間がない、疲れている、お金がない、家族が許してくれない、他にやることがたくさんあってできない、仕事があるから、それだけの才能がない、etc これらはすべて言い訳です。」とあった。そうなのかもしれない。
子育てロックイン状態の頃、私は自分の苛立ちを他のせいにしていたのだ。些細なことでもやりたいと思ったことをどんどんやって行くと、心が満たされていったような気がする。そして他人にも優しくなれていったような気がする。
ワクワクを生きることは自分らしく生きること。それは社会にとってもとても良いことなのだ、とこの本に出会ってからそう思って生きている。
「ソース ~ あなたの人生の源はワクワクすることにある」マイク・マクナマスhttps://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784900550131
ついでに「人生の100のリスト」ロバート・ハリス
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784062812054
Day 2「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」
Sous le ciel de Paris, ça sent bon des omelettes
石井好子
暮らしの手帖社 1963
フランスへの憧れの始まりは胃袋から。
何度も読んで覚えてしまった数々の料理。フランス語を勉強したいな、と思ったのはこの本がきっかけのだったのは確か。フランスに行ってレストランに入って、美味しいものを食べるため。実際にフランスへ行ったのはだいぶ後になってからだったけど、Quartier Latinのフツーのレストランで注文できた時は嬉しかった。
暮らしの手帖社の料理本は「ロイヤルホテルの家庭料理」も好き。文章の通りに作ればちゃんとできあがるんだもの。
暮らしの手帖社ウェブサイト
https://www.kurashi-no-techo.co.jp/books/b_1005.html
Day 3「山を遊びつくせ」
柏瀬祐之
白水社 1991(絶版)
私の沢登りの師匠 深瀬信夫 (遡行同人 梁山泊 発起人)など、豪快な先輩たちがたくさんいた。柏瀬さんもそのお一人。谷川の一ノ倉沢のルートを全部踏破したものの、登った気がしない、と一ノ倉沢全壁をトラバースした話は有名だ。日本全国沢だらけ、と出張のたびにあちこち登っていたエピソードも面白い。山の遊び方は人それぞれ、自由自在でいいんだな、と思ったものだ。
その昔「山と渓谷」「岳人」には数々の新しいルート開拓報告が競うように発表され、数々の議論があって盛り上がっていた。ツワモノの集う山岳会がたくさんあった。
今は山岳会が中心となって行う登山の形態は衰退し、ついに私たちの会(遡行同人 梁山泊)も3月で解散。私はへたれで大したことはできなかったが、たった4泊5日でも自分たちの力出試行錯誤しながら大自然の中にどっぷり浸かった冒険(滝登り、岩登り、渡渉、釣り、山菜きのこ、焚き火、藪漕ぎ)は、自由で楽しかった。山(沢)は自分史上最高の遊びだ。
・山の世界の諸先輩方に敬意を表します。
・数々の山の(沢の)本を出版してきた白山書房に敬意を表します。http://www.hakusanshobo.co.jp
・同じく数々の山の本(日本登山体系など)を出版してきた白水社に敬意を表します。https://www.hakusuisha.co.jp/smp/book/b210714.html
・同じく数々の山の本と雑誌を出版してきた山と渓谷社に敬意を表します。「岳人」を発行してきた中日新聞、東京新聞出版局、また岳人を買取り発行を続けるモンベル社にも敬意を表します。
・今はなき山の本の名店、茗渓堂(2011年7月閉店)に敬意を表します。
・山の本の古本は神保町の悠久堂書店へどうぞ。「アルプ」や「Fall Number」もたくさんあります。
https://yukyudou.com/
Day 4 “Glimpses of Unfamiliar Japan 知られぬ日本の面影 ”
Lafcadio Hearn(小泉八雲)
Tuttle E. Publishing 1976
130年前の日本
私のワクワクは日本。その原点となった本。学生のときに出会った。美しい、古き日本を知りたい衝動に掻き立てられた。文章の美しさ。こんな英語を綴りたいと憧れた。
2018年3月、初めて松江を訪れた。宿はハーンゆかりの大橋脇に建つ大橋館。窓から見える景色に何度も読んだ描写を重ね合わせた。橋を下駄で渡る時に出る音はどんなだったのだろう?柏手(出雲は4回)を打つ音があちこちから聞こえてきたのだろうか、宍道湖の落ち日はどんなだったのだろうか?など。
ハーンの足跡を訪ね歩いたり、ハーンの再話した怪談ゆかりの地を訪ねるツアーに参加して感じたのは、松江の人たちは時代の波に流されず、今でも彼の愛した雰囲気を大事にしている、ということだった。
Charles E. Tuttle Companyの本は他に” The Story of a Nation” by Edwin O. Reichauer、”MINGEI: Japan’s Enduring Folk Arts” by Amaury Saint-Gillesなど読みました。
Charles E. Tuttle Company チャールズ・イー・タトル出版のウェブサイトhttps://www.tuttle.co.jp/contents/compan
Day 5「野生のヒグマ K子 ヒグマとの共存の道を探る」
小田島 護
創隆社 ジュニアブックス 1984(絶版)
野生動物との共生を考える
山を始めたころ大雪山の縦走に行ったとき、ヒグマが怖くてしょうがなかった。恐怖に勝つには相手を知ることだ、と帰りに旭川の富貴堂で買った本。
私はやみくもに恐れていたことを恥じた。
「クマのみなさま、あなた方のお住まいに入らせてください」という気持ちがなかったと。
クマはもちろん、エキノコックス、ダニ、ヒルだってずっと昔からそこに生きていただけ。人間(登山者)が近づいただけ。人間は自分たちの利益のみ考える、という勘違いを犯してすぐ排除しようとするけど、排除、打ち勝つ、という考え方はもう止めよう。相手を知って尊重しよう。
虫(ダニ、ヒル)のいそうなところに行くときは長袖長ズボン、首にはタオル、ズボンの裾は靴下に入れる、脚絆を巻く、などの自己防衛を。虫除けは天然ハーブ系のものを。ヒルを剥がすには塩を。クマとはコミュニケーションを。
Day 6「アイヌの歴史 海と宝のノマド」
瀬川拓郎
講談社 2007
昨年、ツアー会社から北海道道東をリードしませんか、と話が舞い込んだ。北海道へは何度も大雪山の登山や周遊で訪れていたが、改めて向き合ってみると知らないことだらけ。。北海道の地図を作った松浦武四郎の足跡を調べるうち、和人のアイヌへのひどい迫害の歴史に心を痛めて意気消沈してしまった。同化政策で言葉も風習も記録もほとんどを失ってしまった民族。。ああ。。良い資料に当たれなくて、大局的に捉えることができず、私はごく普通のことしか語れなかった。。
思い悩んでいて、この本に出会った。そこには13世紀に最高の宝オオワシの羽(弓の材料として最上)を求めて海を渡り、サハリンで元(モンゴル)と戦うアイヌ、激しい格差社会のアイヌ、サケ漁をめぐって内部対立するアイヌ、和人と交流するアイヌ、生き生きとダイナミックに暮らしていたアイヌ民族の姿があった。
アイヌは文字を持たなかったが、その理由にしびれた。
「アイヌの古老が一様に博識で物覚えがいいのは、忘れてしまえば二度と取り戻せないという気持ちでいつもでも物事に接していたからであり、かれらは文字を知っていても自分の記憶を書き残そうとはしなかった。アイヌは紙に書かれた文字ではなく、人が発する生きた言葉を至上のものとし、それを聞き逃すまい、と耳を傾け、記憶に刻みこんできたのだ。人間としての教養や生き方が、文字の使用によって評価できるようなものではないことを、このエピソードはよく示している。」
文字を持たなかったのは彼らが敢えて選択したことなのだ。
立体的に浮かび上がるアイヌの姿に嬉しくなった。
講談社ウェブサイト
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000195361
瀬川氏の他の著作 「アイヌ学入門」にはアイヌの呪術が日本のケガレ感に影響を受けているのではないか、とある。こちらも興味深い。
「アイヌ学入門」
https://bookclub.kodansha.co.jp/title?code=1000024797
メモ:
文字を持たない、とは国家を持たないという選択でもある。あえて文字を持たなかった地域は東南アジアにもあって(ゾミア)、そこはいくつも部族が統一の文字を持たないことでお互いの部族を尊重しあっていた。国家による束縛を嫌ったのだ。アイヌにもそのような考えがあったのではないだろうか。
Day 7「こころの旅」神谷美恵子
みすず書房 2005
「神谷美恵子著作集3 こころの旅」1947 からの再編
本の最後のこれらの文章が心に残る。
「人間とは生命の流れの上に浮かぶ「うたかた」にすぎなくても、ちょうど大海原を航海する船と船とがすれちがうとき、違いの挨拶のしらべを交わすように、人間も生きているあいだ、さまざまな人と出会い、互いにこころのよろこびをわかち合い、しかもあとから来る者にこれを伝えていくようにできているのではないかろうか。」
「人間の心のよろこびは、愛し愛されること、あそび、美しいものに接すること、学ぶこと、考えること、生み出すこと」
「人間は心のよろこびがある限り、たとえ廃墟の中からでも新しい生活と文化を築いて行くことだろう」
みすず書房のウェブサイト
https://www.msz.co.jp/book/detail/08183.html
数ある本の中から7冊選ぶことができるだろうか、と心配しましたが、心の向くままに選んでみました。この7冊が今の自分の最大関心事ということかもしれません。
改めて私は本というメディアが好きだなあ、と思いました。これからも良い本を読み、良い本を出す出版社を応援し、良い本を取り揃えている街の本屋さんを応援していきたいと思います。
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