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人生初めて不倫した女の話

「不倫しよう」と思って不倫する人って、たぶんあまりいない。

既婚者側ならまだしも、独身側が敢えて既婚者を選んで「不倫しよう」って思うことは、まずない。

それなのに、私は不倫してしまった。


出会いは職場。関係部署の先輩。
第一印象は、顔が整っていて綺麗。長いまつ毛、高い鼻。びっくりするほど脚が長くてスタイルがいい。
近寄り難いオーラ、何となく怖そう。だってイケメンだし。

初めて会った時から、ずっと密かな憧れだった。
たまに関係部署に行く時に、少しでも姿を見れるだけで一日中幸せだった。
通勤電車がたまに一緒になると、前を歩く姿を眺めては元気をもらっていた。

ほとんど会話なんてしたことない。
会話するのは仕事の電話を回す一瞬くらい。
でも4年間ずっと電話を回し続けたら、私と話す時のその人の声が柔らかくなって、なんだか嬉しかった。

そんな淡い、片想いなのかもわからない憧れの関係がずっと続くはずだった。


今年3月、憧れの人に異動発表があった。
しかも外部の部署。きっともう会うことはなくなる。

最終日、勇気を振り絞って「ずっと推しメンでした」と言って、コーヒーを渡した。
彼は少し驚いた顔をして、飄々と「俺も推しメンだったよ」と笑ってくれた。

もちろん連絡先なんて書かなかった。
彼が既婚者で、子供が生まれたばかりだということを人伝で聞いたことがあった。
そして、私にも彼氏がいた。


帰り道、駐輪場で彼に会って声をかけられ、
「連絡先を教えて欲しい、ご飯に行こう」と言われた。
自転車通勤でもない彼がそこにいたのは偶然だったのか、それとも待ち伏せしていたのか、それは今となっては分からない。

憧れの人からのお誘い、完全に舞い上がってしまった。
それからはトントン拍子。
憧れの人の連絡先がLINEにあるのを眺めるだけで嬉しかった。毎日「おはよう」とLINEが来ると、朝からため息が出るほど幸せだった。

2週間後、2人でご飯に行った。
憧れの人は、真正面から至近距離で見ても、ずるいくらいに憧れの人だった。

「実は今日、奥さんも子供も家にいないんだ。帰りたくない」
手を繋がれながらそう言われた時、ダメだとわかっていてもホテルへ行った。

翌朝、カフェで朝ごはんを一緒に食べた。
眠そうな顔で、髪がボサボサの、無防備な憧れの人が目の前にいた。


その瞬間、もしかしたら人生で一番幸せだったのかもしれない。
憧れの人とのセックスよりも抱擁よりも。いつだって何気ない瞬間が、本当の幸せなのかもしれない。

気づいたら、ズルズルと不倫関係になっていた。

全く未来のない関係なのに、遊ばれているのはわかっているのに、憧れの人はずっと憧れの人だった。
早く憧れじゃなくなって欲しかった。

憧れの人は、「好き」とは絶対に言ってくれなかった。
「好き」と言ったら心が動いてしまうし、心まで奪ってしまうからと。

でも私が割り切ったような発言をすると「寂しいこと言わないで」と、「大切な人だから」と言ってくれた。

「こういう普通のデートがしたかった」って、彼の思い出の饅頭を2人並んで食べながら、眩しいくらいの笑顔で「これ絶対食べて欲しかったんだ」と言ってくれた。

本当にずるくて馬鹿みたいに好きになってしまっていた。


これが私が不倫したお話。
きっとありきたりなお話。






そんな甘い日々は長く続くはずもなく、1ヶ月後、全てがバレて終わった。

火花みたいなキラキラした火遊びは、あっけなく、おしまい。

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