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小匙の書室127 日本推理作家協会賞候補作


 ミステリの賞って、調べてみるとかなりの数があるので驚きます。

 年末の各種ランキングをはじめ、新人賞のほか、
 本格ミステリ大賞や作家の名前を冠した賞、そして、
 今回の話題である日本推理作家協会賞
 毎年、私はこれら賞を楽しみにしながらミステリ小説を読み進めているわけですが、先日3/15に第77回日本推理作家協会賞の候補作が発表されました👏


 まずは〈長編および連作短編集部門〉から。

『地雷グリコ』青崎 有吾(KADOKAWA)
『アリアドネの声』井上 真偽(幻冬舎)
『焔と雪 京都探偵物語』伊吹 亜門(早川書房)
『楽園の犬』岩井 圭也(角川春樹事務所)
『不夜島(ナイトランド)』荻堂 顕(祥伝社)

日本推理作家協会サイトより

 この中だと地雷グリコとアリアドネの声が読了済みでした。
 地雷グリコはとにかくエンタメとしても頭脳ミステリとしても爆発級に面白い。「早く続編を出してくれ……!」と私は射守矢真兎の活躍を待っているのです。しかも本格ミステリ大賞の候補にも挙がっているんですよ……?
 アリアドネの声は久しくうぉぉ、めっちゃ読みやすい!!」となった作品で、手に汗握る緊張の後に待つ結末にはくぅぅぅと噛み締めた歯の隙間から息を漏らすほどでした。アリアドネも発売から瞬く間におもしろさが広まっていきましたよね。

 その他の作品は書影は確認していたもののついに手に取ることはなく……候補に挙がるということはそれだけ面白い作品なのだろうなぁと、だけど読むことなく結果を知ることになるだろうなぁと、多くの積読を後ろに控える私は思うのでした。
 本当はそれら作品も全て読み切ってから賞に臨みたいのに……懺悔として、あらすじをご紹介します。

焔と雪伊吹亜門 著

 探偵・鯉城は「失恋から自らに火をつけた男」には他に楽な自死手段があったことを知る。それを聞いた露木はあまりに不可思議な、だが論理の通った真相を開陳し……男と女、愛と欲――大正の京都に蠢く情念に、露木と鯉城が二人の結びつきで挑む連作集

早川書房サイトより

楽園の犬岩井圭也 著

 時代が大きなうねりを見せる中、個人はどこまで自分の考えを持つことができる のか? そして、どこまで自らの意思を通すことができるのか? 南洋の地を舞 台にした壮大な物語がここに――。 1940年、太平洋戦争勃発直前の南洋サイパン。日本と各国が水面下でぶつかり合 う地に、横浜で英語教師をしていた麻田健吾が降り立つ。表向きは、南洋庁サイ パン支庁庶務係として。だが彼は日本海軍のスパイという密命を帯びていた。日 本による南洋群島の支配は1914年にさかのぼるが、海軍の唱える南進論が「国策 の基準」として日本の外交方針となったのは1936年だった。その後、一般国民の 間でも南進論が浸透していった。この地にはあらゆる種類のスパイが跋扈し、日 本と他国との開戦に備え、海軍の前線基地となるサイパンで情報収集に励んでい た。麻田は、沖縄から移住してきた漁師が自殺した真相を探ることをきっかけ に、南洋群島の闇に踏み込んでいく……。

角川春樹事務所サイトより

不夜鳥荻堂顕 著

「ほんの一瞬だけなら何でも手に入れられる、俺の唯一の特技だ」
 第二次世界大戦終結後、米軍占領下の琉球。その最西端の与那国島では、一本の煙草から最新鋭の義肢まで、ありとあらゆるものが売買される密貿易が行なわれていた!腕利きのサイボーグ密貿易人・武庭純は、ある日顔馴染みの警官からとんでもない話を耳にする。終戦とともに殺人鬼と化した元憲兵が島に上陸したというのだ。元憲兵探しに乗り出した武だったが、時を同じくして、謎のアメリカ人女性から 「姿も形も知れない “含光” なる代物を手に入れろ」という奇妙な依頼が舞い込んでくる。相棒の島人とともに奔走する武は、やがて、世界を巻き込む壮絶な陰謀に巻き込まれていく……。 琉球と台湾の史実をもとに描き出す、 サイバーパンク巨編!
 一攫千金の夢が渦巻く欲望の“街”その男は、ただ魂を求めた──

祥伝社サイトより

 ──そして〈短編部門〉がこちら。

「一七歳の目撃」天祢 涼(別冊文藝春秋3月号掲載)
「夏を刈る」太田 愛(光文社『Jミステリー2023 FALL』収録)
「消えた花婿」織守 きょうや(オール讀物7月号掲載)
「ベルを鳴らして」坂崎 かおる(小説現代7月号掲載)
「ディオニソス計画」宮内 悠介(紙魚の手帖vol.14掲載)

日本推理作家協会サイトより

 天祢涼先生が候補に入ってる〜〜〜!!!!
 2012年に単行本が刊行、2015年に文庫化され、2022年に再文庫化された『葬式組曲に収録の『父の葬式』もまた2013年の推協賞短編部門候補に挙がっていたのです。それから11年ぶりの再登場。
 その『一七歳の目撃』は現在刊行されている『少女が最後に見た蛍に収録されている、一七歳の高校生を主人公にした、社会派ミステリの短編です。
 ひったくり現場を偶然目撃してしまった高校生の葛藤と、ホワイダニットが至高なのです!
 受賞したら嬉しいなあ。

 また、宮内悠介先生も、同じく2013年に『青葉の盤』で候補に挙がっていたので、ここが揃うのはなんとも面白い偶然。
 そしてこの中ですと、太田愛先生の『夏を刈る』は積読しているので時期を見て読めたらなぁと思っています。

 短編部門に関しても、未読かつ手元にない作品はあらすじだけでもご紹介。これが私にできる精一杯の盛り上げ……!

消えた花婿織守きょうや 著

深谷宿近くで見つかった首無し死体の噂は江戸にも届き……

文藝春秋BOOKSサイトより

ベルを鳴らして坂崎かおる 著

タイピストの少女と中国人の先生。たった一つの活字が時を越え、海を渡る。

treeサイトより

ディオニソス計画宮内悠介 著

一九六八年、アフガニスタンで起きた二重密室殺人。密室を構成するのは周囲の視線と、銃痕のない宇宙服――

東京創元社サイトより

 〈評論部門〉はこちら。
 以前には阿津川辰海先生の『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』が候補に挙がった(こちらは本格ミステリ大賞の〈評論・研究部門〉を受賞)こともあるので、普段から馴染みない畑ではあるものの、ミステリ評論本というのはミステリの造詣を深めるためには必読なのです。
 候補作はどれも未読なので、あらすじをご紹介。

『舞台の上の殺人現場 「ミステリ×演劇」を見る』麻田 実(鳥影社)
『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 戦後翻訳ミステリ叢書探訪』川出 正樹(東京創元社)
『江戸川乱歩年譜集成』中 相作・編(藍峯舎)
『謎解きはどこにある 現代日本ミステリの思想』渡邉 大輔(南雲堂)

日本推理作家協会サイトより

舞台の上の殺人現場 「ミステリ×演劇」を見る麻田実 著

ホームズ、クリスティから、現代社会の謎の深淵まで
〝ミステリ演劇〟の魅力のすべてがこの一冊にちりばめられている!
だます!だまされる!ナマで見るサスペンス劇ガイドブック

鳥影社サイトより

ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 戦後翻訳ミステリ叢書探訪川出正樹 著

卓抜した編纂のもと選び抜かれたラインナップと、現代性を反映したブック・デザイン――日本の翻訳ミステリ叢書は、戦後国内で勃興したミステリ・ブームの一翼を担った。植草甚一の編纂と花森安治の装釘による【クライム・クラブ】や瀬戸川猛資の編纂による【シリーズ 百年の物語】など、綺羅星のごとき光芒を残す数多の叢書は、日本推理小説史にどのような光跡を描いたか。書斎の迷宮に眠る叢書という小宇宙が、著者独自の調査を経てここに全貌をあらわす。翻訳ミステリのブックガイドであり、戦後から現代に至る翻訳ミステリ叢書の研究であり、果ては戦後日本における翻訳ミステリの受容史を概観する画期的大著。

東京創元社サイトより

江戸川乱歩年譜集成中相作・編

乱歩研究に新たな地平を開いた中相作編集の画期的なリファレンスシリーズ
「文献データブック」(1997)「執筆年譜」(1998)「著書目録」(2003)に続く
完結篇「江戸川乱歩年譜集成」が、ついに盛舎から刊行! 「伝」「譜」「録」の三部構成により、巨人乱歩の秘められた実像を
初めて浮かび上がらせた「乱歩伝」の最終決定版!

藍峯舎サイトより

謎解きはどこにある 現代日本ミステリの思想渡邉大輔 著

ミステリ的なコンテンツは現在においてもなお、大衆に好まれていると同時に、本質はかつてからずいぶんと隔たりができた。そんな現代ミステリがはらむさまざまな論点の分析に際して、単にミステリ/ミステリ評論ジャンル内の問題意識や関心に留まるのではなく、現代思想をはじめとした多様な知見を援用し、文化や社会、そして人文知全般の変容との関わりの上に今日のミステリの変容を深く捉えようと試みた評論書

南雲堂サイトより

 こうしてあらすじを読むだけでも、非常に興味が湧いてくる作品があるのです。
 小説原作の映像化や実写化の話題に興味がある(結果的に鑑賞するかはおいて)私は、『舞台の上の殺人現場 「ミステリ×演劇」を見る』や、時代と共に変化する探偵像を論考した『謎解きはどこにある 現代日本ミステリの思想』が気になります。
 また、翻訳ミステリに詳しくないので『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 戦後翻訳ミステリ叢書探訪』はその量に圧倒されるだろうし、江戸川乱歩の「ら」の字も読んだことのない私にとって『江戸川乱歩年譜集成」は濃密な情報量に潰されかねません。

 ミステリのジャンルや作家像を独自の視点で再構築して文章にまとめ上げるその力に、読書の魅力を発信したいと切望する私は憧れを抱きます。
 どれも素晴らしい作品なのでしょう。


 最後に、〈試行第二回翻訳部門候補作〉です。
 前回からはじまった、翻訳部門。二回目となる今回は、以下の作品が候補に挙がっています。
 タイトルを目にしたことはあってもどれも未読かつ積読にもないので、やっぱりあらすじを紹介。

『厳冬之棺』 孫 沁文・著 阿井 幸作・訳(早川書房)
『トゥルー・クライム・ストーリー』
ジョセフ・ノックス・著 池田 真紀子・訳(新潮社)
『頰に哀しみを刻め』
S・A・コスビー・著 加賀山 卓朗・訳(ハーパーコリンズ・ジャパン)
『哀惜』 アン・クリーヴス・著 高山 真由美・訳(早川書房)
『死刑執行のノート』 ダニヤ・クカフカ・著 鈴木 美朋・訳(集英社)

日本推理作家協会サイトより

厳冬之棺孫沁文・著 阿井幸作・訳

華文ミステリ界の“密室の王“第一長篇
上海郊外の湖畔に建つ陸家の館で殺人事件が起こる。現場は大雨で水没した地下室で完全な密室だった!天才漫画家探偵・安縝(あんしん)登場

ハヤカワ・オンラインサイトより


トゥルー・クライム・ストーリージョセフ・ノックス・著 池田真紀子・訳

マンチェスター大学の学生寮から女子学生ゾーイが姿を消して6年が経過していた。イヴリンはこの失踪事件にとり憑かれ、関係者への取材と執筆を開始。作家仲間ジョセフ・ノックスに助言を仰ぐ。だが、拉致犯特定の証拠を入手直後、彼女は帰らぬ人に。ノックスは遺稿をもとに犯罪ノンフィクションを完成させたが――。被害者も関係者も、作者すら信用できない、サスペンス・ノワールの問題作。

新潮社サイトより

頰に哀しみを刻めS・A・コスビー・著 加賀山卓朗・訳

殺人罪で服役した黒人のアイク。出所後庭師として地道に働き、小さな会社を経営する彼は、ある日警察から息子が殺害されたと告げられる。白人の夫とともに顔を撃ち抜かれたのだ。一向に捜査が進まぬなか、息子たちの墓が差別主義者によって破壊され、アイクは息子の夫の父親で酒浸りのバディ・リーと犯人捜しに乗り出す。息子を拒絶してきた父親2人が真相に近づくにつれ、血と暴力が増してゆき――。アンソニー賞、マカヴィティ賞、バリー賞総なめ。
絶賛の嵐!

ハーパーコリンズ・ジャパンサイトより

哀惜アン・クリーヴス・著 高山真由美・訳

読む者の胸を揺さぶる巨匠の新たなる代表作
海岸で発見された男性の死体。彼の死に隠された真相とは? 小さな町に起きた奇妙で複雑な事件に、刑事マシュー・ヴェンが挑む。

ハヤカワ・オンラインサイトより


死刑執行のノートダニヤ・クカフカ・著 鈴木美朋・訳

エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀長篇賞 受賞作
3人の女性の視点で浮き彫りになる“連続殺人犯”アンセル・パッカー46年の人生――

アンセル・パッカーの死刑執行まで残り12時間。
「完全な善人も、完全な悪人もいない、だれもが生きるチャンスを与えられてしかるべきだ」彼はそう信じている。
獄中で密かに温めた逃亡計画もある――。
母ラヴェンダー、元妻の双子の妹ヘイゼル、ニューヨーク州警察捜査官サフィ、3人の女性の心の軌跡が〈連続殺人犯〉の虚像と実像を浮き彫りにする。
エドガー賞最優秀長篇賞受賞、衝撃のサスペンス。

集英社サイトより

 この中で発売から気になっていたのは『厳冬之館』でした。「密室殺人がすごい!」って聞いていたのです。ただなかなか書店で見つけられず……現座に至っています。
 その他の作品についても知っている著者名ばかりで、これもひとえに阿津川辰海先生による『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』のおかげです。
 また、表紙でインパクトがあったのが『頬に哀しみを刻め』ですね。あらすじを読んだだけでもミステリを支える骨太の人間ドラマがあるのだと伝わってきます
 『死刑執行のノート』は一人の人間が多面的になっていく構成(だろうと思われる)に、常に心が揺さぶられるのかなと予想。タイトルとは裏腹に表紙は非常にオシャレです。
 『トゥルー・クライム・ストーリー』における、『被害者も関係者も、作者すら信用できない、サスペンス・ノワールの問題作』は、完成させた犯罪ノンフィクションというワードから、“手記モノ” の気配を感じますね。ノワール小説はあまり読んだことのないので、しかも問題作ってどういうことなんでしょう……? 想像が膨らんでしまいますね。
 『哀惜』は、小さな町で起きる奇妙で複雑な事件という点に惹かれます。小さいからこそ扱われる事柄が少なくなり、その少なさゆえに一つ一つが次第に厚みを増して、思いもかけない真実が浮かび上がる……みたいな。海外の推理小説を(国内と比べると限りなく少ないながら)読んでいると、たびたびこうした作品と出逢います。これは相関図をきちんと押さえなきゃいけなそうですね。


 さあて、全ての部門についてコメントしていきました。どれも面白そうで、ここからどれが選ばれるのかはまったくわからない。
 願わくばあの作品が……はあるものの、完全に予想してしまうのとはまた違った楽しみを噛み締めつつ、発表を待ちたいですね。

 新年度に向けていよいよ期待が増していきます。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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