見出し画像

小匙の書室161 三島由紀夫賞候補作


 前回、山本周五郎賞の候補作品についての記事を上梓しました(そちらは是非,下記よりご覧ください)。

 読書家を名乗るならば、自分が存在を知っていて且つ読了済みの作品が受賞する場合のある賞は取り上げるべきだろう、という思いから記事を書いております。
 もちろん強制されているわけではありません。あくまでも私の好きなように記事を書く指針に基づいて、取り上げたいと考えた次第。

 さて、山本周五郎賞と同じく新潮社で催される三島由紀夫賞。
 こちらは純文学を対象とし、

文学の前途を拓く新鋭の作品一篇に授賞する。

新潮社サイトより

 の規定により候補作が選定されています。
 過去には『旅する練習』(乗代雄介 著)や『かか』(宇佐見りん 著)、『阿修羅ガール』(舞城王太郎 著)など、ここ最近読書家ライブを始めた私でも馴染み深い作品が受賞していました(ミステリだけでなく、稀に純文学にも手を伸ばすのです)。

 それでは果たして。

 第37回は何が選出されたのか、見て参りましょう。※敬称略です。

 ウミガメを砕く/久栖博季

 猿の戴冠式/小砂川チト

 YUKARI/鈴木涼美

 みどりいせき/大田ステファニー歓人

 ここはすべての夜明けまえ/間宮改衣


 私がまず注目したのは猿の載冠式でした。

 こちら、第170回芥川賞にもノミネートされていたのが記憶に新しいです。『旅する練習』も芥川賞ノミネートを経た上での三島由紀夫賞受賞だったので、果たしてどうなるのだろうと気になっています。
 人間のしふみがボノボのシネノと交流する中で芽生えていく潜在的なもの。
 どことなく不思議な感覚を呼び起こす作品なのかな、と未読ながらに思うのです。

 次に、みどりいせきを見つけて「おっ」となりました。

 第47回すばる文学賞受賞作であり、大田ステファニー歓人先生による受賞の言葉がXでバズっていたのが印象的でした。
 作品を試し読みしてみたところ書かれた文章が独特で、「あ、これは読もうと決めたときに一気に読まなきゃ勿体ないやつだ」と思っているために、現在まで積読しています。
 みどりいせきが何を意味しているのか、楽しみです。

 そして最後に目がとらえたのが、ここはすべての夜明けまえでした。

 第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作
 ページを一度捲れば、そこに敷き詰めれたほとんどひらがなの文章に圧倒されることでしょう。
 私も試し読みしてみて、「おおぅっ」となったものです。初めて「アルジャーノンに花束を」を読んだ瞬間の感覚と似ていました。
 ちなみに、早川書房からのノミネートは史上初とのこと。つまり、SFでありながら純文学風でもあるわけです。
 発売から話題にもなっていました、行く末が気になります。

 さてその他の作品についてになりますが、

 ウミガメを砕く、は久栖博季先生の新潮新人賞受賞第一作となります。

〈あらすじ〉
 北海道が全停電した夜、わたしは剥製のウミガメを抱え、まっすぐな迷宮と化した公園を彷徨う――。孤独な魂を描く気鋭渾身の一作。

新潮社サイトより

 単行本化はされていませんが、新潮社サイトで試し読みができます。どの作品もそうでしょうが、あらすじやタイトルからは全くオチが読めない。これ即ち、どんな展開を迎えるのだろうかと気になって手が止まらなくなる。
 あと、“まっすぐな迷宮”というフレーズも特徴的。
 ちなみに私、『名詞+動詞』のタイトルって好きなんですよね。最近だと『方舟を燃やす』が面白かったなぁ。

 そして最後に、YUKARIですが。

 源氏物語を題材にして描かれる、歌舞伎町文学の新境地。男性へ向けた手紙で構成された小説だそう。
 『与えたい女、奪う男』という惹句のインパクトに胸を突かれました。
 私はこの作品で初めて“歌舞伎町文学”という言葉を知りました。どうやら昨年末よりリアルサウンドブックさんのほうで「歌舞伎町を舞台にした小説を書くということ」が特集されており、鈴木涼美先生のインタビューもありました。
 触れにくい、と思われがちなことに切り込んでいく。だからこそ、おためごかしではなく作品として世に出ることの覚悟を持って筆を執らねばならない……のだと思います。


もう一人の私を用意して、三島由紀夫賞も山本周五郎賞も、それだけでなく他の賞に関してもノミネート作品を網羅してしまいたい。
 そんな風に思ってしまうのは、私だけではないでしょう。なんかもう、本を食べてしまいたいですよね。それで中身が一気に頭で理解できたなら、どんなに嬉しいか……。

さて三島由紀夫賞の発表は、山本周五郎賞と同じく5/16の18時です。

 楽しみですね。
 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?