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Net@50(インターネット誕生50周年) インターネットの起源に思いを寄せて

しばしばメディアでは、その年の最も人気のある月をランキングにした記事が掲載されることがあります。常に上位にランクインするのは10月で、「ハロウィン」「パンプキン・スパイス・ラテ」など、秋にまつわるあらゆるものが人気です。IT業界にとっても、10月は別の意味で重要な月です。というのも、インターネットの誕生月だからです。ご存知かと思いますが、インターネット誕生50周年にあたる昨年10月はとりわけ特別な月でした。

インターネットの本当の50周年記念日とは、何をもって起源とするか、誰を発明者とするかによって変わります。自分が発明者と主張する人はこれまでにも大勢いましたが、米国の元副大統領アル・ゴア(Al Gore)もその一人です。1999年CNNの番組でゴア氏自ら「インターネットを作るために率先して活動した」と述べたことは有名な話です。一方、コンピューターサイエンティストであるヴィントン・サーフ(Vinton Cerf)ボブ・カーン(Bob Kahn)TCP/IPプロトコルを開発したことで知られており、これが今日のインターネットの根幹となっています。

しかし実際のインターネットの起源は、米国高等研究計画局(ARPA、現DARPA)の資金提供により行われた、あるプロジェクトに遡ります。このプロジェクトは、今から50年前にボブ・テイラー(Bob Taylor)ローレンス・ロバーツ(Lawrence Roberts)という2人のビジョナリーな人物の指揮のもとで進められました。1968年の春、SRIインターナショナル(当時名称「スタンフォード研究所(Stanford Research Institute)」)は、コンピューターを接続したネットワーク開発の契約を請け負いました。本プロジェクトで開発されたアーパネット(ARPANET)と称するネットワークが、今日のインターネットの先駆けとなったのです。

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                             (1969年12月に誕生したARPANET)

米国国防高等研究計画局(DARPA、当時ARPA)は1960年代初頭より、SRIに研究開発を委託していました。しかしながら、宇宙関連の技術や弾道ミサイル防衛システム、弾道ミサイルの推進剤の開発などを得意とする研究機関が、なぜコンピューターのネットワーク構築に取り組もうと考えたのでしょうか。

SRIインターナショナル/プレジデントのマニッシュ・コタリ(Manish Kothari)は、その背景にはDARPA本来の任務があると述べています。

「DARPAは、1957年に旧ソビエト連邦が人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げたのを受けて、翌年1958年に当時の米国大統領ドワイト・D・アイゼンハワー(Dwight D. Eisenhower)の命令により設置されました。この打ち上げの成功を機に、DARPAは他のどの分野であれば米国が新たなテクノロジー開発によって戦略的に優位に立てるのかを検討するようになったのです。こうしてコンピューターネットワークを媒介とした通信能力、つまりインターネットのようなものが構想され、これがARPANETプロジェクトの始動へと繋がったのです」

当時、コンピューターネットワークの先駆けとなるものはいくつか存在しましたが、基本的には複数のユーザーで共有する小型の電子掲示板でした。しかしコタリ氏によると、分散型ネットワークの構築に特化した大規模な取り組みはARPANETが最初のプロジェクトであったといいます。そうなると、どの日をインターネットの誕生日にすればよいのでしょうか。

SRIのOBでレジデントヒストリアン(常任の歴史家)でもあるドン・ニールソン(Don Nielson)によると、ARPAは当時SRIの技術者であるエルマー・シャピロ(Elmer Shapiro)にコンピューターネットワークの設計と仕様作成を依頼したとの事です。また、「彼は4カ月を費やして各種構想の原案を纏め上げた。これが今日のパッケージ型ネットワークの考え方に応用されている」とニールソンは述べています。

こうして、ARPANETを経由した最初のメッセージが1969年10月29日22時30分に、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)コンピューターサイエンス学部のレナード・クラインロック(Leonard Kleinrock)教授の研究室からスタンフォード研究所(現在のSRI)にある2番目のネットワークのノードに送信されました。

初めてのインターネット通信について、クラインロック教授はインタビューの中で次のように述べています。

「我々とSRIの人たちを電話回線でつないだ・・・そして「L」と打ってから、電話口で聞きました。

『Lの文字が見えますか?』
『はい、見えます』と応答がありました。

次に『O』と打ってから、もう一度聞きました。

『Oが見えますか?』
『はい、見えます』と応答がありました。

そして『G』と打つと、システムはクラッシュした。しかし、これが革命的出来事の始まりだった・・・。」

この日の出来事の詳細については、カリフォルニア州マウンテンビューのコンピューター歴史博物館が行った口頭インタビューが一番正確です。これは、インターネット誕生40周年を祝う式典で録音されたもので、まさにこの最初のデータ通信で発生したネットワーク障害について、UCLAのチャーリー・クライン(Charley Kline)とSRIのビル・デュヴァル(Bill Duvall)が当時の様子を振り返る様子が記録されています。2人は共に、今日のインターネットについては触れることなく、当時の出来事を率直に評価しています。インタビューの模様は、下記のリンクからご覧ください。

(1969年10月29日:画期的発想の誕生から40年-CHM
1969年10月29日の晩、インターネットの重要な原型であるARPANETの2ノード間で初のデータ通信が行われた・・・  www.computerhistory.org)

補足ですが、ネットワーク接続が行われた日付が本当に10月29日なのかどうかを疑う人もいました。その人々の調査によると、UCLAのコンピューターラボで見つかった日誌に「10月29日」という日付が走り書きされてあったため、これがその出来事が起こった"正式”な日付になったといいます。

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(UCLAでチャーリー・クラインの日誌に記されていた「1969年10月29日」という日付)

更にドン・二ールソンは、エルマー・シャピロはSRIを代表してARPAのラリー・ロバーツ(Larry Roberts)にネットワークの設計と特性に関する報告書を作成して仮想回路などの各種構想を概説していますが、多くの人はこのことを知らないとも述べています。そして、「この報告書のおかげで、ARPAはあの有名な『紙ナプキンのスケッチ図』より1年も前に、ルーターの起源であるIMPの入札を行うことができた」とニールソンは言います。興味深いことに、その報告書の日付は確かに1968年12月でした。下の画像は、二ールソンの言う1969年の『紙ナプキンのスケッチ図』です。

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(ARPANETの最初の4ノードを記した紙ナプキンのスケッチ/1969年)

これら出来事の真実を私たちは決して知ることはできないかもしれません。ただいずれにせよ、素晴らしい話ではないでしょうか。はっきりとわかっているのは、10月が正確にはインターネットの誕生月ではなく、ARPAのイントラネットが誕生した月であるということです。そして、このイントラネットが、まだインターネットとは呼べない時代に、後世に登場するインターネットの礎を築き、ビジネスから通信、社交、学習、知識の共有、移動にいたるまで、私たちの日常に劇的な変化をもたらしたということです。

2009年、電気・通信分野の技術革新に貢献する世界最大の専門家組織であるIEEE(米国電気電子学会)は、あの初のデータ通信から40年が経過したのを記念してSRIに銘板を授与しました。(下の写真)

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(ARPANET誕生40周年を記念してIEEEからSRIに贈られた銘板)

ここで、これまでの50年間でネットワークコンピューティングに起こった数々の変化や、それがインターネットの進化に及ぼした影響、そして一般の人々とのインターネットで繋がりについて考えてみましょう。

SRIの情報科学&計算機科学部門のプレジデントであるウィリアム・マーク(William Mark)は、人とインターネット間のやりとりを実現するさまざまな要素が、実際にSRIのダグラス・エンゲルバート(Douglas Engelbart)のラボでどのように生み出されたのかを次のように述べています。

「当時、あの初のネットワーク通信には2台のテレタイプ端末が使われました。しかし既にエンゲルバートと彼のチームは、今日私たちがディスプレイやマウス、ハイパーテキストを用いてインターネットとやりとりするスタイルのベースを作り始めていたのです。」

こうした発明の数々は、今日にいたるまで非常に高い重要性を維持し、世界中で評価されています。

2000年代中頃にSRIのコンピューターサイエンスラボで開発されたSiriは、2010年Appleに売却されましたが、「人とインターネットのやりとりのかたちに再び革命をもたらした」とウィリアム・マークは述べています。「今や世界中の人々がスマートフォンでインターネットを利用する時代です。もし50年前に、誰かにインターネットの未来について尋ねても、その人は決して数十億台の電話が人とインターネットをつなぐ装置として利用される世の中が来るとは夢にも思わなかったでしょう」

さて、私たちはこれからどこに向かっていくのでしょうか。SRIのスタッフは「次の10年にはたくさんのことが期待できる」と考えています。次回のブログ記事にて「Net@60(インターネット誕生60周年)」を見据えて、インターネットがさらに進化する次の10年に私たちが期待できること、そしてSRIの展望をご紹介します。

筆者:Reenita Malhotra Hora/ SRI International (Director of Marketing & Communications)

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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