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ねえ、結婚って、どうお?

 時は昭和…じゃなかった平成、都心の会社員のまま結婚した。
その後いつだったか、同僚の女子社員とのちょっとした雑談の中で言われた言葉が耳にこびりついている。

 ねえ、結婚って、どうお?  すべてを知っちゃうと、もう……。
はあ?    すべてって何?     もうって何?

 実は、彼女に対してずっと並々ならぬ思いを抱いてすごしていた。

 時はこんどこそ昭和。まったく若かった私は、入った会社で彼女に会った。初対面のとき、女性たちをざっと見回して、おっ、いた、私とどっこいどっこいの容姿、ヨシヨシと思ったのが、彼女だった。黒い本音。

 それから何年間も、嫉妬と自己嫌悪を感じながら過ごすこととなった。それは、彼女が自信たっぷりで、自分は誰よりもかわいいと思っていて、そして何より、とても男性にもてたせいだった。
 学生時代、私の周囲には数多くの美女がいて性格も普通だったので、当然モテモテだったが納得できた。
 ところが会社の彼女は、なんでもてるのか、とても不可解だったのだ。

 容姿は10人並みで自信満々、表面はいい子で、場を盛り上げる(出しゃばりに驚いたが)が、私に見せた裏の顔はう~ん…。パーティーのトイレで「ちっ、疲れた。交替して盛り上げてよ」と言われたり、私が大切にしている物事をけなしたり、嫌な面ばかりを見せられたのだから。辛かった。

 それでも彼女はもてまくり、男に追いかけさせて、はっきり断らない。
言うセリフは「……私、だめなの」って。今思えば、笑えるが、事実は小説より奇なりである。
 私はさびしい自分と比べて焼けるような嫉妬に苦しんだんだっけ。そんな冴えない私が結婚できたのは、蓼食う変な虫がたった一匹いたからだ。

 だが、その焼ける気持ちは、先に書いた彼女の言葉を聞いて吹っ切れた。
結婚の何がわかるの? と思ったからだ。結婚は、たった一度の経験で語れる数少ないものごとの一つだ。だから言わせてもらうが、結婚は、彼女が言い及んだように、彼氏と会って、楽しくすごすことではない。良くも悪くもあくまでも生活だ。それにお姑さんに、三つ指ついてあいさつしたのか? 結婚は夢ではない。

   それからずいぶんたって、令和になろうという頃、彼女と再会した。
彼女は相変わらず「少女」だった。私は会社を辞めて、育児をし、資格を取って別の仕事に就いたが、彼女は同じ会社で同じ生活を続けていた。
 独身だった。
 おそらく彼女の前に現れた男性は数知れずいるのだろう。相手は既婚者もいたようだし。
 自分との違いに驚くばかりだ。

 私も彼女のように異性に不自由しなかったら、もしかしたら独身を貫いて、恋人遊びをしながら年を重ねたかもしれないし、でもやっぱり蓼食う虫くんと結婚したのかもしれない。
 いずれにしてもタラレバ、タラレバ。
 青春物語。別に戻りたくはないけれどね。

 結婚って、どうお?   
その問いに今も明確な答えは出ないが、今の私は結婚生活をやめるつもりはないのであ~る。

 

 

 
 

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