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週10時間以上勤務で雇用保険加入が義務に!雇用保険法改正のポイントと影響

雇用保険法案が、2024年5月10日国会において可決・成立しました。多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築や、「人への投資」の強化が図られることとなりました。この改正には、雇用保険の適用範囲の拡大や教育訓練の充実、育児休業給付の財政運営など、様々なポイントが含まれています。2024年5月以降、順次施行されることとなりますが、以下では、改正の主なポイントとその影響について詳しく解説していきます。

改正の概要

雇用保険の適用範囲の拡大

雇用保険の適用範囲が拡大されることとなりました。対象となる労働者の週所定労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に変更されることとなります。これにより、より多くの労働者が雇用保険の被保険者となり、安定した雇用環境の確保が期待されます。新たに適用される労働者によって、労働者全体のセーフティネットが強化されることが見込まれます。

この改正により、特にパートタイムで働く労働者や、副業を持つ労働者など、柔軟な働き方を選択する労働者にとっては、より安心して働くことができる環境が整備されることとなります。例えば、週に10時間しか働かないパートタイム労働者も雇用保険の対象となり、失業した際の支援や育児休業中の給付を受けることができるようになります。非正規雇用者や短時間労働者にとっても、雇用の安定性が高まることが期待されます。

影響を受ける労働者の数

下記のグラフからわかる通り、約500万人以上の労働者が新たに雇用保険の適用対象となります。パートタイムやアルバイトとして働いている方、またパート・アルバイトを雇用している経営者や総務担当の方は、適用の有無を事前にきちんとご確認いただき、滞りなく手続きが進むようご準備ください

出典:総務省「労働力調査」

付帯する改正

また雇用保険の適用対象となる週所定労働時間が、「20時間以上」から「10時間以上」に変更になることに伴い、下表のとおり被保険者期間の算定基準等の各種基準が見直されます

出典:厚生労働省「「雇用保険法等の一部を改正する法律」の成立について」より抜粋

施行日:2028年10月1日

施行日はそれぞれの改正項目ごとに異なりますので十分にご注意ください。

教育訓練やリスキリング支援の充実

自己都合で退職した者が、教育訓練を受けた場合に、給付制限なく雇用保険の基本手当を受給できるようになったり、教育訓練給付金の支給率が引き上げられたり、在職中に教育訓練を受ける労働者に対し、新たな給付金ができることとなりました。

それぞれ細かく見ていきましょう。

自己都合退職者が、教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除

自己都合で退職した者が、雇用の安定や就職促進に必要な職業に関する教育訓練を受けた場合、給付制限をせずに雇用保険の基本手当を受給できるようになりました。

具体的には、自己都合で退職した労働者の場合、これまでは失業給付(基本手当)の受給に当たって、待期満了の翌日から原則2ヶ月間(5年以内に2回を超える自己都合退職の場合は3ヶ月)の給付制限期間がありましたが、離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を行った場合には、給付制限期間が設けられることなく、基本手当を受給できるようになります。

そして、自己都合で退職した場合の原則の給付制限期間も、2カ月から1か月へ短縮されることとなりました。(5年以内に2回を超える自己都合退職の場合の3ヶ月は変わりません。)

これは、自己都合退職者がスムーズに新たな職業に就くための支援策として非常に重要です。

出典:厚生労働省「「雇用保険法等の一部を改正する法律」の成立について」より抜粋

施行日:2025年 4 月1日

教育訓練給付金の給付率引き上げ

教育訓練給付は

厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した場合にその費用の一部を支給することを通じて、労働者の学び直しを支援するものです。個人の主体的なリスキリング等への直接支援をより一層、強化・推進して、その教育訓練の効果としての賃金上昇や再就職に繋げようという意図から、教育訓練給付金の給付率の上限が受講費用の70%から80%に引き上げられることとなりました。

具体的には下表のとおり、

①専門実践教育訓練給付金について、教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合、現行の追加給付に加えて、更に受講費用の10%(合計80%)を追加で支給
②特定一般教育訓練給付金について、資格取得し、就職等した場合、受講費用の10%(合計50%)を追加で支給

することとなりました。

出典:厚生労働省「「雇用保険法等の一部を改正する法律」の成立について」より抜粋

教育訓練給付金の支給率が引き上げられ、訓練効果を高めるためのインセンティブが強化されます。これにより、より多くの労働者が訓練を受ける動機付けとなり、結果として労働市場全体のスキルレベルの向上が期待されます。

施行日:2024年 10月1日

「教育訓練休暇給付金」の創設

雇用保険被保険者が在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合、その期間中の生活を支えるために基本手当に相当する新たな給付として、賃金の一定割合を支給する「教育訓練休暇給付金」が創設されることとなりました

これまでは、労働者が自発的に、教育訓練に専念するために仕事から離れる場合に、その訓練期間中の生活費を支援する仕組みがありませんでした。そのため労働者の主体的な能力開発をより一層支援する観点から、離職者等を含め、労働者が生活費等への不安なく教育訓練に専念できるようにする必要がありました。

この給付金により、労働者は安心して教育訓練に専念することができ、キャリアアップに向けた取り組みが一層進むことが期待されます。例えば、デジタルスキルの向上を目指す社員が、休暇を取得して専門的なプログラミングコースを受講する際にも、経済的な不安を抱えることなく学習に集中することができます。

出典:厚生労働省「「雇用保険法等の一部を改正する法律」の成立について」より抜粋

施行日:2025年 10月1日

育児休業給付の財源

育児休業給付の国庫負担の引下げの暫定措置が廃止され、育児休業給付の保険料率が引き上げられます。これにより、育児休業給付の安定的な財政運営が図られ、保険制度の健全性が維持されます。

育児休業給付の保険料率引き上げ

育児休業給付については、近年の男性労働者の育児休業取得者数増等を背景に、支給額は年々増加しています。男性の育児休業取得率の目標が設定され、2025年には公務員85%(1週間以上の取得率)、民間50%、2030年には公務員85%(2週間以上の取得率)、民間85%を目指すことが掲げられていますので、今後も支給額が増えることが想定され、財政基盤の強化が急務となっているところです。

出典:厚生労働省「「雇用保険法等の一部を改正する法律」の成立について」より抜粋

具体的対策としては、育児休業給付の保険料率を現行の0.4%から0.5%に引き上げます。ただし、保険財政の状況に応じて0.4%に引き下げることを可能とします。わかりにくいですが、つまり原則2025年から0.5%に上げる予定だけど、財政状況によってはこのまま0.4%に維持するかもしれない、ということです。状況を見ながら柔軟に対応できるようにした、というところですね。

そもそもの目的として、男性の育児休業取得が進み、男女ともに育児と仕事を両立できる社会の実現が期待されます。そしてこの対策により、育児休業給付の安定した運営が確保され、将来的な財政悪化に備えることが可能となります。

施行日:2025年 4月1日

国庫負担引き上げ

正確に言いますと、育児休業給付に係る国庫負担引下げの暫定措置の廃止、となります。国庫負担割合は雇用保険法本則にて1/8と規定されているところ、暫定措置として1/80となっていました。そちらを本来の1/8に戻すことで、財政の安定性が強化されます。

これにより、育児休業を取得する労働者が増加しても、制度の持続可能性が維持され、育児休業を取得しやすい環境が整備されます。男性の育児休業取得促進は、女性の社会進出を後押しし、労働市場におけるジェンダーバランスの改善にも寄与することが期待されるところです。

施行日:2024年 5月17日

その他の雇用保険制度の見直し

教育訓練支援給付金の給付率の引下げやその暫定措置の延長など、その他の雇用保険制度に関する見直しも行われます。

教育訓練支援給付金の給付率の引下げ等

教育訓練支援給付金は、45才未満の者に基本手当の80%を訓練受講中に支給するもので、2024年度末までの暫定措置とされていました。こちらにつき、給付率については基本手当の80%から60%に引き下げた上で、暫定措置の期間については2026年度末まで継続されます。

施行日:2025年 4月1日

介護休業給付に係る国庫負担引下げ継続

また、介護休業給付に係る国庫負担引下げの暫定措置も2026年度末まで継続されます。つまり、育児休業給付は国庫負担が本来の1/8に引き上げられましたが、介護休業給付は本来の1/8ではなく暫定の措置の1/80のままということになります。

施行日:2025年 5月17日

また、過去に介護休業及び介護意休業給付金に絡む記事も掲載していますので、参考にご覧ください。

記事:従業員からの介護の相談に対応できますか?事業主が押えるべき介護休業の基本。

就業促進手当の見直し

安定した職業以外の職業に早期再就職した場合の手当として「就業手当」が、早期再就職し、離職前の賃金から再就職後賃金が低下していた場合に低下した賃金の6か月分を支給する手当として「就業促進定着手当」が設けられています。

下表【現行の就業促進手当の概要】にあるように、支給実績が極端に少ない就業手当を廃止するとともに、就業促進定着手当の上限を支給残日数の20%に引き下げることとなりました。

例えば、就業促進手当の廃止等により、労働者が短期間での再就職を目指す動機付けが減少する一方で、長期的なキャリア形成を重視した再就職支援が強化されることが期待されます。

出典:厚生労働省「「雇用保険法等の一部を改正する法律」の成立について」より抜粋

施行日:2025年 4月1日

雇止めによる離職者の特例、地域延長給付の暫定措置

雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付(雇用機会が不足する地域における給付日数の延長)はいずれも2024年度末までの暫定措置とされていましたが、2026年度末まで2年間延長されました。

出典:厚生労働省「「雇用保険法等の一部を改正する法律」の成立について」より抜粋

施行日:2025年 4月1日

まとめ

以上が、雇用保険法改正のポイントとその影響についての詳細解説です。企業や労働者は、これらの改正内容を理解し、適切な対応を行うことが重要です。また、最新情報を常に確認し、柔軟に対応することで、労働環境の改善や働き方の多様化に対応することが求められます。
それぞれの制度の適用開始日が異なりますので、十分にご注意ください。

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