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確定拠出年金(企業型DC)を整理する

1 はじめに

確定拠出年金は、掛金とその運用益の合計額を、将来年金(または一時金)で支払う制度です。(掛金を事業主が拠出する企業型DCと、加入者自身が拠出するiDeCoがありますが、今回は企業型DCについて整理します)
確定拠出年金は企業の福利厚生としての役割を担っています。
今回は企業さま目線で確定拠出年金の概要について整理しますので、導入を検討されている方の参考になりましたら幸いです。


2 確定拠出年金(企業型DC)とは

企業が掛金を拠出し、従業員が掛金を自由に運用して、将来の年金額を確定する制度です。
(一定の条件をもって、従業員も拠出することは可能です。この仕組みをマッチング拠出と言います。)
確定拠出年金は「401k」と表現することがあります。アメリカの確定拠出型年金の代表を401kプランと呼んでいることが由来です。
非課税で積み立てながら運用ができることから、 通常の資産運用に比べて、従業員にとっては金銭的な恩恵を受けられる制度と言えます。

(1)確定拠出年金のメリット

  • 従業員の離職防止につながる(従業員は会社に在籍するほど将来受給できる年金額の上乗せを期待できる/従業員が会社の手厚い福利厚生を実感できる)

  • 掛金は全額損金に算入することができる

  • 他社と差別化を図ることができる(採用活動において確定拠出年金を用意していることをPRできる)

  • 従業員は運用がうまくいった場合、資産が増える(確定拠出年金は将来の給付額については掛金の運用結果に左右されるため確定していません。)

(2)確定拠出年金のデメリット

  • 企業に掛金負担が発生する(当然ですが)

  • 掛金に加えて運営費の負担も発生する。確定拠出年金の運営は証券会社等に依頼することが基本であるため、事務手続き(手数料)が発生する

  • 従業員へ投資(掛金の運用)に対する教育が必要

  • 一度採用すると、簡単にやめることはできない(企業の経営が厳しい状況に至った場合でも掛金の拠出が積み重なる)

(3)運用方法

従業員は個人の判断で運営管理機関(金融機関等)が選定・提示する運用商品(投資信託、保険商品、預貯金等)の中から、望ましい商品を選択することができます。
※運用商品は、必ず3以上の商品を選択肢として選定・提示する
※従業員は運用の途中で運用商品を変更することができる

(4)給付内容

①老齢給付金
原則60歳に到達した場合に受給することができる(60歳時点で確定拠出年金の通算加入者等期間が10年に満たない場合は、支給開始年齢が段階的に先延ばしになる)。
有期、または終身の年金として支払われる(規約の規定により一時金の選択も可能)。

②障害給付金
傷病によって一定以上(障害基礎年金の対象に至る)の障害を有した場合に受給することができる。
有期、または終身の年金として支払われる(規約の規定により一時金の選択も可能)。

③死亡一時金
加入者が死亡した場合、加入者の遺族が資産残高を受給することができる。

④脱退一時金
確定拠出年金は、原則60歳まで途中の引出し、脱退はできないが、一定の要件を満たした場合に、受給することができる。

(5)企業にとっての税制

①拠出時
事業主が拠出した掛金は全額損益算入することができる。

②運用時
運用中の運用益は非課税。

(6)従業員にとっての税制

①老齢給付金
・年金支給を選択した場合は雑所得として課税され、公的年金等控除の対象となる。
・一時金支給を選択した場合は退職所得として課税され、退職所得控除が適用される。
②障害給付金
 非課税。
③死亡一時金
 相続税として課税されるが、法定相続人の人数に応じて非課税枠が用意されている。
④脱退一時金
 一時所得として課税する。

(7)従業員が退職した場合

企業型DCに加入している従業員が退職した場合、転職先の確定拠出年金制度の有無等によって、対応が異なります。

①企業型DCを導入している会社に転職する場合
 これまでの年金資産を転職先の企業型DCへ移管する

②企業型DCを導入していない会社に転職する場合
 これまでの年金資産をiDeCo(個人型確定拠出年金)へ移管する
※iDeCoの加入の手続きを行う必要あり

③自営業に転身する場合
 これまでの年金資産をiDeCo(個人型確定拠出年金)へ移管する
※iDeCoの加入の手続きを行う必要あり

(8)確定拠出年金の事業主掛金の返還

企業が一度拠出した掛金は加入者である従業員の口座で管理されるため、返金の要求や減額処分(懲戒解雇等を理由に)を実施することができませんが、勤続3年未満で退職した従業員に対して、事業主掛金に相当する額を返還させる規定を設けることができます(従業員の死亡時等、対象外の事例あり)。
事業主の掛金総額が返還対象になりますが、運用損失により資産額が事業主掛金の総額を下回っている場合、資産額が返還額となります。
(従業員が手出しの負担をすることはありません)


3 確定拠出年金を導入する

確定拠出年金制度を企業に導入するには約半年〜1年の時間を要すると言われています。
(相当の業務負担が生じることをご留意ください。
これから大枠ではありますが、確定拠出年金制度導入の流れをご紹介します。

(1)労使の合意

企業と従業員(の代表)が合意することから始まります。従業員の代表は投票や挙手で選ばれた従業員であることが必要です。
なお、労使双方にとって重要な取り組みであることから、従業員側の当事者を増やすことで制度を良くするための体制が構築できるかもしれません。

(2)確定拠出年金の規約を作成する

確定拠出年金は確定拠出年金の取り組みについて、具体的な運営方法を定めるもので、事業主が作成をします。

(規約の主な内容)

  • 給付の内容

  • 加入者の範囲

  • 掛金の算定方法

  • マッチング拠出(加入者掛金)の有無

  • 運用商品の選択肢

  • 短期離職者(勤続3年未満)の掛金の事業主返還ルール

  • 他制度から資産を移換する場合

(3)規約の承認申請

確定拠出年金規約は厚生労働大臣に申請を行い、承認を受ける必要があります。
承認後、事業主は従業員に対し、確定拠出年金規約の内容を周知します。

(4)運営管理機関と資産管理機関の選任

企業は、制度運営のために「運営管理機関」「資産管理機関」を選任します。運営管理機関が確定拠出年金の作成を支援するケースが多いことから、労使合意や規約作成前に運営管理機関に確定拠出年金制度導入の相談をすることも可能です。

①運営管理機関
確定拠出年金制度を運営する窓口機関(金融機関)
従業員が投資する商品ラインナップを用意したり、確定拠出年金規約の作成を支援する。

②資産管理機関
確定拠出年金の資産を預かり、資産運用や受給者への年金支払い等を行う機関(信託銀行や保険会社、証券会社など)

(5)運用商品の選定

従業員に提示する運用商品を選定します。
運用商品については、リスク&リターンの異なる商品を3つ以上用意する必要があります。

(6)その他活動

  • 従業員への制度案内・資産運用に対する教育

  • 就業規則などの改定

  • 給与システムの設定変更


4 確定拠出年金と退職金

確定拠出年金も退職金も従業員が将来得ることができる金銭・・・という観点では近しいものがありますが、特徴としては異なる点が多いです。
確定拠出年金と退職金いずれかの導入を検討している場合、特徴を理解した上でご選択することを推奨します。
(もちろん、確定拠出年金と退職金の両方を導入することも可能です)

  • 確定拠出年金は社外に積み立てるため、従業員にとっては安心な制度と言える(退職金は企業が不況や倒産等の理由で、確保できない・・・というリスクがある)

  • 確定拠出年金は従業員が転職先の確定拠出年金やiDeCoに持ち運びできることから、企業の裁量がある退職金制度と比較して、従業員への退職抑止力は弱い傾向にある。(退職金は在籍年数が長い従業員に対して支給額を優遇させることが一般的。確定拠出年金も役職や在籍年数で拠出額を優遇できるが、掛金には上限がある)

  • 確定拠出年金は企業の拠出額(場合によっては従業員の拠出もあり)と運用実績の元利合計によるため、企業が拠出した金額以上の金銭を従業員が受け取ることができるケースがある(もちろん逆のケースもある)


5 最後に

確定拠出年金は福利厚生として従業員満足度が高い制度と言える一方、制度導入についてはもちろん、制度を維持していくことも簡単なものではありません。
退職金やその他福利厚生施策との比較を行い、従業員の満足度と企業の負担感のバランスが合うように進めていくことが望ましいです。

最後に個人的なお話になりますが、私の周りでは確定拠出年金の運用自体を楽しんでいる方が多いです。そのことからも分かる通り、確定拠出年金は金銭面以外の付加価値を従業員に提供しているものだと実感しています。

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