私は頭が悪い

 私は頭が悪い。記憶力など壊滅的である。
 しかしながら、これでも皆が羨む大学を出ている。出身大学を聞いた相手はそれなりのリアクションを取る。
 が、これがタチが悪い。頭の悪い私が、いい大学を出ているなど、相手からすれば気分を害する材料にしかならない。会話開始5秒で嫌われ者である。
 最初のうちは、鼻高々に「〇〇大学でー、そのあと△△大学院です」と意気揚々と語っていたが、最近は出身校を聞かれると「小卒です」とケムに巻くことにしている。
 これで少しは嫌われないようになったかと思えば、出身大学がよいという錆びたプライドはなかなか取れないようで、喋り方の端端で、鼻につかれ、先輩社員からは嫌われがちである。
 最近は学歴の話は一切しない。
 一番私の出身大学が鼻についているのは妻である。妻は私のあだ名を「学歴詐称」としている。ハイセンスな妻である。
 私の妻は頭が良い。細かいところに気づいてくれるし、記憶力がよい。これが厄介だ。私の発言力は皆無と言ってよい。
「もう、前に言った!」
「また覚えてないのか」
 私はもう何も言うまいとしているが、それはそれで「何も考えてくれない」と言われる。夫婦というコミュニティは、思いの外、頭の悪い私をなやましてくれる。
 そんな私も極たまに妻を凌駕することがある。そんなときはもちろん鬼の首を取ったように「はぁ、頼むわ…」と、のたまう。
 性根から心が腐っていることがおわかりいただけるだろう。
 その後は当たり前のように、無視を決め込まれる。
 後の祭りである。
 私はない脳みそをフル回転させ、楽しい話を展開させようとする。これがなかなかうまくいく。なぜなら妻の心が広いからである。感謝。
 私は今後、夫婦のコミュニティの中で、妻に煙たがられないことを目標に残りの人生を静かに全うしたいと思っている。
 夫婦以外のコミュニティ?
 範囲が広すぎて頭の悪い私がハンドリングできる世界ではないので、外の世界は諦めている。
 しかし、頭の体操に一番良いのは外界の適度な脳へのストレスらしい。
 これからどうすれば良いのか、窮地に立たされている思いである。
 頭が痛くなってきた。どうやら外界との接触なしで、私の脳はストレスを感じているらしい。便利な脳である。

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