見出し画像

北区長選に対する雑感

5期20年の花川区政は、一言でいえば停滞の歴史だったのだと思う。たしかに他の自治体も当たり前にやることは導入してきたのだろうが、たとえばおとなりのSDGs先進都市となった豊島区のような特徴的な取り組みは北区にはない。豊島区の南池袋公園やイケサンパークは、これから子育てしようという女性の目線を第一に考えて実現したものである。公園やホームページのような目に見えるわかりやすいものだけでなく、様々な制度でも豊島区は先進的なのだろう。じっさい豊島区はSDGs未来都市を打ち出し、国のモデル事業にも選ばれている。

また、お隣の板橋区では絵本の街という個性的なコンセプトで新しいまちづくりを進めている。こちらも日本経済新聞によるSDGs先進度調査では都内1位、全国8位になっている(豊島区は全国9位、ちなみに1位はさいたま市)。

文化的にあまり変わらない城北エリアの隣接する2区が先進的なまちづくりをすすめている一方で、北区は掛け声だけは子育てや福祉に力を入れてきたのかもしれないが、社会全体を引き上げる未来図(ヴィジョン)が不在なので、豊島区のようなトータルなまちづくりができてない。つまり、子育てや女性の目線を中心とした、公園、区庁舎、大通りのようなハードウェアつまり建設や経済まで含めたトータルなまちづくりはほぼできていない。トータルなヴィジョンの不在は昔ながらの縦割り行政を蔓延らせるだけである。

人間の寿命的に、たかだか十数年しか生きれそうにない88歳、ご高齢の花川区長に、福祉から経済まで含めたトータルな未来図を描くことを要求するのは酷というものだろう。そもそも花川区長は役人の書いた文書を読むだけの仕事しかふだんしておらず、選挙になると急に元気になるといわれている。彼にとっては選挙で勝つことが最大の仕事なのであって、あとは役人任せなのである。役人のほうも余計な仕事がトップから降ってこないので現状維持で楽である。そんなわけで北区はお隣の豊島区や板橋区に比べて新らしい試みを打ち出せるわけでもなく、区庁舎の引越しもできず、本拠地の王子の再開発はまったく手につかず、停滞している。

それどころか、センベロや昭和レトロの雰囲気が味わえる赤羽の一番街をつぶすことになるような、タワーマンションの建設計画を立てている。やるべき再開発はせず、やらなくていい再開発はすすめるという出鱈目な政治である。赤羽の自転車置き場も整備が遅れており、仕方なくララガーデンが知恵を出して駐輪場を作ってくれている有様である。本来は役所が責任をもって駐輪場の整備をすすめるべきだろう。

このように、東京北区は何もしないトップによる政治(行政)の怠慢があり、隣接区のような新機軸を打ち出すこともできず、必要なことさえ整備できていない。路上喫煙に関する時代錯誤な状況もまだ改善されているとはいいがたい。それでも政治の怠慢を補うように、民間のほうで多くの新しい試みはなされてきた。北区花火会は、その代表例だろう。花火大会ほどの規模であれば、役所が中心でやるべきだろうが、北区では民間のボランティアが主催してきた。それだけでなく様々なマルシェのようなイベントも他区から遅れてではあるが、盛んになっている。

手前味噌ながら、北区が比較的早い段階で打ち出したのはストリートピアノくらいだろうか。ただストリートピアノも2019年以降、全国的に広がり、あっという間にマルシェ同様に陳腐化してはいるが、正光寺で開催してきた寺ピアノはおそらくいまだに先進的であろうし、私が新しく手掛けているノーストーキョーピアノパーティや高齢者就労支援施設でのストリートピアノ、マルシェライブ等での多世代交流の取り組みは全国的にもまだまだ珍しい先進的な取り組みだろう。

以上にみるように、北区では赤羽一番街、十条銀座、ララガーデンといった商店街を含めて、民間はわりと元気で、いろいろ新しい取り組みもよくやっている。また、飛鳥山公園、旧古川庭園、岩淵水門と荒川河川敷など名所・見どころも多く、こんなことを言ってしまうと申し訳ないが、ポテンシャルとしては歴史的にも自然環境的にも豊島区よりもだいぶ恵まれているのである。それをほとんどまだ生かせていないのは、ひとえに政治の怠慢と停滞ゆえである。やっと最近になって飛鳥山が活用されてきたが、それも民間出身者が引っ張る北区観光協会(上記の花火会も主催)の尽力によるのであって、豊島区とは違う。

私がつぎの区長にお願いしたいのは、とにかく先進地域であるお隣の豊島区や板橋区に学んでほしいということである。よいものは真似すればいいのである。一から創るよりはるかに効率的である。具体的になにかといえば、これから子育てするような女性の目線での建築物等も含めたトータルなまちづくりである。従来的な子育て支援以上に、豊島区(池袋)がやったように、公園や道路(グリーン大通り)、区庁舎といったハードも女性や子どもを中心とするようなまちづくりをしてほしい。もっといえば、女性や子どもだけでなく若者やお年寄りや障碍者やLGBTQといった性的マイノリティや外国人といった周辺的かつ多様な人びとの目線でまちづくりをしていくことが重要である。そういった多様性が創造性や経済成長ももたらすイノベーションを生むことはリチャード・フロリダ以降よく知られている。

逆に、女性や子どもや多様性が尊重されなければ、権力をもっている50代以上の男性のみが快適で、それ以外の属性の人びとが隅においやられるようなまちができてしまう。「おじさん中心社会」である。今の北区はそうだし、多くの日本のまちがそうだった(だから日本のまちは酷いのである)。たとえば路上喫煙や店内での喫煙などがそうだろう。中高年の男性ほど喫煙するので、彼らが中心にいるといっこうに禁煙も分煙も進まなかった。東京の南や西のほうではもう過去の話だが、北区では今でもそうである。

こういった政策を実行できる人として、現職の花川さんはこれまでできてこなかったのだから論外として、候補としては山田さんと橋本さんとこまざき美紀さんということになる。表面的にみれば皆女性なので期待ができそうだが…

まずは橋本さんだが、コロナ禍で無料弁当を赤羽公園で配るなど大変すばらしい社会的活動をされてはいるものの、行政経験も議員経験もないし、花川さんほどではないがやはりご高齢なのでセンスが時代遅れになりそうだし、これから政治の世界に入って新しいことを繋がりもなくやろうというのは難しいだろう。つまりフィージビリティやセンスに問題がある。言い方は悪いかもしれないが、共産党と社民党のみが推薦する候補はすこし偏っているというか、広範な支持を得られるわけでもない。

一方、山田さんはどうかというと、自民・公明そして維新でさえもが相乗りで推薦している。もともと現職の花川さんは自民党で、都議だった彼の後任が高木啓さん(今は衆議院議員)で、そのまた後任が山田都議である。都議をやめて北区長選に出るわけだが、あまりにも自民党すぎるというか権力に近すぎる。前回の5期まで自民党は花川さんをずっと推薦してきたわけで、北区政とは自民党の政治だったのであり、花川さんから山田さんに変わったとしても自民党の政治が続くことに変わりはない。要するに、本質的には何も変わらないのである。変わるとすれば、タワーマンションなどをボンボン立てるような旧来型の(もはやタワマンは作り過ぎて供給過剰でどこかでバブルがはじけて不良債権化するリスクが高い)時代遅れの建設が進むということだろうか。山田さんは女性ではあるが、高木さんを筆頭とする自民党政治の傀儡であり、「おじさん中心社会」が存続しつづけるだけである。じっさい、現在、自民党区議は8人中7人が男性である。人がよくてコントロールしやすい山田さんを区長に据えて、旧来型の既得権益を保持する構図が透けて見える。

だから結局、消去法でこまざき美紀さんしかいない(以下、敬称略)。ただ、こまざき美紀は欠点がないだけで魅力がないかというと、まったくそんなことはない。消去法で選ぶ以上の価値がある。まず、どの党からの公認・推薦も受けていないので、シガラミがない。これは、山田さんとは対照的だろう。本来、既得権益の打破を掲げるオルタナティブな保守として維新は位置づけられているが、その維新が自民党と一緒に山田さんを支持したことで、維新そのものの存在意義が問われている。そして山田さんにとっては異なる面ももつ自民と維新の2つの政党のシガラミをもつことになるから、いろいろなことがやりにくくなる。だが維新と自民のどちらが強いかといえばもちろん自民なので、山田さんは結局、自民党であり既得権益の代表なのである。

したがって既得権益の打破を掲げた維新のスピリットはむしろこまざき美紀のほうに継承される。しかしこまざき美紀は維新ほど保守的ではない。またもちろん共産党や社民党ほど時代遅れ感がぬぐえないオールド左翼でもない。国民民主党や立憲民主党くらいの位置と考えていい。夫の駒崎弘樹さんが中道左派を自称しているので、夫婦でそこまでスタンスが違うとも考えにくい。ほぼ中道左派くらいと考えてよいのだろう。これは維新がもっていた経営者中心主義的=ネオリベ的(新自由主義)な右派性(自己責任重視)とは縁遠くなることを意味するので、サラリーマンなど多くの人びとにとって近い感性になるものと考えられる。もちろん、維新のもうひとつの側面である起業家的な精神はこまざき美紀にも、日本で最も著名な社会的起業家である夫(駒崎弘樹さん)から受けついでいる。つまり、こまざき美紀の立ち位置は、まさに社会的起業家のそれなのであり、それゆえに広範な支持を得やすいのである。

以上の考察では、よくいわれているこまざき美紀の子育て支援やブラック校則撤廃など細かいが膨大な850の実績などとは違う側面を強調してみた。

じつは実績でみると、4期の区議と1期の都議をやっている山田さんはこまざき美紀に比べたらほとんどなにもないのである。下記のサイトをみても、何も実績が書かれていない。これなら橋本さんのほうがよっぽど実績がある。

もちろん百歩譲って4期も区議をしてきたのだからきっといろいろ仕事はされてきたのだろうが、こまざき美紀区議のようには仕事内容を一般の人にわかりやすく伝えてはいないのである。そういう意味では何をやっているのかよくわからない旧来的な政治家である。何か社会的によいことをやってきたのかもしれないが、それを発信しないのは今日では政治家の怠慢であるし、端的に政治家にももちろん区長のようなトップにも向いていない。こういう情報発信では、こまざき美紀は本当に卓越している。


近年よくいわれることだが、自治体のトップはつねに情報発信し、区内外にわかりやすく区の状態を伝えることが求められている。そのような意味でもこまざき美紀にはトップの適性がある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?