リニアしょうへい、君の涙は乾いたか

リニアというお笑い芸人のコンビをご存知だろうか。

ツッコミの酒井とボケのしょうへいで構成される二人組である。

2016年に解散危機を経て、「S×L」というコンビ名から「リニア」に変更したそうだ。


彼らを知ったきっかけは第二回 The Second 16→8 ラウンド の予選で、同じ日に予選があった囲碁将棋を見るために有料配信を購入して見ていたところ、偶然目に止まった。

The Second の出場資格はコンビ歴が16年以上である。

出場する芸人は、そこそこ名が売れてお笑いでご飯が食べている中堅芸人か、
アルバイトをしながら地下ライブに出ているあまり知られていない芸人のどちらかだ。

リニアは残念ながら後者だ。

15年以上賞レースに引っかからず、解散危機やコンビ名変更を乗り超えて、それでもお笑い芸人を続けている。


リニアとハンジロウの試合は、個人的にその日のベストバウトだった。

手数が多くポップなネタのハンジロウに対し、後半に大きな笑いを持ってくる構成のリニア。
実力は拮抗していた。

2組の漫才が終わり、結果は僅差でハンジロウの勝利。

勝敗が明らかになった途端、酒井は顔をしかめ頭に手をやった。
しょうへいは呆然とし、涙を流した。2人とも受け入れられない様子だった。

ハンジロウのターニーがしょうへいの涙に気づき、自身も涙ぐみながら抱擁を交わしていた。
2組は日頃から地下ライブで共に切磋琢磨する仲間なのだ。

しょうへいの涙に釘付けになった私は、リニアの情報を追うようになった。

そしてこの本を手に取った。

The Second 後にKindle で出版した、しょうへいの作家デビュー作だ。
本の内容は、入院と解散危機という事の重大さとは裏腹に、淡々と日常を綴る日記である。
体調の急変から回復、そしてM-1への道のりを、40ページにまとめている。

しょうへいは、生命としての終わりを迎える可能性があった。
そして、なんとか体調を回復させ生命な危機を乗り越えたとしても、リニアとしての終わりを迎える可能性があった。

それらの危機を乗り換えて舞台に立っていたと考えると、あの漫才は奇跡のように感じられる。

そして、舞台上で流したしょうへいの涙は、単なる敗者の悔し涙ではないことに、本を読んだことで気がついた。

やり切った安堵感
仲間への賛辞
相方への申し訳なさ
支えてくれた仲間と奥さんへの感謝

様々な感情が交差しながら流した涙だと思う。

この涙を私はきっと忘れない。


偽善的かもしれないけれど、
売れることや世に出ることよりも大切なことがきっとこの世にはある、
と私は確かにその時に信じることができた。

来年のThe Second に向けたライブを見に行き、「来年こそ絶対決勝に行きましょう!」と応援の声をかけたい。


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