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映画「帰らない日曜日」

 席に着いてすぐ、原題を知らないことに気付きました。タイトルを頭の片隅に置いていると、見方が変わる作品もあります。たまにかけ離れた邦題がつけられることもあるので(「アナと雪の女王(2013)の原題は"Frozen")、普段は原題も確認するようにしています。今回はたまたま確認不足だったのですが、これが大正解でした。

 主人公ジェーンと同僚メイドの会話の中で、開始早々に原題を知ることになりました。ジェーンの人生を追いながら大きく分けて3つの時代が描かれており、主軸となるのはメイドとして働いていた頃の母の日の出来事です。同僚が帰郷するのを見送るジェーンには、帰る場所がありません。「帰らない日曜日」とは母の日のことで、イギリスでは"Mothering Sunday"と呼ばれています。そのまま「母の日」とも訳せるところ、素敵なセンスです。

 映画全体の印象としては、「静かで美しい」といった感じでした。R15指定だったので予想はしていましたが、包み隠さず裸体が映し出されています。特にジェーンが裸のまま屋敷を歩き回る場面はたっぷりと尺が取られており、「ヴィーナスの誕生」などルネッサンス期の絵画を思わせる映像でした。柔らかさを感じさせるヒップは女性像そのもの、波打つ茶髪と相まって美しかったです。最近は健康志向が主流なのか、雑誌などを読んでいても引き締まった身体の方が多いように思います。全身のシルエットに至るまで作品の雰囲気にぴったりで、主演のオデッサ・ヤングに拍手を送りたいです。

 登場人物たちの心理描写は決して多くないものの、それぞれが抱えている問題が垣間見える構成で、鑑賞後に浸りたくなる作品でした。特にポールがジェーンに対して告げた"Good bye"が切なかったです。"Good bye"と聞くとOfficial髭男dismの「Pretender」が思い浮かぶのですが、以前こんな動画を視聴しました。

8:11あたりから"Good bye"に対するネイティブの感覚が解説されています。

さようなら感。もう会わないの?みたいな。

事故の真相については明言されていませんが、ポール自身で選んだ道なのだという気がしてしまいます。"Good bye"のあとに日常的な連絡事項を伝えて違和感を拭い去ったところが、なんとも悲しいです。

 ポールの婚約者であるエマも魅力的なキャラクターでした。ポール亡き後、彼女はどんな人生を送ったのでしょうか。本編では終始不機嫌そうな彼女ですが、背負った悲しみを思うと憎めません。小さい頃は一緒に川で遊ぶ活発な女の子だったんですね。公式サイトの相関図ではいじわるな表情を浮かべていますが、真っ赤な口紅にサングラス姿は私の目に美しく映りました。どうか彼女には幸せな日々を過ごしてほしいものです。

 最後に「四本目の脚」について言及されていましたが、一体どういうことなのでしょう。一度だけさらっと観た映画を考察するのは難しいですが、あれは現実でなくジェーンの物語の中の台詞なのではないかと推測しています。途中のシーンでも「ここまでは言っていない」という台詞がありましたし、作家ジェーンが求められていたのはスリラーです。事実にスリラー要素を加えた結果が馬の脚問題なのではないでしょうか。

 とはいえ、この映画は推理するというより、謎は謎のまま置いておいた方がいいような気もします。深く考えるよりも美しさや静けさにじわじわ浸食されるような、そんな楽しみ方をしたくなる作品でした。

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