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映画「C'MON C'MON(カモン カモン)」

 劇場で予告を見て、これは絶対観ようと決めた映画のひとつです。数パターンあるポスターには、どれも素敵な言葉が添えられています。

「君の話を聞かせて」
「大人も子供も どっちもどっち」
「大丈夫じゃなくても、大丈夫」

ポスターに言葉が並ぶのはあまり好きではないのですが、こちらはデザインのさりげなさであったり、言葉のあたたかさだったり、映画の雰囲気と調和していて、素敵なポスターだと感じました。

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 こちらの映画、甥っ子ジェシーがとんでもなくかわいいです。大人の空気感を読みすぎる妙に聡いところがあるかと思いきや、年相応な子どもの部分も持ち合わせている。表現するのが簡単ではない役柄だと思います。ジェシーを演じたウディ・ノーマンの姿は、どこまでも自然体でした。私は仕事柄、日々子どもたちと接しているのですが、ジェシーにすこし似ている子がいて時折重ねながら観ていました。今後も出演作の公開が控えているそうで、そちらも楽しみです。

 監督が子どもたちにインタビューした実際の音声を織り交ぜながら進んでいく本作。子どもたちは難しい質問に対しても自分の意見をしっかりと伝えていました。時間をかけて咀嚼したい回答が多く、一度観ただけでは処理しきれなかったというのが正直なところです。そんな中でも印象的だったのが、父親が服役中だという少年の「責任を負うことに誇りを持っている」という言葉です。妹に自分と同じような思いをさせないよう、彼女を守るという使命を負っています。その重さは計り知れません。そのことに「誇りを持っている」と言える彼の強さに胸を打たれました。

 VOGUE JAPANのYouTubeチャンネルに、70人の男性に聞いた「人生で一番難しかったこと」という動画が投稿されています。

5歳から75歳の男性70名にインタビューした動画で、子どもらしく可愛い回答から壮絶な回答まで様々な答えがあります。若くして困難を背負った方もいて、人生の多様性を感じました。映画の中のインタビューでも人種差別に苦しんだ子どもが出てきます。経験をもとに自分の意見をはっきり持っている彼・彼女たちに頭が下がる思いです。

 話を映画に戻しまして、大きな特徴と言えるのが全編モノクロで描かれている点です。驚くことに、途中まで気付きませんでした。モノクロで始まったことは分かっていたのですが、次々届く言葉を受け取ることに集中するあまり、中盤になってようやく「あれ、今までずっと色がないな」と気が付きました。この点について、Filmarksで「色があったら情報量が多すぎる」という感想を目にしました。本当にその通りだったと思います。この映画を白黒にした理由はいくつかあり、監督はそのひとつについてこう語っています。​

白黒にすることで、日常風景から切り離されて、これは”物語”なんだ、ということをまず提示できると思った。つまり”物語”の中へ導くための手段だった。(映画公式サイトより)

映画館にも監督や主演のホアキン・フェニックスのインタビュー記事が掲示されていたのですが、人が多くじっくり読めなかったのでまた機会があれば読みに行きたいです。

 制作はA24というスタジオが手掛けており、ヒット作に「ムーンライト」(2016)や「ミッドサマー」(2019)などがあります。私はどちらも観たことがないのですが「A GHOST STORY」(2017)を劇場で観ました。アスペクト比は1.33:1というほぼ正方形のサイズが採用されており、フレームの四隅が丸くなっています。前情報無しで観たのでスクリーンに映った瞬間びっくりしました。今回調べて知ったのですが、このアス比は古典的サイレント映画時代の比率だそうです。思えば王道から外れた作品を観たのはこれが初めてでした。とても印象的なのが、夫を事故で失い悲しみに暮れる妻がパイを食べるシーンです。なんとこのシーン、長回しで約9分間も流れます。食欲が湧かないので少しずつ食べ始め、悲しみのあまり暴力的に食べたかと思えば反動で気分が悪くなってしまう。ただパイを食べているだけなのに深い悲しみが溢れていて、忘れられない場面になりました。

 「カモン カモン」(2021)に話を戻します。実はすこし寝不足でこの映画を観てしまいました。後悔しています。しっかり寝て、脳内の容量を最大限使える状態で観るべきです。心に響くシーンはいくつもあったものの、この重大な過ちのせいで記憶があやふやになっています。絶対にもう一度観よう。

 目に映る事柄だけで判断するのではなく、言動の奥にある本心を理解しようと努める姿勢を忘れずに生きていきたいです。

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