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映画「Coda コーダ あいのうた」

 こちらの作品を観たのは2ヶ月前なのですが、下書きに残ったままだったので最後まで書ききろうと思います。



 映画館もQRコードで入場できるようになったのですね。時代の流れを感じながらも、私はチケットをスケジュール帳に入れたい派なので、発券して館内へ入りました。

 「Coda コーダ あいのうた」(2021)は家族の物語です。シアター内にはちょうど映画に出てくる家族と同じ年頃らしき4人家族が座っていて、なんだかいいなぁと思いました。家族のだれが誘ったのだろう。
「とんび」(2022)という映画の予告が流れたのですが、たった1分近くの映像で泣いてしまいました。悲しい。苦しい。そんなことを言いたいわけじゃないのに。次々と感情が押し寄せてきて、つらかったです。原作小説は重松清さんが書かれたもので、重松さんといえば小学校の教科書に載っていた「カレーライス」というお話をいまだに思い出します。

 さて、「Coda」の主人公ルビーは4人家族の中で自分だけが聴者です。家族間の会話はすべて手話で進んでいきます。家族はろう者の俳優さんたちが演じていて、「ろう者役には、ろう者の俳優を」という監督のこだわりだそうです。
漁師である父親は頑固おやじな雰囲気で、口汚い言葉を使います。私は学校ですこし手話を習ったことがあるのですが、当然教科書的なものを習うので、手話の世界にも乱暴な言葉が存在するというのを初めて知りました。考えてみれば当然のことですね。予告映像の序盤にお父さんの手話が映っています。


ちなみに私が手話と聞いて真っ先に思い出したのは「オレンジデイズ」(2004)というドラマです。柴咲コウさん演じる耳が聞こえないバイオリニスト、萩尾沙絵を中心に大学生の恋愛模様が描かれています。彼女は気性が荒く、私が激しい手話を見たのはこれが初めてでした。話し声と同様に些細な動き、力の込め方ひとつで感情を表せるのだと、当たり前のことに気付いたのです。

 父親役を演じたトロイ・コッツァーは、SAG賞およびアカデミー賞で助演男優賞を受賞しました。手話によるSAG賞の受賞スピーチがこちらです。

映画の中とは違いあまりに上品で丁寧な手話だったので、この動画を見た時は本当に同一人物なのかと目を疑いました。それと同時に、私は手話を母語とする人たちのことを何も知らないのだと思い知らされました。役を演じている時とご本人として表舞台に立っている時の雰囲気が違うことなど、珍しいことではありません。しかし、ろう者であるというだけで驚いてしまうほど、彼らの姿を見たことがないのです。撮影時には工夫が必要になるでしょうが、手で話す方々が映画の世界でさらに活躍されることを願います。

 「Coda」というタイトルですが、これは”children of deaf adults”の略で「ろうあの親を持つ聴者の子ども」を意味します(ちなみに原題はすべて大文字表記です)。調べるまでは音楽記号の「コーダ」だと思っていました。音楽に深い関わりを持つ作品なので、二重の意味をかけたのでしょうか。

 私がこの映画を観た時、「ファイトソング」(2022)というTVドラマが放映されていました。主人公は後天的に聴力を失うのですが、彼女の好きな人はミュージシャンです。大切な人が夢中になっているものを共有できないという点で、ルビーの家族と重なって見えました。ですが「Coda」でも「ファイトソング」でも、それぞれが聴こう/聴いてもらおうとします。方法は違えど胸が温まる場面なので、同時期に両方観ることができて幸運でした。

 映画ではほぼすべての手話に字幕がついていたのですが、ラストシーンのハンドサインはあえて意味が明言されていません。私の大好きな「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(2020)でも同じ手法が取られており、テルシス語という架空の言語で書かれた手紙の最後の一文は、文字が映るだけにとどまります。映画を観たあとも、ハンドサインの意味を調べたり、最後の一文を解読・考察したり、楽しみを残してもらえるとワクワクします。

 観てからしばらく経ってしまったので、思い出しながら書くのは難しかったです。できるだけ日を空けずに書くことをゆるい目標とします。

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