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【映画レビュー】マイスモールランド(2022)


あらすじ


以下公式ホームページより引用↓

「17歳のサーリャは、生活していた地を逃れて来日した家族とともに、幼い頃から日本で育ったクルド人。現在は、埼玉の高校に通い、親友と呼べる友達もいる。夢は学校の先生になること。

父・マズルム、妹のアーリン、弟のロビンと4人で暮らし、家ではクルド料理を食べ、食事前には必ずクルド語の祈りを捧げる。 「クルド人としての誇りを失わないように」そんな父の願いに反して、サーリャたちは、日本の同世代の少年少女と同様に“日本人らしく”育っていた。

進学のため家族に内緒ではじめたバイト先で、サーリャは東京の高校に通う聡太と出会う。聡太は、サーリャが初めて自分の生い立ちを話すことができる少年だった。
ある日、サーリャたち家族に難民申請が不認定となった知らせが入る。

在留資格を失うと、居住区である埼玉から出られず、働くこともできなくなる。そんな折、父・マズルムが、入管の施設に収容されたと知らせが入る……。」

監督は川和田恵真。この作品が商業長編映画デビュー作であり、
2018年の第23回釜山国際映画祭でアルテ国際賞受賞作でもある。


1.舞台設定について

本作は昨今インターネット上で話題になることも多い、クルド人問題を扱った社会派作品である。

ただ、クルド人問題の実情についてはヘイト的な意見も多く、実際にこの作品の舞台ともなっている埼玉県川口市を実際に訪れたりしたことはないのでここでは言及しないでおきたい。

タイトルにもなっている『マイスモールランド』は、難民申請が不認定となり、自由に県境を越えられない状況に立たされたサーリャたちの苦境をうまく表現したことばである。

国家を持たないクルド人たちが、日本人がたいして意識していない県境に閉じ込められるのは本作で最も強調したい要素であり皮肉である。

ただ、真剣に埼玉県=マイスモールランドと表現しているなら、『飛んで埼玉』のせいで少し自嘲気味で面白くは感じてしまう…(良くはない)


難民申請を取り消されるチョーラク家族(公式HP引用)


2.エッセンスについて

本作は当然日本におけるクルド人問題と入管法についての問題がテーマとはなるが、それ以上にサーリャが立たされている状況に着目したい。

サーリャは血縁的にはクルド人ではあるが、自己認識としては生まれ、育った日本への帰属意識を持っている姿で表現される。その部分で父親と大きく対立するシーンは作中でも多く登場する。

ただ、見た目が違う彼女は高校の同級生や教師、バイト先でのコミュニケーションにおいて強くはないものの自然と差別をされている。これらのシーンを見ていると、嫌悪感を強く感じるので制作側の強く意図している部分であるだろう。

そしてサーリャには一般的な差別に晒される以外に、クルド人のコミュニティや家族を支えるヤングケアラーとしてや金銭的な問題からパパ活をするという、現代の弱者やそれらの女性像としても重ねて表現される。

つまり法律的、精神的、物理的な攻撃、トリプルバインドに阻まれていると言えるだろう。

その一方で、唯一の理解者ともいえる聡太とに淡い恋愛の描写は悲観的な状況とのギャップをうまく生み出している。

アーティスト志望で純粋すぎる優しい青年として描かれる聡太は、無知ではあるが差別や様々な社会の障壁を超えられる希望の存在であり、サーリャの幼い弟ロビンや妹アーリンと共に大人世代との比較によって次世代への期待を感じさせてくれる。

厳しい状況に置かれ、ハードな役を演じた主演の嵐莉菜さんや聡太役の奥平大兼さん、全ての役者には敬意を表したいと感じれられた。

サーリャと聡太(公式HPより引用)

3.総評

映像、演技、音楽どれも画面上の事象以上に見ている私たちに現代日本の閉塞感を感じさせると同時に、まっすぐに真に迫ってくるような感覚をもたらす、心を打つ、素晴らしいものでした!

特に入管での面会のシーンやサーリャと父の喧嘩のシーンは緊迫感がすごい!

人と人との埋めきれない溝や残酷な運命に立ち向かわなけらばならない勇気を改めて意識させられました。

ただ、演出というか脚本については詰め込みすぎ感は否めないかなと…

作中でサーリャの身に起きた様々な問題がないとは言い切らないものの、バタフライエフェクトのように巻き起こっていくのでリアリティが薄れすぎてしまっているような気もします。
(まあフィクションなので問題はないとは思うのですが…)

本作を見ていて製作者側が最も主張したかったことは、日本にサーリャのような不当な扱いを受けている人々が少なからずいるということに疑問や意識を投げかけたい、ということだとは思うので理解はできるのですが、彼女だけにミッションを押し付け過ぎて、見ていてしんどすぎるので共感はしずらいなとは少しかんじましたね。

やはりドキュメンタリー的な側面とエンタメ的な側面を両立するのは難しいんだなと…


4.最後に

ここまでの話を加味して………

おすすめ度は★★★★☆とさせて下さい!

役者陣の巧みな演技と引き込まれるストーリーが光る、
一見の価値がある作品です、ぜひサブスク等でご覧ください!

最後まで読んでいただきたきありがとうございました!

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