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グラナダTV版シャーロック・ホームズのお気に入り、3本。

原書房から刊行された「シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット」をこれから読む予定なのだが、その前に、グラナダTV版シャーロック・ホームズについて、書きたいと思う。

どのエピソードも好きだし、見どころはあるのだが、そのなかでも、とくに好きなもの3本をあげてみよう。

まず、「修道院屋敷」。
ある富豪が強盗によって殺害され、そしてその夫人も、頭に傷を負う。ホームズとワトソンは事件の起きた屋敷に向かうが、夫人は、事件の記憶が曖昧だという。
一度は、近所を荒らしまわっている強盗の仕業であるということで片がつけられたが、現場の状況や、夫人の供述に不信を抱いたホームズは再度調査をし、真相を突き止める。

私がこのエピソードを好きな大きな理由としては、被害者の妻を演じている女優にある。アン・ルイーズ・ランバートというこの女優は、1975年のオーストラリア映画「ピクニック・アット・ハンギングロック」で、行方不明になる美少女を演じている。
私はこの映画がとても好きなのだが、「修道院屋敷」を見てからずっとあとになって、あの夫人は、「ピクニック・アット・ハンギングロック」の美少女なのでは?と気づいた。調べてみて、やはり彼女だった、とわかったときはうれしかった。
ピクニックに出かけて行方不明になってしまった美少女を、シャーロック・ホームズのエピソードの中に発見したような気分だった。彼女の繊細ではかなげな風情が、どちらの役にもぴったりだった。

「修道院屋敷」に話を戻す。ドラマ版では、ラスト近くに、夫人がホームズに感謝の意を込めて抱きつく場面がある。夫人はオーストラリア育ちのため、ヴィクトリア朝英国の人間とは、その振る舞いに異なる部分がある、ということがわかるような場面であった。
さて、美しい女性に抱きつかれてジェレミー・ブレット演じるホームズはどうしたかというと・・・、彼は、ちょっと困惑した表情になり(「すみませんが奥様、やめていただけませんか」といった顔)、体を固くするのだ。当然、ですね。

次は、「ぶなの木屋敷の怪」。
家庭教師の仕事をさがしていた若い女性、ヴァイオレット・ハンターは、職業斡旋所で、ルーカッスルと名乗る男性に出会う。彼は、ヴァイオレットに高額な報酬を提示するが、その採用の条件が実に奇妙なもので、彼女はその仕事を引き受けてもよいものかどうかをホームズに相談しにやってくる。
何かあったら相談しなさい、とホームズに言われ、ヴァイオレットは、屋敷に向かうのだが・・・。

ドラマ版ではとくに、ぶな屋敷に住む人々の不気味さがよく描かれていた。ヴァイオレットが屋敷に到着すると、青白い少年が門のところに待っている。挨拶するヴァイオレットに彼が差し出した手には、小鳥の死骸。悲鳴をあげるヴァイオレット。

ヴァイオレットの採用の条件は、髪を短く切り、青い服を着て、一定の時間、窓のそばにすわって楽しそうに会話をする、という奇妙なものだった。
その決められた時間のあいだ、ルーカッスルはヴァイオレットを笑わせようと必死でおもしろい話をするのだが、この場面がなんとも滑稽で、そして、すごく怖い。
このルーカッスルを演じた俳優について、今、調べてみたら、名前は、ジョス・アックランド。なんと、2023年、今年の11月に95歳で亡くなっていた!

家庭教師ヴァイオレット・ハンターを演じているのは、ナターシャ・リチャードソン。数年前に、彼女が亡くなったということを知って、驚いた。スキー場で頭を強打したことが原因とのことだった。
ホームズから話が離れるが、彼女は、「ゴシック」のメアリー・シェリー役が印象に残っている。メアリー・シェリーの人生を映画化したものでは、「メアリーの総て」もあるが、私は、ケン・ラッセルによる、ディオダディ荘の一夜を描いた作品のほうが、ずっと、好きだ。

最後は、「赤髪連盟」。
ある日、ホームズのもとへ、赤い髪の男が訪ねてくる。彼は、新聞で「赤髪連盟」の求人広告を見て応募し、採用された。しかし、、ある日突然、「赤髪連盟」が解散してしまい・・・。

これは、ドラマ版、原作のどちらも、私が大好きな作品である。この作品については、不自然な点などが多くみられると指摘されているが、その、不自然な点こそがこの作品のおもしろさなのだ。新聞広告を見て大勢の赤毛の男たちが殺到したり、ただただ百科事典を書き写す仕事という設定自体、何もかもがおかしすぎる。

平凡社ライブラリーの、「クィア短編小説集」に、この作品が収録されているのを知ったとき、いいセレクションだな、と思った。
「赤毛連盟」には、どのカテゴリーにあてはめていいかわからないような、奇妙な魅力があるのだ。

ワトソンだけでなくホームズが大笑いするところなどなかなか見られないし、犯人逮捕の前に演奏会を楽しむ、なんていうのも、緊張感と優雅なひとときが絶妙なバランスで同居しているようで、素敵な場面だと思う。

今回は、お気に入り3本について書いてみたが、それ以外のエピソードについては、また、別の機会に、書くことにする。























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