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ドラマ『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』が好きだ

3期生メンバー・与田祐希ちゃんを主演に、テレビ東京にて7月1日(6月30日深夜)から放送が開始された30分ドラマ『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』

これが、まあ良いドラマ!非常におもしろい!毎回おもしろいし、改めて見返すとまたおもしろい!

昨年、同枠で放送された伊藤万理華ちゃん主演ドラマ『お耳に合いましたら』と同じ企画チームで作られているのだけど、いやあ、とても良いのだ。『お耳』もめちゃくちゃ良かったけど(今尚噛みしめるくらいには)、個人的な好みではむしろ『リコ』の方が好きまである。

『お耳』との違いで話を始めるなら、そのポイントは「各登場人物にどれだけスポットライトが当たるか」だと思う。そして、それが個人的に『リコ』の方が好きだといえる要因でもある。

もちろん『お耳』でも登場人物が目立っていないわけではないし、なんなら誰も愉快で魅力的だったが、あちらはあくまでも常に「主人公・高村美園の物語」であった

美園は、毎回のお話において、同僚にして友人の須藤亜里沙、佐々木涼平をはじめとした色んな人たちと関わり合いながら、何かを学んだり気付いたり乗り越えたりしていった。

その流れは常に、各回ラストに行われる(美園がパーソナリティを務める)ポッドキャスト番組『お耳に合いましたら。』へと集約される。そこで美園が愛するチェン飯を食べながら、その愛が、美園の「得たもの」と重なっていったことを明かす。それがドラマ『お耳』であった。

そのポッドキャストの部分が、「矢島模型店」でのプラモデル制作にすげ変わっているのが『リコ』であるわけだが、書いてる現時点(7月28日)までの放送回4話分を観ると、『リコ』とは「主人公・小向璃子の物語」ではないように思える。

確かに主人公は与田ちゃん演じる小向璃子なのだが、『お耳』と比べて『リコ』はもっと、周りの人の視点が描かれる流れがしばしば見える作品だ。

(後日新たに書いたnote。)

例えば、直近で放送された第4話では、リコが所属する「のほほん部署」ことイベント3部の、リコよりずいぶん先輩の同僚・雉村きじむらにフォーカスが当たっていた。

雉村は部署の最年長にして、部長代理という名ばかりの肩書を与えられていた。その立ち位置で彼は、周りにやんわりと気を使われては、他の社員に仕事が回っていく。

気づけば自身の役割・ポジションを失いつつあり、同期が現在の社長を務めていることへの劣等感なども感じ、早期退職することを内心決断していた(半ばていのいい追い出しであることを、承知の上での選択であった)。

「周りに気を遣わせる、老害かな」
「そういうこと言うなよ。お前が会社にいないと、寂しいじゃないか」
「……寂しい、だけか」

回を遡って第3話では、イベント3部に異動してきたばかりのリコの後輩・高木真司しんじがエピソードの中心。

やる気があって積極的だが、空気が読めず先走ってしまい、それでいて肝心なところでは人任せ、部署内では(主に先輩・中野に)「バカ」とミもフタもなく言われてしまっているのが彼だ。

教育係の猿渡さるわたりには厳しく突き放され、飲みの場で犬塚いぬづか・雉村に愚痴ればのらりくらりと諭され、あのリコからも痛いところを突かれる始末。

「言われたから言うけど。どこでもパソコン打つの、やめた方がいい。真司くんリーダーなんだし、もっと踏み込んで、前に出てやってほしい。打ち合わせも相手と私だけ。ポスターの交渉も私だけ。パソコンシールドでリスク回避しすぎ」
「メモりながら、頭を整理していると言うか……僕的には、その……メモったものを分析して……」

さなか、真司はリコに思い切って「どっか連れてってください!」と(雉村のアドバイス通りに)言い放ってみると、連れて行かれたのが「矢島模型店」

そこで真司を待ち受けていたのが、店主のやっさん(コワモテ)、バイトのちえみちゃん(可愛い)、そしてプラモデルである。第4話での雉村も、経緯は違えどリコによって「矢島模型店」へと連れられる。

そうして、雉村は『宇宙戦艦ヤマト』を、真司は『エヴァンゲリオン初号機』を、そして第1話でリコは『量産型ザク』(旧キット)を、やっさん・ちえみちゃんのアドバイスを受けながら作っていく。(雉村はかつてのモデラーの腕を活かして、リコの製作の塗装を主に手伝う。)

皆、プラモの製作が進んでいくにつれ、どんどん「良い顔」になっていく。ここが非常に良い! 『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』という作品がドラマとして切り取っている、何よりのポイントがここであると思う。

そもそもとして、上記の通り雉村や真司、仕事や職場の中で悩みを抱えていた。

そして第1話におけるリコもまた同様である。同期入社でやけに熱くて意識の高いイベント1部配属の浅井あさい「お前さ、いつの間に量産型の人間になってんだよ」と発破をかけられ、その言葉に引っかかっていた。

「目立たないように仕事して、事なかれで、決まった金貰ってランチばっか楽しみにして、誰も見てないのにそれSNSに上げて」

そんな胸の内に抱えていたものが、プラモデル製作の中で解きほぐされていくのである。

プラモを作る過程の中での、気を付けるべきポイントだったり、重要な工程だったり、思ったこと・感じたことだったりが、奇妙なほどに彼ら・彼女らの悩みとリンクしながら、小気味よい手応えの中で靄が払われていく。

「続いて、フィルタリキッドです。一度塗ったあとにこうして拭き取って、プラモに調子を付けます」
「調子を付ける……?」
「イイ感じにする、ってことです!」

「凄い……ヤマトの物語が見えます」
「塗装はただ色を付けることじゃない。1000分の1スケールのこのヤマトが実際にどんな冒険をしてきたか想像して、そのゴールへと近付けていく作業なんです。まさに、究極のイマジネーションですよ!……どうかしましたか?」
「驚きです。雉村さんって、そんなに熱くなったりするんですね」
「今では仏の雉村ですからね。昔を……思い出しましたよ!」

「いくらなんでも多すぎます……」
「ロボットじゃないんだ……」
「え?」
「エヴァンゲリオンは人造人間だ。だからこそ、細かい筋肉の部分まで再現されている。これだけパーツが多いからこそ、再現度は高い。ロボットではなく、コイツは生きてるんだ!」
「……認識を改めます」

「隙間を作られたプラモは不安だぞ」
「もっと、押し込むッス!」
「ビビるな、踏み込め!」
(パチッ)
「入ったッス!」
「ナイスだ、どうだ!?」
「なんだか……僕の中にも、何か入りました!」

「なんか……一瞬音が消えたって言うか」
「それは、脳の奥の奥にある扁桃体の働きッス。いつもは情報が多すぎてそこが疲れてるんスけど、何か一つに集中するとイキイキして、集中できるッス!」

「プラモの名作は物語が見えると言うが……」
「私のはぶきっちょで全然物語とかは見えないけど……だけど、だけど……何か、すごく可愛いです」
「愛着と言う、愛の形だ」
「リコさんが組み立てた、リコさんだけの量産型ザクです」
「私だけの……量産型ザク」

上では台詞ばかりを挙げてしまったが、むしろ台詞のない部分こそこのドラマの真骨頂と言える。

プラモ製作における、パーツをランナーからニッパーでプツプツと切り離す感触、やすりをかけるシャリシャリという音とフウッと粉を吹き飛ばす爽快さ、塗装を払うサッサッサという触り、組み合わせた時のパチッ、間接を曲げるキュッという手応え。それをこのドラマは、寄りに寄ったカメラと鮮やかな編集で、リズミカルに魅せ、伝えてくれる

同時に、作り手の「思うようにいかない……」「あっ、ヤベッ」「アレ……これでいいのかな」「あーもう!」「うまく出来た!」「よしよし」という表情をも、寄りに寄ったカメラで容赦なく切り取る。

だからこそ、組み立てを進める中で、悩まし気な表情も、良い表情も、とにかく変化していく顔が問答無用で映し出される。工程がひとつまたひとつと進むごとに、そのプラモデルが完成に近づく喜びを味わってる/"醍醐味"への理解が深まっていく作り手の顔が、良いものになっていくのだ。

実際の撮影時において1から10まで組み立てていることはなかろうが、パーツを切り離したり組み合わせたり、上で書いた感触は確かに感じているだろう、そういったことも含めて、作り手のリアルな顔が引き出されるのだ。

その変化、それが「完成」なのだ。「ギブ・バース」なのだ!

プラモを作るくらいでそう簡単に悩みが解決するもんかね、というツッコミが出来てしまうかもしれない。

しかし、プラモ製作はある種の儀式に過ぎない。そこで(彼ら・彼女らの中で)何が起きたか、台詞で語られつつも、何よりそれは顔に集約されているのだ。

完成形でもせいぜい掌サイズのプラモデル、パーツとなると尚更小さい、しかしそのパーツ1つ1つがこそ、何より大切で尊い。そのことはひいては、作り手の変化(する表情)がまた尊いことを示すメタファーのようなものだ。

「神は細部に宿る」とはしばしば言うが、つまりは細部がこそ人の本質を語るのだ。逆転的に、細部に寄れば寄るほど人は本質を見せる。

それこそを描くのがこのドラマであり、そのツールとして最も適しているのがプラモデル(製作)なのだ。

『人生組み立て記』というこのドラマのサブタイトルがまた良い。まさに、組み立ての工程を通して、真司曰く「何か」がカチッとハマっていくのである。

こんなところかな、という事を大体書けたのでここまでにしておこう。

本当はもっと、「リコは量産型というより何事にも情熱を持てないでいる人なのでは」みたいな話をする予定だったのが、入れらんなかった。

なにせ、上でも引用した真司とのやり取りや、そこまでの過程での仕事ぶりなどを見るに、おそらくリコは割と仕事が出来る。正確には、何事もソツなく出来ちゃうタイプだ。

ポンコツで自分の意思がなくて故に量産型……というよりは、何事も出来ちゃうし、ある程度で平均かそれよりちょっと上くらいにはいけちゃうから、なんだか全部つまらなくて熱量下がり気味、というタイプなように見受けられる。

(同期の浅井がやけにリコに執着してるのも、その潜在的な能力の高さを理解しているからなのでは)(あるいは、単に可愛いからか)(ちなみに真司がプラモ製作をすぐ受け入れたのは、ちえみちゃんが可愛かったからだ)

まあそこら辺は、全話放送が終わってから振り返る機会があったら答え合わせする感じでいこう。なにせ、まだ4話までという折り返してもいないタイミングである。

しかし、そこまで見ても、この『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』というドラマは非常に良いものを切り取っている作品だ。偉そうに言ってしまうが、この時点で既に「映像たるや」ということを成し遂げてさえいると思う。

ってな感じで、ともかく良いドラマだし、(画面を・映像を)観ていてとにかく面白いしグッとくるので、是非『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』を観てください。

テレビ東京系列にて、毎週金曜0:30 - 1:00(木曜深夜24:30 - 25:00)で放送中。Tver・Paraviでも見逃し配信中。

以上。




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