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『錆びたコンパス』/乃木坂46の歌詞について考える

今日(6月13日)、2期生メンバー・山崎怜奈ちゃんが、パーソナリティを担当しているラジオ番組『誰かに話したかったこと』冒頭で、乃木坂46からの卒業を発表した。

彼女の卒業に関して思ったこと・感じたことは(あまりにも長くなっちまうことうけあいなので)割愛するとして、ここで取り上げたいのは彼女のセンター曲『錆びたコンパス』である。

(それにしても、直前に執り行われた10thバスラを最後の舞台に選びながらも、卒業発表をライブ開催の後にした理由が、なんだか彼女らしいなあと鼻奥をツンとさせつつも微笑んでしまうものだ)

ライブって、みんなで作る、みんなで愛情をそそぐ作品であって、一人ひとりが主役になれるからこそ、ファンの方にも純粋に楽しく見てほしくて、そこになるべく干渉しないタイミングにしてもらいました。

この曲について一言でまとめれば、「これまでの例を追い越すくらい、この曲は山崎怜奈という人の当て書きだよね」ってことだ。

『錆びたコンパス』の楽曲発表当時、当時2期生メンバー・伊藤純奈ちゃん、渡辺みり愛ちゃんがグループからの卒業発表をしており、まるでこの曲は「仲間を見送る」ための歌のように受け取ることが出来た。

「新しい道に進む」と表現することがままあるが、そんな突然の別れを惜しむではなく、一人立ちし、過酷であろう道を選んだ仲間の事を、力強く背中を押すようなニュアンスで『錆びたコンパス』を解釈することが出来たのだ。

行き倒れたってそれで本望だ
立ち止まってるより前へ進め

Wow (Wow) Wow (Wow)
Wow Break a leg!

〈Break a leg!〉とは、「Good Luck」「うまくいくことを祈る」「君に幸あれ」「がんばれ」「負けるな」「無責任な言葉だけどひたすら君にエールを贈る」といった、"応援"の意味を持つ慣用句、スラングである(〈Fingers crossed〉とほぼ同義である)。

そんな言葉は、まさしく去りゆく仲間への激励のようであった。その点のみをピックアップして、『ごめんねFingers crossed』と並べて取り上げたりもした。

しかし実際のところ、むしろセンターを務める山崎怜奈その人そのものを謳ったような歌詞になっていることは歴然、と言いたいくらいに、それそのままの当て書きのような歌詞が記されている。

これまでの乃木坂楽曲でも、たいていセンターのメンバーないしその時期のグループ等々に対しての当て書きとして成立する歌詞が綴られてきたが、『錆びたコンパス』は、グループ内の立ち位置とか云々を超えたごく個人にフォーカスを当てていると言っていいくらいの内容として読んでしまうことが出来る。

なんかもう、細かく挙げるまでもないっつーか、上で貼り付けた卒業発表コメント全文掲載の記事内の卒業発表コメントと照らし合わせてみても分かるが、〈道なき道〉を進んできた代表的な一人が彼女だ。

歴史、クイズ、ラジオ、中国語、慶応大学への進学、本の出版やエッセイの連載。雑に挙げてみても、彼女が度々口にしていた「アイドルらしからぬこと」に当たるであろうことが目に付く。

しかしわかりきっていることであるが、今や「アイドル」という職業(活動)の幅はまるで際限がない。「魅力的である」という一点をもって、何でもかんでもやっているものだ。

しかしれなちさんの選んだ道(選ばれた、でもある)は、乃木坂46内に限っても、前例がないものが多いことは事実。

クイズ番組の(ガチの識者としての)実質レギュラー出演にしても、歴史本の(本人名義での)出版にしても、お昼の帯のFMラジオで各界人を迎え入れてのパーソナリティーにしても、そうそう見受けられる活動ではない。

そういった背景をもって、「自らの道を切り拓いた」中での屈指のメンバーとして、彼女の名前は乃木坂46の中でもあまりにも大きいと言える。

「王道」なんて言葉もあるが、その方向へは歩まなかった彼女は、むしろ「開拓者」として名を残すべき存在ではないか。

実際、4期生・北川悠理ちゃんがクイズ番組にたびたび出演しているのは、彼女の拓いた道があってこそであることは間違いないし、5期生・一之瀬美空ちゃんも学業との両立について相談に乗ってもらったことを明かしている。

後輩たちが、まさに後を追うように、れなちさんの手によって拓かれた道を歩んでいるのだ。

そんな「開拓者」ないし「冒険家」としての姿が、『錆びたコンパス』には綴られている。

錆びついてるコンパスの針はどこを指すのだろう
North? South? 好奇心の磁石はまだ生きてるんだ

どれくらい冒険者たちは道なき道を探したのか
今僕は最初の旅
青春の荒野よ

誰もが行くなと言うけど
人生に怯えていても何も始まらない

行き倒れたってそれで本望だ
立ち止まってるより前へ進め

志半ばで挫折しても一度くらい夢を見ていた方がマシだ

行ったことのない地平線の先よ
努力した涯に何を思う?

〈今僕は最初の旅/青春の荒野よ〉というフレーズが、あまりに熱くて尊くて、ガンガン涙腺を刺激してくる。誰も進んだことのない方を目指すれなちさんの笑顔が浮かんでならない。

ほぼ載せてしまったが、まさに過酷であろうと歩みをひたすら進めた姿を想起するような、そんな歌詞が『錆びたコンパス』には綴られている。

〈コンパス〉とは元々は、それこそ「王道」を指し示していたのだろうが、錆びてその機能が効かなくなろうとも、〈好奇心〉や「探求心」、「衝動」をもって進むわけである。

2番Bメロの歌詞がまた印象的である。

暖を取る薪の炎が自分照らすだけ

旅の途中、焚火に手をかざしながら頬が朱く照らされる様子が思い浮かぶ情景描写でありながら、その〈炎〉が胸の内のそれを表している絶妙なダブルミーニングである。

その〈炎〉がエネルギーとなって彼女を突き動かしていたわけである。1サビ最後のフレーズとも呼応しているが、その火は決して絶えることなく、彼女の存在を確たるものとして、影を縁取るように朱く照らし続けるのだ。

太陽がいつか燃え尽きてこの世界の闇が訪れようとも

というエモを、山崎怜奈そして『錆びたコンパス』から感じていたという話でした。

ある種の「へこたれなさ」を、群を抜いて強く持っていたのが彼女であることは、彼女を少しでも理解ってる人ならば理解できることかと思う。

そんな「力強さ」あるいは「心強さ」もまた彼女の魅力だ。

だがしかし、「知性」にしても「ハート」にしても、ここまで内面的な部分を主に取り上げてしまったが、フィジカルもまた彼女は魅力的である(ほぼ余談であるが、言わずにおれないので書こう)。

まずもって、類まれな長細さを誇る手足は、彼女のダンスをあまりにも美しいものに仕立て上げている。

バチバチにイジられてもいたが、「目立つ」は「目を引く」だし、それは「目に付く」ではない。要するに「良いから見ちゃう」ということだ。

しなやかでありながら余裕ある舞いが、彼女の魅力の大きな一つである(そこで見せる大胆不敵な笑みや妖艶な目線もまたしかりだ)。

なにせ、スタイルが良い。正直、個人的に山崎怜奈というメンバーを最初に意識したのは、乃木坂46の2nd写真集『1時間遅れのI love you.』にて1ページ丸々使って掲載されていた彼女の肢体が、あまりに綺麗なことに気付いてしまったからだ。

更にダンス、というかパフォーマンスする様として広く取り上げるが、その抜群のスタイルは、なんだかんだシンプルに立ち姿でこそ映えるものである。それが、サムネにも使った『錆びたコンパス』ライブ披露時に特に見受けられる。

真っ直ぐにスッと立った姿が(時に、拳を突き上げる様が)、勇ましくも美しく、このシルエットをもって彼女の唯一無二性を物語っている。

比喩表現としての「自分の足で立つ」「歩みを止めない」を誰よりも体現したのは、間違いなく彼女だ。

それこそ乃木坂46の活動は、さる立場からのプロデュース、ディレクションが比重を大きく占めていることだろう。

そんな中でも、山崎怜奈ちゃんは、誰も(本人でさえも)予想だにしない道へと進んだのではないかと思う。

そんな彼女が、遂にグループを離れて「新しい道に進む」と決めたことは、なんならとても素敵なことな気がする。

「王道ではない」と繰り返してきた彼女が(コンパスが指し示す「アイドル」でない方向へと歩みを選んだ彼女が)、「この方向こそが正しい」と心から思ったってことなんじゃないか。

結局ほぼ歌詞の話していないことからそろそろ目を背けきれなくなったので、大きくて頼もしい彼女の背中に〈Break a leg!〉とだけ投げ掛けて筆をおきます。

以上。


(余談)

れなちさんも『錆びたコンパス』の歌詞も、我がこよなく愛する中村一義デビューシングル『犬と猫』じゃん!と思って書き始めたら、まったく入れる余地がありませんでしたまる。

町を背に僕は行く。
今じゃワイワイ出来ないんだ。

皆、嫌う、荒野を行く。
ブルースに殺されちゃうんだ。
流行りもねぇ、もう…。
伝統、ノー。




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