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こんな朝があってもいいよね。

朝、夢から目が覚めた。冷たく湿った匂いと、少しの車の音。鳥の声。ポツリとひかる部屋の明かり。
まだ皆んなあんまり起きていないみたいだな。

現実ではずっと前にお別れした人と、夢の中でもう一度お別れをしてきた。泣いていた、様な気がする。もう覚えちゃいないけれど。

避暑地に行ったあの日を思い出すな。せっかく避暑地に行ったけれど雨だったから夏のくせに寒かった。でも、それが夏という季節から私達だけいきなり隔離された感じがして、心地よかった。
違う世界に私達だけが閉じ込められたみたいだった。
青白い世界を、幼い私とお兄ちゃんと2人で歩いた様な気がする。幼いといっても小学6年生くらいではあった気がするけれど。お兄ちゃんといる時は、どこまでも私は妹で、そういう意味で幼い。お兄ちゃんの隣にいる時に感じるニュートラルな気持ちは、わたしを幼いままでいさせてくれる。

あぁ、そう!
こんな朝はスコーンとブルーベリージャム。それとバター。そんなこと思っても、用意してくれる人もおらず、コンビニにホテルみたいな素敵なスコーンとお土産コーナーに置いてあるような手作りジャムもなく。泣く泣くお風呂にでも入ろうかな。あ、でも私の家ユニットバスだった。くそう。狭いぞ。ここはボロ宿だったか。


そうそう、夢の中でお別れをして起きた時に、その人をもう抱きしめる事が出来ない事を再認識して、辛かった。もう一生、抱きしめられる事がないのが辛かった。夢の中でくらい、もう少し抱きしめさせてよ。もう大丈夫だね、なんて勝手に決めるな。なんで夢の中でも少しずつ、消えてっちゃうんだよ。馬鹿。
そんな事をぼーっとした頭で考える。
そんな事を思うのに、一緒にいる人を今大切に出来てないことを思い出して馬鹿はあたしか、とか。暫く会えなくても、いつでも、いつまでも側に居てくれると思うなよ。抱きしめられると思い込むなよ。
でも、ちゃんと貴方にも私にも明日がある、と貴方はまだまだ此処にいる、と信じる事ができなければ私は動けない。いつでもバイバイするかもしれないという覚悟で日々を過ごしてない。いつ終わるかわからない生を生きている私達は本当は、いつでもバイバイする覚悟を持っていないとな。

青白い世界が段々と輪郭を作り始めて、朝になる準備を始めた。誰の為だろう。そんな事を考えても答えをくれる人はいない。
あぁ、朝が来るのだな。その事実だけを受け止めて私は素敵なスコーンもジャムもない、”いつもの朝” を今日も始める。


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