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『ゴジラ』シリーズについて思うこと 1

こんにちは。『シン・ゴジラ』を通算200回弱鑑賞している渡海です。

今回はタイトルの通り、ゴジラシリーズについて思うことをどんどこどんどこ書いていこうと思います。

こういう文章を書くときは敬体よりも常体の方が書きやすいので、以降、常体の若干お堅い文章となることをお許しください。

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1 序文

新機軸の開拓。これは長期化したシリーズの多くが、マンネリ化を防ぐこと、あるいはすでに起こってしまったマンネリからの脱却を目的として、しばしば試みることである。

私の好きなゴジラシリーズもまた、2010年代から現在にかけて、新機軸の開拓を図っていた。だが、『シン・ゴジラ』、アニメーション版『GODZILLA』三部作、そして2014年から始まったハリウッド版シリーズの全てにおいて、一貫したゴジラへのスタンスを私は感じていた。

恐怖。あるいは畏敬。

「立ち向かい抗うことがそもそも愚か」だという、人間の勝利に対する一種の諦観のようなものがあるのだ。

ゴジラシリーズはその歴史が長くなるとともに、ゴジラという存在をより強大に、偉大に押し上げている。あるいは、作り手からのリスペクトがどんどん大きくなっているのかもしれない。

大げさに言えばゴジラは近年もっぱら、クリエイターによって神格化され始めている。

今回はその所以について、シリーズの歴史から振り返って考えてみることとする。

2 初代ゴジラ

そもそも怪獣王ゴジラの歩み、その始まりは今から66年前に遡る。

1954年3月1日、米軍がビキニ環礁で行った水爆実験に巻き込まれ、日本の漁船とその乗組員が放射能で被曝した『第五福竜丸事件』

そこに着想を受けて作られたのが、シリーズ第1作『ゴジラ』である。

その封切りは事件からわずか8ヶ月後、同年11月3日のことだった。

作中ゴジラは、水爆実験によって住処を追われた超太古の巨大生物として描かれ、自身の住む環境を破壊した恨みを晴らすかのように人々の住む街を破壊していた。

つまり、人間の罪に対する、具象化された『罰』として描かれていたのだ。

事実『ゴジラ』は、最後にゴジラこそ死ぬものの、生物学者の山根博士(画像下部の口髭のおじさん)が「水爆実験が続けば、第二第三のゴジラが現れるかもしれない」という旨の言葉で、人間文明の過剰な発展に警鐘を鳴らして締め括られる。

こうしてゴジラは、反核映画として世に放たれたのだった。

3 昭和シリーズ

反核映画として始まったゴジラの歴史は、ゴジラからわずかに遅れて東宝が制作した『モスラ』や『空の大怪獣ラドン』からモスラとラドンをゲストに迎えつつ(あるいはMCUのようなシェアードユニバース作品群の先駆けとも言える)、モスラとラドンが同時に登場したシリーズ第5作『三大怪獣 地球最大の決戦』で一つの転換点を迎えた。

1966年に放送を開始した『ウルトラマン』シリーズの影響によって、ゴジラは悪い怪獣をやっつける人間の味方、すなわちヒーローへと、その立ち位置を変えた。

のちに『怪獣プロレス』と呼ばれる文化、その黎明でもあった。

自然破壊への警鐘や反核といったメッセージ性はなりを潜め、メインターゲットである子供に対して「よりわかりやすく」「より面白く」といった方への転換が図られた。恐怖の対象であったゴジラが善玉となり、SFの路線もどんどんエンターテイメント的な方向に切り替えられていったのだ。

カラーテレビの普及によって映画産業に訪れた斜陽の時代ゆえ、ゴジラシリーズも低予算化を余儀なくされたが、今現在ゴジラの持つキャラクターとしての幅の広さはこの昭和シリーズによって培われたといってもいいだろう。

4 平成VSシリーズ

そしてこのヒーロー路線のゴジラは、ゴジラシリーズの歴史でも一際華やかであった『平成VSシリーズ』にも引き継がれていく。

しかし昭和シリーズとの違いは、ゴジラの立ち位置があくまで『敵の敵は味方』にとどまり、完全に人類の味方としては描かれなかった点であろう。

ゴジラの方も討伐対象として扱われるが、ゴジラよりも強大な敵怪獣が多く現れ、結果人類はゴジラと共闘せざるを得ない・・・というのが、平成VSシリーズ共通の骨組みだった。

その上、最終的にゴジラは人類に倒されることなく、自身の生体システムの暴走によって己が身を滅ぼすこととなる。その時人類ができたのは、冷却弾でゴジラの死に伴う大被害を最小限に食い止めることだけであった。

1954年の初代『ゴジラ』以来、41年ぶりに明確なゴジラの死を描いた『ゴジラVSデストロイア』(小見出し下画像・下段右)は、「ゴジラ、死す。」という鮮烈なキャッチコピーとともに世に送り出され、公開後にはゴジラの告別式などというものが行われるほどの社会現象となった。

こうして平成VSシリーズも幕を閉じ、次いで4年後の1999年へその歴史をつなげていくこととなる。

5 ミレニアムシリーズ

平成VSシリーズからこの『ミレニアムシリーズ』までの間には、ローランド・エメリッヒ監督によってゴジラがハリウッド初上陸を遂げた。

だが日本国内外で大きな話題となった『GODZILLA』に登場したのは、生物的リアリティの追求の結果日本のゴジラから大きくかけ離れたフォルムのゴジラだった。

初代からの伝統の武器であった『放射熱線(放射能火炎とも)』を吐くこともしなければ、卵生で同時にたくさんの子供を増やす。最後には米軍のミサイル数発で命を落とすという描写の数々には、やはりというべきか困惑と批判の声が巻き起こった。

それを受けた東宝が「本物のゴジラを見せてやる(意訳)」と息巻いて開始されたのが、小見出しの題でもある『ミレニアムシリーズ』なのだ。

・・・ちなみに悪名高い『GODZILLA』も、史上初めて全編フルCGで描かれたゴジラであり、歩行に合わせて車が揺れたり尻尾がビルを掠めてガラスが割れたりするなど、当時では最新レベルの映像技術がふんだんに使われていたことを明記しておく。

1999年公開『ゴジラ2000 ミレニアム』に始まる本シリーズでは、平成VSシリーズのような地続きの世界観ではなく、シリーズ中の作品それぞれでまた別の世界観・別のゴジラが描かれた。

ちなみに『ゴジラ2000 ミレニアム』でのゴジラのデザインには、それまでとは違う新時代のゴジラ像が模索されたのか、初期には背びれが巨大で二列になっていたり、『GODZILLA』に負けず劣らずの前傾姿勢であったりと、爬虫類的要素の強いデザイン案が残っている(かつてゴジラ展などで公開されていたものであり、ネット上ではなかなか見つからない)。

異色作の多いミレニアムシリーズの中でも、2001年公開『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』においてのゴジラは、太平洋戦争による戦没者の怨念の集合体という設定がなされ、スピリチュアルかつ恐ろしいゴジラとして猛威を振るった。

瞳のない白目のみの目を持つゴジラが、圧倒的な力で街を壊滅させながら、ときには明確に人を狙った破壊を行う(明らかに人間に向けて放射熱線を吐くゴジラはほとんどいなかった)その様は、同時上映のハム太郎を観に来た子供達を大泣きさせたほどだという。

かくいう筆者も小学生の頃にDVDで観てトラウマになりかけた。病室のベッドで迫り来るゴジラに怯える女性、ゴジラが通過、胸を撫で下ろした瞬間に病院に叩きつけられる尻尾。この流れがGMKが怖いと呼ばれる理由の一つになっているのは間違いない。

しかし、映画全体の売り上げが落ちる流れに打ち勝つことはできず、ゴジラシリーズは2004年、『ゴジラ FINAL WARS』をもって、ひとたびの終焉を迎えることとなった。

6 『GODZILLA ゴジラ』

ゴジラシリーズが終わってしばらくのち、2014年、ハリウッドでゴジラのリメイク作が公開された。『GODZILLA ゴジラ』である。

下の画像はポスター。主人公のフォード・ブロディとその妻エル・ブロディを演じたアーロン・テイラー=ジョンソン氏とエリザベス・オルセン氏は、この1年後の公開の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で姉弟役として登場している。

日本からは渡辺謙氏をキャストに迎え、怪獣の存在をリアルな生物として捉え、自然の大きなシステムの一部であることを念頭に置いたリアリティある描写。ゴジラと敵怪獣の戦いを映画の聖地ハリウッドならではのCGクオリティで描いた本作は、アメリカ、日本、そして世界にゴジラシリーズの再始動を高らかに宣言する作品となった。

敵怪獣が放射能を食うために原子力発電所を破壊し、ゴジラがハワイに現れるシーンには津波も起こるなど、そのストーリーのバックボーンには3.11と福島第一原発事故があることも窺える。

そして怪獣を倒すために米軍が核弾頭を持ち出し、挙句それを敵怪獣に奪い取られ、それを今度は市街地での爆発を止めるために主人公たちが動くというストーリーラインは、そもそもの初代ゴジラの持つ反核・反原水爆の精神性を極めてハリウッドらしい論調でリファインしたとも言える。

ゴジラの登場時間の短さ、戦闘シーンの画面の暗さなどには批判的な声もあるが、それは本作の監督を担当したギャレス・エドワーズ氏が本来低予算のモンスター映画を制作する中で培ったノウハウの、ある種の結晶のようなものであるとも窺える。

歌舞伎のようなタメてタメてからの満を持しての雄々しい登場には、思わず「いよっ!待ってました!」と声をあげたくなるような日本文化へのリスペクトに満ちており、これはのちにシリーズ展開が決定した『モンスターバース』シリーズの第二作『キングコング 髑髏島の巨神』や続編『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』でも踏襲されることとなる。

ギャレス監督はゴジラという生物を新たにデザインする中で、顔面に鷹やグリズリーの意匠を取り入れた他、エラをつけるなどで生物的リアリティーとケレン味のあるかっこよさを両立している。ワニの鱗のような質感は、初代ゴジラの制作初期に作られた雛形にも通じている。

その佇まいや動きへ、「最後に残された侍」のイメージを取り入れられたギャレス監督版ゴジラに『ラスト・サムライ』でハリウッドでの知名度を上げた渡辺謙氏が出演しているのは偶然なのだろうか。

7

『GODZILLA ゴジラ』の大ヒットを受け、日本でも新たな国産ゴジラ映画の製作が決定した。『ゴジラ FINAL WARS』以来12年ぶりの国産ゴジラとありその期待と反響は大きかった。最初に発表されたのは製作陣だった。

『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明氏が脚本・編集・総監督を、平成『ガメラ』三部作の特技監督を務めた樋口真嗣氏が監督・特技監督を務めることが明らかになったのだ。

2015年4月1日に発表されたためエイプリルフールではないかとさえ言われたが、当然事実であった(下画像の左側が庵野秀明総監督、右側が樋口真嗣特技監督だ)。

予告編公開当日には熊本地震の前震が起こり公開延期も噂されたが、なんとか予定通り2016年7月29日に公開されたのが、映画『シン・ゴジラ』だった。

『シン・ゴジラ』は国産ゴジラ映画では初めてゴジラが全編フルCGで描かれたことや、キャストが総勢329人の大所帯であること、そして何より久しぶりのゴジラ映画であることなどで大きな話題となった。

私個人は高橋一生氏の知名度がここ3年ほどで大きく上がったのには本作のメガヒットが少なからず影響していると考えている。

そう、メガヒットしたのだ。ゴジラ映画としては異例のレベルであった。

決して大衆向けではない、庵野氏の脚本らしい小難しさと外連味に溢れた内容だったにも関わらず(あるいはその小難しさがリピートしたいという欲を煽ったのもあるのだが)、『蒲田くん』という人気キャラや、2016年現在では珍しかった発声可能上映の実施など、その人気はゴジラ映画オタクやエヴァを好むアニメオタクなどにとどまることなく老若男女に広がったのだ。

だが大きく人気が広がり、いわゆるライトユーザーが増えていくその陰に隠れて、初代ゴジラを好む人間の多くは「これは現代版『初代ゴジラ』なのだ」とほくそ笑んでいた。

作中、ゴジラはそれまでのシリーズになかった「変態」、あるいは一個体での「進化」を遂げる。ゴジラの影響と思しき現象が多発しながらも、ゴジラそのものの姿の描写は本編開始から実に15分もの間もったいぶられる。誰もが「あのゴジラ」の登場に向けた心の準備を余儀なくされる。

だが、見慣れたゴジラは登場せず、いざそのとき画面に映るのは二足歩行と言いつつも腹這いに近い姿勢でうごめく黄土色の肌をした謎の生物。「ゴジラが来る」「ゴジラが来る」と身構えていた既存のファンでさえ度肝を抜かれたものだ(ソース・筆者)。

これは『シン・ゴジラ』から遡ること62年、初代『ゴジラ』をリアルタイムで劇場に観に行った人の気持ちを追体験しているのだ。

すなわち、「想像の範疇を超えた、見たこともない謎の生物」をスクリーンに見たあの衝撃を。

作中、ゴジラを倒すために日本中が団結して官民一体となって奮闘するが、その脅威に対抗すべく国連軍が熱核攻撃の実施を決定し、奇しくもハリウッド版と同様、その攻撃を行わせないためにゴジラの活動を止める作戦を練り上げていく。

結果としてゴジラは死ぬのでもなく、ひとしきり暴れ終わって海に帰っていくのでもなく、自衛隊と米軍の共同作戦により、首都東京のど真ん中で凍結し眠りに落ちることとなる。

ゴジラ体内に発見される未知の放射性新元素は半減期が20日程度と判明し、ゴジラの被害を受けた街の復興にも希望が見える。

だが、熱核攻撃開始へのカウントダウンはあくまで中断、凍結されていたゴジラが再び活動を始めれば、直後に東京へ核が落ちるのである。長谷川博己氏演じる主人公が事態終息に向けた努力を今一度誓い、本作は幕を閉じる。

遠ざけるでも、排除するでもなく、身近な位置で向き合い方を模索し続けるというラストには、3.11の原発事故で第五福竜丸事件以来数十年ぶりに放射能の恐怖を再確認した現代の日本が、世界唯一の被爆国として打ち出した、「対岸の火事でも兵器でもなく、原子力と直接向き合い、正しく扱う」ためのメッセージがあった。

私は本作を『反核映画』ではなく『知核映画』、原子力発電も当然に行われる当時の日本で、その恐怖と利便性について今一度正しく考えるための足がかり的な映画として捉えた。

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今回はここまでにしようと思います。

だってこれからもっと長くなりそうなんだもの。

次回はさらに近年、アニメーション映画『GODZILLA』三部作と、昨年公開された『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』について振り返りたいと思います。

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