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118回医師国家試験 循環器内科医の視点から

循環器内科医として118回の医師国家試験の循環器分野の問題を解いてみました。近年の傾向ではありますが、実臨床に即した問題が多い印象でした。
今回はそのなかで今回は2問ピックアップして臨床的な視点から解説していきたいと思います。

※解説に関しては個人的な視点のものであり、正確な解説に関しては成書などをご参考ください。




【118D25】中年男性の急性心不全

63歳の男性。呼吸困難を主訴に救急車で搬入された。3日前から労作時の息苦しさを自覚していた。本日、帰宅後から徐々に息苦しさが出現し我慢できなくなり救急車を要請した。50歳時から高血圧症を指摘されていたが医療機関を受診していなかった。喫煙は20本/日を43年間。飲酒は機会飲酒。意識は清明。顔貌は苦悶様。身長170cm、体重85kg。体温36.8℃。心拍数122/分、整。血圧190/116mmHg、左右差なし。呼吸数26/分。SpO2 92%(リザーバー付マスク10L/分 酸素投与下)。頸静脈怒張を認める。心音はIV音を聴取する。呼吸音は両側全肺野でcoarse cracklesを聴取する。下腿浮腫を認めない。血液所見:赤血球445万、Hb 13.7g/dL、Ht 41%、白血球8,100、血小板22万。血液生化学所見:総蛋白6.9g/dL、AST 31U/L、ALT 30U/L、LD 164U/L(基準124〜222)、CK 110U/L(基準59〜248)、尿素窒素21mg/dL、クレアチニン1.1mg/dL、eGFR 60mL/分/1.73m2、尿酸8.2mg/dL、血糖104mg/dL、Na 132mEq/L、K 3.9mEq/L、Cl 110mEq/L、脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉1820pg/dL(基準18.4以下)。CRP 0.3mg/dL。心筋トロポニンT迅速検査陰性。心エコー検査では心収縮能は正常で弁膜症を認めない。12誘導心電図(A)と胸部エックス線写真(B)を別に示す。 診断はどれか。

a 心膜炎
b 拡張型心筋症
c 高血圧緊急症
d 不安定狭心症
e 閉塞性肥大型心筋症


解説:
先に答えですが、急性肺水腫、CS(クリニカルシナリオ)1心不全に関する病歴の判断を問う問題です。
⇒解答:c

急性心不全を生じる原因は様々ですが、病態は下記の3つに集約できます。

  • 急性心原性肺水腫(Volume Central Shift)

  • 全身的な体液貯留(Volume Overload)

  • 低心拍出・低灌流(Low Cardiac Output)

心不全加療はこれらの複合的な病態のどれが主体であるかを評価しながら行っていきます(ACSや右心不全等特異的病態は除く)。
CS1心不全とは、このうち急性心原性肺水腫(Volume Central Shift)が主要な要因である心不全を指します。体液過剰状態や拡張障害であるものの、普段は静脈によって緩衝されることで何とか維持されている体液コントロールが、交感神経活性によって静脈が収縮することで破綻し、血圧が上昇と更なる交感神経活性による悪循環によって急性経過で肺水腫を起こす状態です。

典型的には高血圧合併の呼吸困難として夜間救急搬送されてきます。眠前の臥位になったときに心臓への還流量が増加することによって呼吸困難を発症し、それを契機に交感神経が活性化し、上記の悪循環となるためです。
なので、当直ではよく遭遇する疾患の一つです。

基本的には再度静脈系に体液を移動させればよいため、ニトロ等の血管拡張+降圧薬を用いて改善を図ります。医師国家試験111B3のような純粋なCS1心不全であるならば血管拡張薬だけでよい可能性もありますが、実際には体液過剰であることが多いため、利尿薬も用いて治療を行います。本症例では " SpO2 92%(リザーバー付マスク10L/分 酸素投与下)" の状態であるため、搬送後すぐにNPPV(非侵襲的陽圧換気療法)を装着し、挿管・人工呼吸器管理がすぐにできるよう準備を進めながら治療をすることになるかと思います。急性肺水腫の挿管は必要ならば躊躇わないことが大切ですが、往々にして切迫しており、そしてリスクの高い患者さんである場合も少なくないので(本症例でも肥満患者)、挿管に慣れている先生にヘルプできる状態にしておくことも重要だと思います。

クリニカルシナリオについて:
非専門医であっても容易に急性心不全治療を行うできるよう作られたのがクリニカルシナリオ(CS)となります。CSの最大の特徴は、これまで " 心不全 = 体液過剰 = 利尿薬 " であった理解を、血圧というパラメーターを用いて、血管拡張薬が有効であるVolume Central Shiftという病態(CS1心不全)があるということを普及させた点にあります。 裏を返すとそれ以外の病態を血圧を根拠にクリアカットに区別することは難しいため、個人的にはCS1心不全の判断と治療フローを理解しておけば十分だと思います。


【118A51】narrow QRS tachycardiaへのATP

50歳の女性。動悸を主訴に救急車で搬入された。数か月前から週に1回程度の動悸を自覚していたが、すぐに治まるので気にしていなかった。午後8時、会食中に突然、動悸と呼吸困難が出現したため家族が救急車を要請した。既往歴と家族歴に特記すべきことはない。意識は清明。身長160cm、体重54kg。体温36.6℃。心拍数136/分、整。血圧126/90mmHg。呼吸数36/分。SpO2 98%(room air)。頸部に雑音を聴取せず、頸静脈の怒張を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。12誘導心電図を別に示す。心電図モニターをつけ、左前腕に静脈路を確保した。息こらえを30秒行ったが、頻脈は改善しない。気管支喘息の既往がないことを再確認しアデノシン三リン酸を投与することとした。投与後に一過性の胸内苦悶が起こることを患者に説明した。
投与方法で適切なのはどれか。

a 舌下投与
b 皮下注射
c 筋肉注射
d 急速静注
e 持続静注



解説:
PSVTのATP投与に関する問題で、禁忌である喘息がないことの確認もポイントです。
ATPは血中ですぐに失活するため、急速静注が必要です。実臨床でも、すぐに生食で後押しできるよう準備・工夫している先生が多いのではないでしょうか。書籍によってはATPは10mgからの投与を推奨していますが、10mgだと脈が結構伸びる方がいるので、個人的には5mgスタートがいいのではと思っています。ATP感受性ATの可能性を拾うこともできますし。
実習や研修で1回見ておけば忘れないと思うので、チャンスが来たら是非呼んでもらいましょう。
⇒解答:c

心電図からは恐らくAVNRT>AVRTで、数ヶ月に1度も出現している有症候性のPSVTなので、アブレーションの良い適応だと思います。Valsalva手技で停止させてもいいのですが、ATPの停止所見で事前に当たりをつけてアブレーションの準備ができるので、もしATPが可能な環境であり、循環器内科への紹介が少しでも検討されるのであれば、閾値低くATPをトライしていただきたいです。
このとき、必ずATPで脈が伸びてPSVTが停止する瞬間の心電図を残しておいてください。よくあるのがATPが使われたものの、頻脈時と洞調律復帰時の心電図しかないパターンで、これだとアブレーションの参考になりません。医師国家試験では関係ありませんが、卒業後の研修などでそのことを頭の片隅に置いておいてもらえると循環器医としては大変助かります。


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