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115回医師国家試験 循環器内科医の視点から

循環器内科医として115回の医師国家試験の循環器分野の問題を解いてみました。そのなかで所謂割れ問から2問をピックアップして勉強がてら解説を書いていきたいと思います。

※解説に関しては個人的な視点のものであり、正確な解説に関しては成書などをご参考ください。


【115A69】若年男性の致死性不整脈

32歳の男性。会社からの帰宅後、全身倦怠感があった。38℃の発熱を認めたため少し早めに就寝した。深夜、妻が横で寝ていると、突然うめき声をあげてその後動かなくなった。呼びかけても反応せず、妻が救急車を呼びながら胸骨圧迫を施行した。救急隊到着時の心電図モニターの波形を別に示す。AEDによる除細動で洞調律に戻った後、救急外来に搬送された。救急外来での12誘導心電図を別に示す。
この疾患について正しいのはどれか。2つ選べ

a X連鎖劣性遺伝をする
b Kent束が関連した病態である
c 植込み型除細動器の適応となる
d 発熱後に不整脈が誘発されやすい
e 治療にはIc群のNaチャンネル遮断薬が第一選択となる



モニター波形は心室細動であり、若年であることから、遺伝性不整脈疾患が疑われます。12誘導心電図が特徴的なCoved型を示しており、Brugada症候群と判断します(男性であることも疑わしいポイントです)。

Brugada症候群において重要なのは、Coved型か否か、有症候性か無症候性かになります。

Brugada症候群においてはCoved型心電図こそが重要な所見となります。
Coved型心電図は食後や体温上昇時に出現することがあり、また日内変動があることも知られています。

Saddle-back型心電図で紹介となることもありますが、有症候性(心肺停止、心室性不整脈、失神)でなければ特に介入はしません(無症候性Saddle-back型心電図はたとえ薬物誘発でCovedが誘発されても植え込み型除細動器(ICD)適応にはならないため)。
Saddle-back型で有症候の場合はまずは薬物負荷(Ic群Naチャネル遮断薬)でCoved型心電図が誘発されるかどうかを確認します。

Brugada症候群の治療は主に二次予防であり、Coved型心電図であったとしても、無症候性であれば原則的に経過観察です。ただし、不整脈リスクが高いと判断される場合は電気生理学的検査により心室性不整脈が誘発されるかどうかを調べることがあります。ただし、誘発されたとしてもICD適応はClassⅡbとなっています。

遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年)

Coved型心電図で有症候性であれば原則的に植え込み型除細動器の適応となります。原因不明の失神の場合は電気生理学的検査を行いICD適応を判断します。

遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年)

治療はICD植え込みとなりますが、拒否例や適応が微妙な場合、またICD植え込み後の頻回作動に対してキニジン(Ⅰa群Naチャネル遮断薬)が使用されることがあります。
また日本ではまだ一部の施設のみですが、カテーテルアブレーションによる治療も行われており、良好な治療成績が報告されています。
若年男性へのICD植え込みはデメリットも大きいことから、アブレーションは今後の治療として期待されています(手技的な問題で施行可能な施設は限られると思いますが)。
⇒正解:c, d

【115D4】心アミロイドーシス

心アミロイドーシスについて誤っているのはどれか。

a 二次性心筋症である
b 心電図で低電位差を認める
c 心筋生検が診断に有用である
d 左室拡張障害による心不全を生じる
e 老人性全身性アミロイドーシスでは免疫グロブリンが心臓に沈着する。



心アミロイドーシスの問題です。
a-dはアミロイドーシスの一般論、eをトピックとして取り上げています。

ATTRwtアミロイドーシス(老人性アミロイドーシス)について
近年アミロイドーシス分類は前駆蛋白に基づいて行われるため、老人性アミロイドーシスという病名はあまり使われなくなり、最近はATTRwtと称されます。

心アミロイドーシス診療ガイドライン (2020年)

肝臓で産生されるトランスサイレチンは4量体を形成して血中で安定していますが、加齢により四量体が不安定となると解離して単量体を形成し、これがアミロイド線維の基質となり全身に沈着します。
⇒正解:e

特に症状が顕在化するのは関節・靱帯と心臓で、それぞれ手根管症候群・脊柱管狭窄症、心肥大・不整脈・心不全という形で発症します。実際に手根管症候群の病理検査でアミロイドーシスが見つかり循環器内科へ紹介となったりします。
圧倒的に男性が多く、女性で診断がつくのは珍しい印象です。男性の心不全で既往に手根管症候群があれば極めて疑わしいと思います。

心アミロイドーシス診療ガイドライン  2020年

診断に有用なのはピロリン酸シンチグラフィで、疑わしければスクリーニングにかけ、陽性であれば心筋生検をします。組織診断がゴールドスタンダードで、日本では信州大学や熊本大学がアミロイドーシス診断支援サービスを行っています。

心アミロイドーシス診療ガイドライン (2020年)

ALアミロイドーシスより予後はよいですが、それでも確定診断からの生存期間の中央値は約3年半とされており、予後良好とは言えません(母集団の問題もありますが)。2019年よりトランスサイレチン四量体安定化薬であるタファミジスが日本でも使用可能となり、導入認定医のもと開始することが可能となっています。最近薬価が引き下げられましたが、それでも極めて高価な薬となっており、興味があれば値段を調べてみてください。

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