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116回医師国家試験 循環器内科医の視点から

循環器内科医として116回の医師国家試験の循環器分野の問題を解いてみました。今回はそのなかで正答率が50-80%程度だった、所謂割れ問から5問をピックアップして勉強がてら解説を書いていきたいと思います。

※解説に関しては個人的な視点のものであり、正確な解説に関しては成書などをご参考ください。


【116D18】心室頻拍二次予防

77歳の男性。胸痛,ふらつきを主訴に救急外来を受診した。同日15時頃から胸痛とふらつきがあり,20時50分に家族に連れられて来院した。12誘導心電図検査で心室頻拍を認め,収縮期血圧は70mmHg台に低下していた。150 Jで電気的除細動を行い洞調律に復帰後は症状が消失し,収縮期血圧は120mmHgに上昇した。血液検査で電解質異常を認めず,不整脈の誘因となる薬剤の服用は確認できなかった。心エコー検査で異常を認めず,緊急冠動脈造影検査では冠動脈病変を認めなかった。今後,カテーテルアブレーション療法を検討している。
現時点での薬物療法として用いられないのはどれか。

a α遮断薬
b β遮断薬
c Ⅰ群抗不整脈薬
d ベラパミル
e ジルチアゼム



特発性心室頻拍の予防目的の薬物治療に関する問題です。
α遮断薬は抗不整脈薬としては明らかに使用しない薬剤であるため、正解には比較的容易にたどり着けますが、ほか選択肢を自信をもって切れる学生は多くはないのではないでしょうか。

特発性心室頻拍の急性期薬物治療:
基本的には流出路起源(脚ブロック+下方軸)の心室頻拍が多く、β blockerがfirst lineになります。右脚ブロック+左軸偏位(上方軸)はベラパミル感受性心室頻拍の可能性があり、ベラパミル投与を考慮します。その他の波形に関しては、日本のガイドラインではβ blockerもしくはプロカインアミドとなっていますが、ESCではプロカインアミドがClassⅡaとなっています。

特発性心室頻拍の二次予防薬物治療:
二次予防に用いる薬剤もおおむね急性期薬物治療で用いるものと変わりはありません。

不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)
2022 ESC Guidelines on ventricular arrhythmias and sudden cardiac death

虚血などの器質的心疾患に伴う心室頻拍は特発性とは使用する薬剤が異なり、アミオダロンなどを考慮します。

不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)

77歳と比較的高齢ですが、やはりアブレーションは勧めると思います。追加で検査するとすれば、不整脈原性右室心筋症などの心筋症精査含め造影心臓MRIは行うでしょう。

【116F49】虚血評価

66歳の女性。労作時の前胸部不快感を主訴に来院した。10年前から高血圧症,糖尿病で定期的に通院加療を受けている。2か月前から,朝6時ごろのゴミ出しの時に胸部不快感を自覚することが数回あったため来院した。来院時の心電図は完全右脚ブロックで以前と変化はなかった。トレッドミル負荷心電図検査では目標心拍数に達したが,十分な判定ができる所見は得られなかった。冠動脈造影検査で,左前下行枝に50~75%程度の狭窄病変を認めた(No 11)。矢印は病変部を示す。血行再建術の適応と考えられた。
心筋虚血の有無を評価するために適切な検査はどれか。

a Holter心電図
b FDG-PET検査
c Master2段階法
d MIBG心筋シンチグラフィ
e 運動負荷タリウム心筋シンチグラフィ



中等度冠動脈狭窄に対する虚血評価の問題です。
冠動脈狭窄が判明している場合に行われる虚血評価の方法は大体下記の3つです。

カテーテルによる冠血流予備量比(FFR)検査:
最も正確ですが、カテーテルによる検査であり、侵襲性の問題があります。最近はCT-FFRなどを行うこともありますが、導入されている病院は限られています。

薬物負荷心筋シンチグラフィ:
ATPを用いた薬物負荷により、負荷時と非負荷時の心筋のタリウム取り込みの変化から虚血を調べる方法です。10万ほどの検査(3割負担で3万円)であるため、費用的に高額ですが、外来で可能で侵襲性も低く、上記のカテーテル検査と比べれば大分安いです。
MIBG心筋シンチグラフィは心臓の交感神経の分布と機能を可視化できる画像検査で、パーキンソン病やレビー小体型認知症では取り込みが低下するため、診断に用いられます。
⇒正解:d

運動負荷心電図:
診断の感度と特異度が必ずしも高くないため、参考程度にしかならないことが多いですが、本症例のように冠動脈狭窄と症状の関連が微妙なときはいい適応かもしれません。狭窄などがよくわからない症例に初手で使う機会はあまりありません。
ホルター心電図も日常生活の労作における運動負荷心電図の位置づけでガイドラインにも記載されていますが、感度特異度はさらに低いため、虚血評価として用いることは一般的ではありません。
マスター法は現在はほとんど行われていないと思います。負荷量をコントロールできないこと、予後指標として重要な運動耐容能を評価できないこと、負荷中の心電図変化を捉えられないことから、比較的簡便である以外トレッドミル法を上回るメリットがありません。しかも結構危険です。

コメント

ちょっとこの問題のシチュエーションが謎なのですが、私ならまず心エコー検査を行い、心機能問題なければ冠動脈CTを行って評価し、そのうえで狭窄があればカテーテル入院ないし外来で心筋シンチにすると思います。いきなりカテーテル検査は病歴がよっぽど怪しいか、緊急性がある場合に限られるでしょう。またカテーテル検査までやったのであれば、なぜFFR検査を行わなかったのかとても気になります。昨今の流れからも血行再建術の適応かどうかは虚血量と至適薬物療法の経過次第かと思います。

【116F65-67】弁膜症緊急疾患

59歳の男性。呼吸困難のため救急車で搬入された。
現病歴:仕事中に突然の息苦しさが出現した。胸痛は自覚しなかった。早めに帰宅し自宅で安静にしていたが,症状が持続するため救急車を要請した。
既往歴:高血圧症を指摘されたことがあるが,投薬治療は受けていない。
生活歴:職業は銀行員。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。
家族歴:特記すべきことはない。
現 症:意識は清明。顔貌はやや苦悶様。身長167cm,体重58kg。体温36.5℃。心拍数108/分,整。血圧134/86mmHg。呼吸数20/分。SpO2 99%(マスク5 L/分 酸素投与下)。眼瞼結膜と眼球結膜に異常を認めない。頸静脈の怒張を認めない。心音はⅢ音ギャロップを呈しており,心尖部を最強点とするLevine 4/6の全収縮期雑音を聴取する。呼吸音は両側の下胸部にcoarse cracklesを聴取する。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。下腿に浮腫を認めない。
検査所見:血液所見:赤血球442万,Hb 13.8g/dL,Ht 42%,白血球7,300,血小板20万。血液生化学所見:LD 218U/L(基準120~245),CK 70U/L(基準30~140),尿素窒素19mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,血糖158mg/dL。心筋トロポニンT迅速検査陰性。胸部エックス線写真で肺うっ血を認めた。心電図(No17 A)と心エコー図(No17 B)とを下に示す。心エコー検査では左室駆出率は75%で,局所壁運動異常は認めず,僧帽弁後尖に線維状の構造物の付着を認めた。

65: 病態はどれか。
a 僧帽弁狭窄症
b 肺動脈弁狭窄症
c 大動脈弁狭窄症
d 僧帽弁閉鎖不全症
e 大動脈弁閉鎖不全症

66: この患者に出現した弁膜症の原因として最も考えられるのはどれか。
a 腱索断裂
b 乳頭筋断裂
c 動脈硬化症
d Marfan症候群
e 感染性心内膜炎

67: 弁膜症に対する緊急手術を行うこととなった。手術までの治療として血行動態の改善が期待できるものはどれか。2つ選べ
a β遮断薬投与
b 血管拡張薬投与
c ジギタリス投与
d 体外式ペースメーカー留置
e 大動脈内バルーンパンピング〈IABP〉挿入



エコーで重症の僧帽弁閉鎖不全症となっており、特発性検索断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症(MR)の問題です。急性MRは血行動態破綻につながることがあり、循環器緊急疾患のひとつに数えられます。

急性MRの原因としては感染性心内膜炎による弁破壊、特発性もしくは外傷性腱索断裂、急性心筋梗塞に伴う乳頭筋断裂があげられます。心電図や採血の心筋逸脱酵素正常範囲内の所見からは心筋梗塞らしさは乏しく、感染兆候もないことから、特発性の腱索断裂となります。結構珍しいですね。
⇒65解答: d、66解答: a

基本的に急性MRは緊急手術の適応で、内科は緊急手術までの橋渡しくらいしかできることがありません。
前負荷・後負荷の軽減のため血管拡張薬や利尿薬、必要により強心薬を用いたり、それでも不安定な場合は大動脈バルーンパンピングや経皮的心肺補助装置などの機械的サポートを行う場合があります。
⇒67解答: b, e

【116A8】心サルコイドーシス


心不全で来院した患者において心サルコイドーシスの所見に合致しないのはどれか。

a 房室ブロック
b 持続性心室頻拍
c 左室駆出率の低下
d 心室中隔の非対称性肥大
e FDG-PETでの心筋への異常集積



サルコイドーシスは全身臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する原因不明の炎症性疾患で、心臓病変がある場合は予後不良となります。

実臨床的には左室壁運動異常や若年~中年の高度房室ブロックにサルコイドーシススクリーニングをすると引っ掛かることがあります。
基本的には組織診断が診断のゴールドスタンダードですが、残念ながら診断率は高くありません。心筋生検による心臓サルコイドーシスの組織診断率は約20%とされています。
日本のガイドラインでは組織診断だけでなく臨床診断も可能なためよく用いますが、こちらも診断基準を満たすのは結構大変で、実際はグレーゾーンで悩む症例が多いです。

早期発見・早期治療(ステロイド等の免疫抑制療法)により予後改善が示唆されていますが、症例数の問題から観察研究含め大規模な研究が限られており、まだ不明な点が多い疾患でもあります。

よく心室中隔基部の菲薄化が特徴とされていますが、病初期には浮腫を伴った炎症細胞の浸潤により、同部位の壁肥厚をきたすがあります(心室壁の局所的肥厚)。心室中隔の非対称性肥大といわれるとやや悩ましいところですが、これは肥大型心筋症を説明する文言であり、サルコイドーシスであれば局所的な肥厚とするのが正確でしょう。
⇒解答:d

【116E26】心原性失神

76歳の男性。失神を主訴に来院した。2年前に持続性心房細動と診断され、抗凝固薬が開始されている。その他の投薬はされていない。最近1か月の間に2度失神して、顔面を強打するというエピソードがあった。Holter心電図を施行したところ、最大心拍数112/分であり、ふらつきを伴う最大6.4秒のR-R間隔を認めた。
適切な方針はどれか。

a β遮断薬投与
b Holter心電図の再検
c イソプロテレノール投与
d 心臓ペースメーカー植込み
e 植込み型除細動器〈ICD〉植込み



不整脈による心原性失神の問題です。
Holterの所見が載っていないため詳細不明ですが、持続性の心房細動の病歴からは徐脈頻脈症候群ではなく、房室ブロックなのでしょう。

※徐脈頻脈症候群は心房細動などの頻脈性不整脈が停止し洞調律に戻るときに、洞結節からの電気信号がなかなか再開せず脈が伸びる疾患です。

失神も起こしているため原則はペースメーカーの適応ですが、今回のポーズがもし徐脈頻脈症候群であるならば心房細動アブレーションでペースメーカーを回避できる可能性はあり、その点踏まえ相談になります(基本的にはアブレーションをしたとしてもペースメーカーを薦めますが)。

心房細動ベースの房室ブロックによる失神で薬剤性や電解質等の介入要素がなければ、ペースメーカーが唯一の治療となります。アブレーションなどで洞調律化を目指すのであれば、まずは経静脈ペースメーカーを検討しますが、もし洞調律化を目指さない(=永続性心房細動)であるならば、リードレスペースメーカーも選択肢になります。心機能や予後、感染のリスクなど踏まえて相談になるでしょう。リードレスペースメーカーは感染に強く、VDDモード可能な機種も出てきており、最近のトピックのため知識として知っておいても損はないかもしれません。
⇒解答:d


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