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水平線 1stフルアルバム『NEW HORIZON』も話題の旅するロックンロール・バンド:sprayer Interview

海、空、灯台、離れた町にいる誰か、戻れない過去。京都を拠点に活動する4人組ロックバンド・水平線の楽曲は、いつもどこか遠くを見つめ、その視界を切り取りながら次の目的地へと転がっていく。3月13日にリリースされた待望の1stフルアルバム『NEW HORIZON』は、そんな「旅するロックンロール・バンド」としての彼らの現在地を捉えつつ、素朴な言葉とメロディが次第に大きなうねりとなってリスナーの胸に迫る会心作に。6年間の活動の集大成にして、国内インディーロックにおける新時代の幕開けを感じさせる一枚に仕上がっている。

今回は、ともにメインソングライターとフロントマンを務める田嶋太一(Vo,Gt)と安東瑞登(Vo,Gt)にインタビュー。精鋭たちと全国をサーキットする『旅するロックンロールツアー’24 “NEW HORIZON”』の開幕を目前に控えた彼らに話を聞くことができた。


バンドの精神性は挑戦的なロックスター?

[L→R] 川島無限(Dr) | 田嶋太一(Vo,Gt)| 安東瑞登(Vo,Gt)| 水野龍之介(Ba)

ー水平線は2018年に結成されたそうですが、その経緯は?

田嶋太一(Vo,Gt):今のメンバー4人は全員大学が一緒で。僕が2回生、安東(Vo,Gt)くんと無限(Dr)くんが3回生、水野(Ba)が4回生のときに、コピーが中心だった軽音部の中で、オリジナルをやりたい4人が集まったって感じです。

ー部活ではどのようなバンドをコピーしていたんですか?

田嶋:日本のバンドが多かったですね。特にこの4人のメンバーで被っていたのは、The Songbards、andymori、ZAZEN BOYSとか。

ー大学入学以前の、お二人の音楽ルーツについても教えてください。

田嶋:「ロックバンド、かっけー!」って思ったきっかけは、中三の時に友達から教えてもらったQUEENでした。ギターを始めたのもその頃で、それまではサッカーをやってたんですけど、試合に出れなくなっていくのと同時に音楽をやることに興味が湧いてきて。それからは洋楽をよく聴くようになって、高校時代はスレた洋楽主義者みたいな感じでしたね。

安東瑞登(Vo,Gt):僕の場合は、小さいころから親が車で流している音楽を聴いてて、最初にドハマりしたのは嵐でした。バンドで一番最初に好きになったのはミスチル。でも、何かをきっかけにバンドに憧れたっていうよりは、音楽として好きだったミスチルがたまたまバンドだった、みたいな感じ。それから自然にバンドサウンドに惹かれるようになりました。

ーお二人とも、現在のバンドのサウンドからはやや離れたルーツがあるように感じますが、水平線を始めるにあたって直接的に影響を受けた存在や、メンバー共通の嗜好などはありますか?

田嶋:これが結構難しいところなんですけど、4人で共通してるのは部活でコピーしていた日本語のロックかなと。それとやっぱり京都の先輩として、くるりは目指すべき姿だと思ってます。あとはスピッツもロールモデルかな。

ーくるりはもちろんのこと、近年ではベランダやバレーボウイズなど、京都には豊かなインディーロックバンドの土壌があるような印象です。

田嶋:そのあたりのシーンが盛り上がってきたのが、ちょうど僕たちがバンドを始めたころだったので、もちろん聴いてましたね。作風に大きな影響があったわけではないけど、やり方やムードは自然に後追いしてる部分もあるかもしれないです。

ーOasisの影を感じるリスナーも少なくないようです。ライブでも定番の「ロールオーヴァー」には"サリーは待ってくれないから"という「Don't Look Back in Anger」を彷彿とさせる歌詞がありますし、最新作『NEW HORIZON』には「SUPERSTAR'82」というadidasのスニーカーを冠した楽曲も収録されていて、ファッション面での影響もあるのかなと。

田嶋:Oasisとは、アコギからギターを始めたばかりの高校1年生の時に出会って。コードと歌だけで成り立つからコピーしやすかったし、難しいことをやってないけどカッコいいという王道さも良いなと。ほぼ全曲ぐらいの勢いで練習しましたし、そこまでコピーしたのは後にも先にも彼らだけですね。でも、水平線としてオリジナルをやるにあたって楽曲に影響が出すぎてるのも気持ち悪いんで、そこは自然に滲み出るくらいで良いかなとは思ってます。むしろ、アティチュードの面で、ああいう存在になりたい。

田嶋太一(Vo,Gt)

ー「俺らがロックンロールスターだ」的な?

田嶋:そうですね。

安東:実は精神性はそっち寄りなんですよ。公に発言したりはしないですけど、内に秘めてるマインドみたいなものは、彼らに近いものがあるかも。

ー水平線といえば、「旅するロックンロール」という肩書きが印象的です。

田嶋:バンドを始めたてのころ、とあるライブハウスのブッキング担当の方に「肩書きがあると、初めて知る人にもどんなバンドかをアピールしやすいんじゃないか」と言われて、自分たちで作りました。とにかく、スケールは大きい方が良いと思ってたのと……王道を進みながら、いろいろな場所を回って、様々な音楽を吸収したいなと。それに加えて、曲を聴きながら情景が浮かぶような曲を届けたいという思いがあったので、それらをいい塩梅で組み合わせて、「旅するロックンロール」になりました。

ーそのビジョンが正しく共有されているから、2人のソングライターが異なったテイストの曲を書きながらも、バンドの世界観に統一感が保たれてるのではないかと思います。「水平線」というバンド名自体が、その目線を端的に表していますよね。

田嶋:結果的には僕たちのやっていることを示す良い名前だと思うんですけど、考えた時はそこまで深い意味を考えてませんでしたね。英語や横文字のバンド名はフライヤーとかで目立たんから嫌やなっていうのと、くるり「その線は水平線」を当時よく聴いてて、その字面が良いなと思って。その前には、僕の地元にある中華料理屋さんから取った「どんたく」というバンド名になりかけてましたけど。

安東:ギリギリで修正しました(笑)


ソングライター・コンビの差異とシンパシー

ー楽曲制作について教えてください。水平線の楽曲は、主に田嶋さんと安東さんのいずれかが作詞作曲を一人で手がけてらっしゃいますね。田嶋さんはオルタナ的、安東さんはフォーク的なアプローチで、それぞれキャラクターが分かれているのがバンドの特徴にもなっています。互いのバンド内での役割を意識した結果なのでしょうか?

田嶋:いや、それはあんましてないです。

安東:フォークらしさというのも、僕自身フォークソングをそんなに聴いてきたわけではないので、そう感じ取ってもらえるのが不思議なんですよね。その都度聴いてるアーティストも変わっていて、いろいろな「このバンドのここが良いな」と思った部分をごちゃまぜにしてメロディを付けているので、一概に誰かを参考しているわけでもないというか、自分でもわかってない。

安東瑞登(Vo,Gt)

ーなるほど。楽曲はどのような流れで制作していますか?

田嶋:日頃から自分の琴線に触れたワードをメモったりしていて、次はこういう曲を作ろうというテーマみたいなものは漠然と決めてます。でも、先にアレンジを組み立ててからメロディーを考えて、その後にメモしていたワードやフレーズを軸に歌詞を付けていくパターンが多いですね。

安東:僕はまず鼻歌が最初で。それに合うコードをギターで弾いて、ワンコーラス完成させてから打ち込みでドラムやベースを加えて、最後にメロディが引っ張ってきてくれるイメージで歌詞を書いてます。

ー歌詞を書く上で、気を付けていることはありますか?

安東:聴く人によって曲のイメージが変わってもいいと思っていて。できるだけ一つの意味しかないような歌詞にはしないように心がけてますね。自分の外に出た曲は、もう僕の曲というよりも受け取った人に曲になってしまえばいい。なので、どう感じ取ってもらっても結構です。

田嶋:解釈の余地を与えるという感覚は僕も一緒だと思います。でも、僕の方が比較的具体的なことを言いたいんかな。あとは、季節や自然をモチーフに据えることが多いですね。歌詞を書く時には辞書を引くことも多いんですけど、その時に季語とかを気にすることもあります。そこまで堅苦しくは捉えてないけど、風流ではありたいというか。

ー4人のコーラスワークにも、強いこだわりを感じます。

田嶋:全員歌が好きなんで、自然にハモるようになって。

安東:王道でありたいとは思いつつ、数あるバンドの中で水平線にしかできないことが欲しかったんですよね。二声でハモるのは珍しくないけど、四声のコーラスができるバンドは少ないと思うんで。全員がちゃんとハモれるぶん、そこは武器にしていきたいです。

水野龍之介(Ba)
川島無限(Dr)

ー楽曲の構成も凝っていますよね。A→B→サビの繰り返し、という定型にとらわれない楽曲も目立ちます。

安東:必ずしもA→B→サビである必要はないし、洋楽的なヴァースとコーラスの形式でなくてもいいと思って作ってます。たとえば「かすみ草」では、元々はAメロとサビだけで、「サビとも取れるBメロ」的なパートが最初はなかったんです。ただ、ワンコーラスを作った段階で、曲として物足りひんなと。パソコンの中で切り貼りが可能なので、あるパートを先に持ってくるとか、後ろに移動させるみたいなことはやってますね。

ーギターソロをしっかりと聴かせてくれるのも、個人的には嬉しいポイントです。「この人たち、ギターが大好きなんだろうな」って感じがするというか。

田嶋:渋くてなんぼ、暑苦しくてなんぼですね。

安東:最近は飛ばされるらしいですけどね(笑)。ギターソロは一番、男が出る部分やと思うんで。大事にしていきたいです。


シーンに新しい渦を巻き起こす1stフルアルバム『NEW HORIZON』

ー3月13日にリリースされた1stアルバム『NEW HORIZON』は素晴らしい作品に仕上がりましたね。完成時には手応えがあったんじゃないでしょうか?

田嶋:そうですね、今できることは全部詰め込めたかなっていう。みんながどう反応するかは読めなかったですけど、現状すでに多くの反響を貰えてますね。

ー結成6年目にして初のフルアルバムとなりました。

田嶋:ここまで時間がかかった理由としては、単純に今まで長期的な計画を立てながら活動できていなかったというのが大きくて。定期的なリリースを続けないと見向きされなくなるんじゃないかというのもあり、細かくシングルやEPを出してたんですけど……いろんな人との繋がりもできて、今ならすべてを総動員したアルバムを作れるんじゃないかということで、去年の夏から準備を始めました。

ー『NEW HORIZON』というタイトルにも、様々な思いを感じます。

田嶋:京都でお世話になっているライブハウス・GROWLYの店長である安齋さんが、以前ANTENNAに掲載されたコラムで水平線のことを紹介してくださって、「日本のニューホライズンとなるか」って書いていたんですよ。英語の教科書のタイトルで聞いたことあるなと思いつつ、調べてみたら「新たな領域」「新たな展望」、ひいては「夜明け」みたいなニュアンスがあるみたいで。アルバムの制作が決まった時にそのことを思い出してタイトルとして提案したら、即決でした。

ーアルバムに何かコンセプトはあったのでしょうか?

田嶋:いわゆるコンセプトアルバムみたいな感じではないですけど、今の水平線を切り取ったようなアルバムにはしたくて。過去の曲も収録されているんですけど、それは2曲だけにしつつ、かつ再レコーディングやリマスタリングしました。今まで出してきた曲を入れるだけじゃ面白くないっていうのはみんな思ってたので。

ーノー・コンセプトでありつつも、曲順はすごく練られているんじゃないかと。一気に引き込む序盤と親密な中盤、そしてクライマックスと、通して聴きやすいドラマチックな構成になっています。

安東:4曲目の「ロールオーヴァー」は1st demo『ブルー・アワー』の収録曲でライブでも欠かさず披露してきた曲なんですけど、そこでワーッと盛り上がった後に5曲目の「三月」でアコギ2本と声だけに落とすという落差は推してる部分ですね。順番に聴くからこそ生まれる感情があることを狙って。

ー7曲目「月明かりの下で」では、アルバム中で唯一、ベースの水野さんが作詞作曲を担当されています。田嶋さん、安東さんとはまた異なるポップセンスが光る楽曲ですね。

田嶋:水野は以前からちょくちょく曲を作っていて、ライブで何回かやった曲もあるんですけど、正式にリリースされるのは今回初めてですね。アルバムの良いアクセントになったなと思います。

水野龍之介(Ba)

ー今後も水野さんが、あるいはドラムの無限さんが楽曲を制作する可能性はありますか?

田嶋:全然ありえますね。ビートルズもそうですけど、いろんな人がいろんなものを作れるのは強みになるので。僕や安東くんには作れないニュアンスがほかのメンバーから出てきて、その曲に4人で向き合うことで、また新たな領域に進めるんじゃないかと思います。

川島無限(Dr)

ーお二人が特に思い入れのある楽曲は?

安東:1曲目の「颱」ですね。水平線というバンドを一曲に詰め込んで、なおかつ今までにはなかった新境地も出せたと思ってます。『NEW HORIZON』というアルバムタイトルにふさわしい曲だからどうしても1曲目にしたくて、デモ段階の仮タイトルは「アルバム1曲目希望曲」でした(笑)

田嶋:僕は最後、11曲目の「Throwback」で、言いたいことをちゃんと言えたなっていう感覚があって。「颱」と2曲合わせて、あんまり面白くなくなってる音楽シーン、ロックシーンに新しい渦を巻き起こしたいというテーマがあって。そういう挑戦的で野心に満ち溢れた2曲に挟まれることで、アルバム全体に統一感が生まれたかなと思います。それが2人それぞれのニュアンスで作られているのも面白いですね。

ーバンドのアティチュード的な部分も曲に落とし込めたという。

田嶋:そうですね。だからお互いその2曲が気に入ってます。

ー坂内拓さんのアートワークも、水平線の音や言葉に寄り添っています。タッグを組むことになったきっかけは?

田嶋:「トーチソング」をシングルでリリースした時には既にアルバムを作る前提で動き出してたので、そのタイミングで、アートワークをやってもらいたいと思ってた人に頼んでみようと思って。色使い、線使いがめちゃくちゃ素敵なイラストレーターですし、その抽象度の高さも、僕らの「情景が浮かぶ」「景色を切り取る」みたいなニュアンスとマッチするとは前々から思ってました。

ー「かすみ草」のMVは、安東さんが撮影・編集・監督を担当されました。こだわったポイントを教えてください。

安東:「かすみ草」を書いてるときに、12月24日と25日の間の夜、クリスマスの朝が楽しみで眠れない幸せな子どものイメージが浮かんできて。だから、僕たちがおもちゃみたいに動いている映像を撮りたかったんです。なので、0.5倍速で録画した映像を元の速さに戻すことでカクカク感を出してます。あとは、あえて衣装にこだわってなくて、みんなには「家の中にいるみたいな服装で来てくれ」と伝えました。ほんまに家の中で起こってることかのようなニュアンスを出したくて。「撮影だぜ」っていう雰囲気を一切感じさせたくなかった。誰も髪の毛とかセットしてないし。映像をちゃんとやってきたわけじゃないんで、特別なことができひんっていうのもあるんですけど、その中でもイメージ通りに表現できたなって思いますね。

田嶋:髪の毛は、別に普段から誰もセットしてないけど。

ー今後も映像表現はDIYで取り組んでいきたいですか?

安東:一発録りにしか出せない面白さは、ちょっと沼にハマりそうですね。なので、今後もやるかもしれないです。みんなが許してくれれば。

田嶋:やりましょう。


テーマは「デッカく、エバーグリーン」

ー今月末からは、全国5か所を巡る『旅するロックンロールツアー’24 “NEW HORIZON”』も幕を開けます。気鋭バンドが集まった共演ラインナップには、SNSでも多くの反響が寄せられていましたね。

田嶋:アルバムを制作することが決まった時点で、ちょっと派手なツアーをやりたいとは思ってて、早めに準備を始めました。元々の知り合いや友達から、今回初めて連絡を取ったバンドもいて。今やれる範囲内で出来る限り良いラインナップにしたいという思いだったんですけど、結果として素晴らしい共演者が集まってくれましたね。

安東:気合入ってます。

ーそれでは最後に、水平線が今後目指すべきバンド像を教えてください。

田嶋:「デッカく、エバーグリーン」がテーマですね。それと、カッコよくて面白いバンド。結構ユーモアを大事にしてるんで……リラックスしながらやることをやって、その規模をひたすら大きくしていけたらと思ってます。

安東:普遍的でありたいですね。それこそ、スピッツはそのイメージを上手く体現していると思うんですけど。いつ聴いてもいいと思える、いつの時代にも存在できる音楽を作り続けたいです。


Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Edit:sprayer note編集部


Profile:水平線

2018 年、大学の仲間で結成、京都を中心に活動中。ギターボーカルが 2 人、ベース、ドラムの 4 人組。 一方ではブリットポップ /90sUK ロック色の渋めの音楽もありながら、他方ではメロディーにフックのあるポップソングもあり、幅広くロックを鳴らしている。こだわり抜かれたメロディーやコード、さらには 4 人が織りなす 4 声の爽やかで厚みのあるコーラスワークに聴き手は思わず情景を浮かべてしまうだろう。

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