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無装飾のインスト・エモーショナル anteの1stアルバム『beyond the ages』:sprayer Interview

ロックにおける感情表現に、必ずしも言葉や声は必要ではない。東京の4人組インストバンド・anteの鋭いアンサンブルが描き出すエモーションが、それを鮮烈に証明している。2020年に本格始動した彼らは、今年2月22日に待望の1stアルバム『beyond the ages』をリリース。憧れの存在でもあるtoeのギタリスト・美濃隆章氏をマスタリング・エンジニアに迎え、これまでの活動の集大成ともいえる全8曲をパッケージした。小細工なし、剥き出しのバンドサウンドは、直視すればするほどに生々しく、リスナーを強く惹きつける。同作の制作や、「結果的にインストになった」というバンドの成り立ちなどについて聞いた。


何かを作り続けたいという思いがあった

[L→R] モリノ(Ba) | ナナミヤ(Gt)| オオイミナミ(Gt)| ツナカワ(Dr)

ーバンド結成の経緯を教えてください。

オオイミナミ(Gt):元々、モリノくんが僕の高校の1学年後輩で、後輩の中でも存在感のある秀でた存在だったんですよ。その頃はコピーバンドをやっていたんですけど、オリジナルの楽曲をやろうと思って、モリノ(Ba)くんとドラムをやってた同級生に声をかけて3人でバンドを始めました。当時はインストの音楽をあんまり聴いてなくて、Hi-STANDARDとかのメロコアや日本語ロックを聴いてたんですけど、僕らの中で誰も歌える人がいなかった。それに当時の僕は、なぜか曲を作ってる人が歌わないとダサいと思ってたんです。僕が曲作りたいけど歌えないから、じゃあ歌なしでいいかなって。

ー別のボーカルを加えるのも違うなと。

オオイ:バンドやるなら友達と組むっていうのが前提にあったので、結果的にインストになったって感じですね。さらに結成から2年くらい経って、僕の中学の同級生だったナナミヤが加入することになって。ただ、大学を出るくらいのタイミングでそのバンドは自然消滅してしまいました。

ーそこからanteの始動までブランクが空いて。

ナナミヤ(Gt):ちょうど10年くらいだよね。

オオイ:そうなんです。その間、僕とナナミヤはバンド活動を全然やってなかった。でも、このままおじさんになるのは嫌で、何かを作り続けたいという思いはありました。モリノくんがSAKANAMONのメンバーとして活躍するのを悶々として見ながら、「オレの友達バンドやってるんだけど」みたいなことを飲み屋で吹聴する自分にもイラついてて(笑)。2017年ごろ、ナナミヤと「そろそろやるぞ」ということで、デモを作り始めて。最初はドラムを打ち込みで制作してたんですけど、ライブもやりたいと思ったタイミングで、モリノくんの友達だったツナちゃん(ツナカワ、Dr)を紹介してもらったのが2019年でした。

オオイミナミ(Gt)

ーブランクを経ても、やはりインストという形態は変わらなかったんですね。

オオイ:歌が得意じゃないからインストになってるってだけで、歌唱力があったら歌モノを作ってたと思います。普段聴くのもインストばかりってわけではないですし。

ナナミヤ:オオイさん、歌上手いですけどね(笑)。ただ、作りたい曲とは雰囲気が違うっていう。

オオイ:カラオケでGLAYとかよく歌いますけど、そういう世界観を自分のバンドでやりたいわけではないですからね。

ーバンドとして影響を受けてる音楽は?

オオイ:弦楽器隊3人で共通してるルーツはtoe、LITE、miaou。バンドを始めたころからすごく聴いてました。

ナナミヤ:2005年くらいから、日本のポストロック、インストのシーンが動き始めていて、その3バンドが先を引っ張っていた印象です。

オオイ:そういった共通項はありつつ、深いルーツはそれぞれ違うと思います。

ーなるほど。あえてその3組以外でみなさんのルーツを挙げるなら?

ナナミヤ:ストレイテナーが大好きで。2005年にリリースされた『TITLE』っていうアルバムがドンズバでした。

オオイ:僕はASPARAGUSですね。

モリノ(Ba):超ルーツまで遡ると親が好きだったビートルズなんですけど、楽器を始めるきっかけになったのはGRAPEVINEですね。

ツナカワ(Dr):僕はそもそも、anteに加わるまでtoeやLITE、miaouの3組を全然聴いたことがなくて、みんなに教えてもらったんです。メンバーが彼らを聴いていたころ、僕はフリッパーズ・ギターとかが好きで。ルーツでいうと、やっぱりL'Arc-en-Cielですね。今のanteの音楽にも、その影響は反映できていると思います。

ツナカワ(Dr)

ーちなみに、anteっていうバンド名は『幽☆遊☆白書』に登場する呪文から名付けられたんですよね。

オオイ:燻っていた社会人のころ、『幽白』を読みながら、「anteっていいな!」と思って。作品の中では、「開」と書いて「アンテ」と読む、エネルギーを開放するときの呪文なんですよね。僕は普段エネルギーを外に向けるタイプではないけど、音楽を通して内にあるものを開放したいなという……後付けの意味があります(笑)


緻密に構築された楽曲制作の裏側

ー楽曲制作はどのようなプロセスで進んでいくことが多いですか?

オオイ:僕が作るときは、なんとなくギターフレーズのネタを日々ボイスメモで録りためてあって。それを録音して、ドラムを打ち込んで。ベースのフレージングはモリノくんにおまかせしてるんですけれど、バンドに持ち込む段階で7割くらいは形になってます。

ーベース以外の細かいアレンジは、オオイさんがデモの段階で仕上げている?

オオイ:ギターは結構そうですね。ドラムは人間の手足を考慮せず打ち込んでいるので、ツナちゃんにヒューマナイズしてもらって。ギターもベースもドラムも、歌がないぶんそれぞれが主旋律として機能するような作り込みを意識してます。

ーモリノさんは、SAKANAMONでの制作やレコーディングとはまた異なる脳みその使い方をしているのでしょうか?

モリノ:そうですね、もう全然違う考え方だったりする。俺が自分のフレーズを決めていくのは楽曲制作の終盤ですけど、みんなの様子を見ながら、「ここはこの楽器がメインだな」「ここは俺が前に出られるかもしれない」みたいなことを考えながら作ってます。

ー最新作『beyond the ages』では収録曲「AVANT -album version-」のみナナミヤさんが作曲を担当されていますが、オオイさんと楽曲制作の流れは近いですか?

ナナミヤ:基本的には同じですね。ただ、僕の場合ドラムがまったくわからないので、「こんな感じ」ってイメージだけを伝えて、ライブをしながら仕上げていくみたいな。ただ、基本的にあんまり曲作る気がないっていうか(笑)。オオイさんの楽曲が好きだから、それを演奏したい。

ナナミヤ(Gt)

ーオオイさんから見て、ナナミヤさん作の楽曲は自分のものとどのような違いがあると思いますか?

オオイ:やっぱり……なんかルーツがちょっと違うなって思いますね。

ナナミヤ:HIPHOPとか、そういうビート音楽みたいなものも結構好きなんですよ。だから、単純なフレーズを繰り返す形で作ることが多くて。オオイさんはメロディラインを綺麗に仕上げてくるから、差が生まれますよね。

オオイ:あとは、僕に比べて楽曲を作り込みすぎないですよね。だから、ちゃんとリズム隊の2人のいいところが現れる。僕もあんまりやりたいことを押し付けないようにしないとなって、勉強になります(笑)

ーちなみにオオイさんは、曲名をどうやって決めているんですか?

ナナミヤ:僕らも知らない(笑)

オオイ:最初に決めてることが多いですね。良いなと思う言葉をメモしてて、このタイトルだったらこういう雰囲気の曲だよな、と広げていくパターンもあります。曲名の意味は言えないものもあったりするんですけど(笑)、多少意味があるようにはしてます。

ーマンガをイメージして楽曲を作ることもありますか?

オオイ:今回のアルバムにはないですけど、いま新たに作ってる曲は『シグルイ』をイメージしてます。あの作品のエネルギーを曲にしたいなと思って。


ストイックなアンサンブルを聴かせる最新作『beyond the ages』

ーsprayerから配信された最新アルバム『beyond the ages』について伺わせてください。2022年11月に開催した自主企画イベントにも同じタイトルが冠されていましたが、アルバムとイベントで共通したコンセプトがあったのでしょうか。

オオイ:『beyond the ages』というフレーズ自体には、時代を超えてバンドをやっていたいという気持ちがこもっていて。僕たちは何年も前にバンドをやっていて、しばらく空白期間があったけど、おじさんになってまたやってる。シーンは以前ほど盛り上がってないかもしれないけど、その中でずっと続けている人もいる。昔からやりたかった曲を、今できている。

オオイミナミ(Gt)

ーなるほど。個人的には、アルバムの制作陣やイベントに出演するアーティストが様々な世代から構成されているという意味合い、あるいはanteの音楽が世代を超えて未来のリスナーにも届いてほしいという願いもこもっているのかなと思っていました。

オオイ:それもありますね。インストなので言葉がない、わかりやすい意味がないけれど、だからこそいつの時代に聴いても響く人には響く良さがあるのかなと。

ーサウンド面では、贅肉を削ぎ落したソリッドな音響にこだわっている印象です。レコーディングとミックスはモリノさんが担当されていますが、どういったビジョンを持っていましたか?

モリノ:コンセプトとしては、"ノー・シンセサイザー"。

オオイ:LUNA SEAの1stアルバム『LUNA SEA』のクレジットに書いてあるんですよね、「No Synthesizer」。やっぱそれってめっちゃかっこいいなって。あくまで人力で、人の手から鳴らされてるっていうのが重要で。

モリノ:裸のギター、ベース、ドラムで勝負しようっていうコンセプトの作品だと思ったので、それをなるべく活かしてます。それこそtoeやLITEの楽曲は、キャリアを経るごとにシンセとか歌が加わっていったじゃないですか。逆に、生楽器だけのインストを今やったら新しいんじゃないかと。

モリノ(Ba)

ーシンセがないのもそうですけれど、ギターサウンドにも空間系のエフェクトなどがほぼ用いられていないですよね。

オオイ:曲作りにおいて、飛び道具を使うのがあまり好きじゃなくって。基本を忠実にやりたい性格なんです。基本ができてないのに応用をやってちゃダメだと思ってるので。シンセも、いろんな音が出せるから思いがけない発見があるじゃないですか。それを避けて、自分のギターだけで完成するものを作りたかったんです。


ーハプニングやミラクルではなくて。

オオイ:そうですね。でも、今後苦しくなったら手を出すかもしれない(笑)

ーマスタリングはtoeの美濃隆章さんが手がけられています。どういった経緯で今回のタッグが実現したのでしょう?

ナナミヤ:いま仲良くしているPEEKっていうインストバンドがいるんですけれども、彼らのサウンドがすごく好きで、クレジットを確認してみたら美濃さんが手がけてらっしゃったんですよね。PEEKに限らずこれまでにも、良いと思ったら美濃さんが関わってた、というバンドが結構あって。モリノくんがSAKANAMONで一度録ってもらった縁もあったので、頼んじゃいました。

オオイ:恐れ多くも。

ー仕上がりを聴いた率直な感想は?

モリノ:間違いない仕上がりでしたね。なにも文句のつけようがないって感じで。僕がミックスで悩んでいたポイントも、マスタリングで解決していたりして、そんなことがあるのかと。どういうマジックなのかわからないですけど、ありがたかったです。

ー美濃さんにはどのようなオーダーを?

モリノ:いや、もう全部おまかせです。

ーそれでも、自然と完成図が共有できていたんでしょうね。

オオイ:僕らが、美濃さんの領域に足を突っ込んでいったようなものですからね。

ーdobashi isaoさんが手がけたサイバーなアートワークも印象的ですが、どのようなイメージで依頼したのでしょうか?

ナナミヤ:dobashiさんとは直接面識があったわけではないんですけど、seamless CM名義での音楽活動もチェックしていて、機会があれば一緒に何かできればと思っていたんですよ。なので、自主企画『beyond the ages』に来てもらって、そこでお話をして。タイトルについてのイメージや、制作の経緯を伝えた上で作ってもらったら、上がってきたのがあのアートワークでした。

ー無駄がなくてスマートなんだけど、ディテールを見ると複雑という、サウンドのイメージが見事に可視化されていますよね。

オオイ:おそらくルーツが近いところにあるので、我々がやりたい音楽への理解度がすごく高いんですよね。そのおかげで、良いアートワークになったなと思います。

ー収録曲の中で、特に手応えのある曲はありますか?

ツナカワ:1曲目の「cultural kidding」はずっと一番好きな曲だったので、やっと形にできたなっていう手応えがありますね。今anteがいるシーンは、傍から見るとクローズドに見えてしまうと思うんですけれど、やっぱり若い子、キッズに刺さるバンドでありたいという気持ちがあるので(笑)。彼らの心を掌握できるのがこの曲だと思ってましたし、良い出来になりました。


「ストロングスタイルでやっていきたい」

ー現在、ツアー『beyond the ages tour 2024』の真っ最中ですね。3月23日には、Studio REIMEIでの30名限定スタジオライブを開催しますが、やはりそういった距離感の近さを大切にしているのでしょうか?

オオイ:音はどこにいっても届くんだけど、すぐそこでやってることの良さっていうのはありますよね。手元や足元が見えて喜んでくれる人もいたらいいなと思います。

ナナミヤ:海外のインディーエモなバンドも、かなりちっちゃい会場でやったりするんで、そういう意味での憧れもありました。

ーオオイさんが「バンドは友達とやりたかった」と語られていましたが、やはりローカルな関わりや手の届く範囲の繋がりをベースに、それを広げていきたいという感覚があるのでしょうか?

オオイ:バンドは友達とやりたいですけど、その外では人見知りなんで、コミュニケーションはみんなにおまかせしてます(笑)

ナナミヤ:基本的に、ライブは自分たちと関わりのある方々と一緒にやりたいってメンバーで話してますね。ゲストのバンドもですし、会場も。

ー6月21日に東京・下北沢ERAにて開催されるツアーファイナル公演は、スペシャルなライブになるそうですが。

ナナミヤ:はい、我々がバチバチに影響を受けた方と共演するライブです。先ほどから話にも挙がっているmiaou、LITEに加え、猫町さんをDJとして招きます。

ー最後に、今後の制作について質問させてください。『beyond the ages』はノー・シンセサイザーなアルバムとのことでしたが、これから作りたい作品の展望はありますか?

オオイ:今回のアルバムでバンドの持ち曲を全部出しちゃったので、今頑張って作ってます(笑)。飛び道具的なものはやっぱりあんまり考えてないですね。ライブをやるときに困ることはしたくない。身一つでできる、ストロングスタイルでやっていきたいです。

ーたとえば、ゲストボーカルの参加などは今のところ考えていない?

オオイ:どうなんでしょう、歌のある曲作れるのかな……。でも、誰かの歌にanteで曲を付けるのはやってみたい。誰かにリミックスしてもらうのも楽しそうだし。これからも色々な繋がりを作れればいいなと思います。

Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Edit:sprayer note編集部


Profile:ante

4人組インストロックバンド
クリーンでエモーショナルな音を鳴らします
ante is japanese instrumental rock band
 
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https://www.instagram.com/ante_music_official

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