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愛おしき旧東独製PANCOLAR1.8/80

自慢したってしょうがない

 珍しいレンズを持っているからって自慢したところで、使いこなす技量が伴わなかったら意味がありません。近頃はオールドレンズがハレーションを起こすのを面白がっている人を見かけるけれど、表現手法として活かされているかどうかが肝心ですよ。レンズの個性って、たしかにありますけれど、そのレンズを使う誰もが再現出来るものなので、それは撮影者の個性だとはいえません。オールドレンズだって量産された工業製品であって、ワンオフじゃないのです。

 自慢したってしょうがない、そう言いながら、あえて御紹介しますのは、「そのレンズでなければ表現できないことがある」みたいな真っ当な理由を掲げるわけでもなく、ただ単に「そのレンズで撮るのが愉しいから」ということからです。

かつてはベッサフレックスを使っていました

 ここから昔話になります。2003年頃、旧東独製のM42マウントのレンズが中古市場に出回っていました。どれも安かったので、後先のことを考えずに何本かを買いました。ちょうどベッサフレックスというM42マウントを採用した新型カメラが登場したので、それに装着するのです。

 かつて世界標準だったM42マウントは東西陣営の壁をも突き破り、当時は共産圏だった旧東独の製品と、西側陣営に属した日本製品との間で互換性があったのでした。あまりオススメしませんが、旧ソ連製のカメラやレンズも互換性がありました。

 その後、メーカーそれぞれ規格の異なるバヨネットマウントを採用するに及んでM42マウントは退場します。しかし、世界中で製造された多種多様のレンズは、いまでも中古市場に出回っています。それらM42マウントレンズを使うために開発されたのがベッサフレックスでした。

 オートフォーカスなんかついてません。一応は露出計を内蔵していますが使わないで撮ることが出来ます。機械式シャッターなので、いっさい電池を使わずに撮影が完結します。

 さて、ここからはPANCOLAR1.8/80のことをお話しします。

 旧東独ペンタコン人民公社の製品とはいえ、ブランド名はツァイスです。なかなか写り具合は良かったので、いまはなき電子書籍サイトRopLib向けの撮影にも使っていました。

 そういう時期もありましたが、やはり実用性においてはデジタルが35mmフイルムを上回ったと判断して、2005年頃から使っておりません。わずかな期間の活躍でした。

ペンタックスK-1で復活を目指したが

 およそ10年を経た2016年、ペンタックスK-1というデジタルカメラを購入しました。簡素なアダプタを介してM42マウントレンズを装着出来るので、旧東独製レンズたちの復活を期して、大枚をはたいたのでした。

 しかし、結果は散々でした。

 約3640万画素のボディーに対し、半世紀前に製造されたレンズは釣り合うはずもないのでした。無論、デジタル化を想定している設計ではないですし35mmフイルムの解像度は800万画素相当くらいでしょうから、釣り合わないというのはアタリマエなのです。しかし、どうしてもアラが目立ってしまうので、実用性を考えることを諦めてしまいました。

 さりとてトイカメラみたいな「変な写り具合」にもなりません。腐っても鯛で、ツァイスの名は伊逹ではなく、妙なクセが無いマトモな写り具合なのです。もともと高級ブランドとして西側諸国にも輸出していた製品でしたから「いいかげんさ」を期待するのは間違っています。

 久々に使ってみると「撮影が愉しい」という、その点にこそ他の何物にも代えがたい価値があります。

絞れない80mmが愛おしい

 いまあるM42マウントレンズは、単焦点ばかりです。
 内訳は35mm、50mm、80mm、200mmですけれども、最も愛着あるのは80mmです。絞り羽根が動かなくなっていて開放でしか撮れません。何故かソレを愛おしく思っています。

ブランドはCARL ZEISS JENA DDR

 中判6×6(ロクロク)の標準レンズが80mm開放2.8で、その味わいが好きなので、なんとかデジタルで再現できないか模索しているうちに、オールドレンズの再活用を思いつきました。画角は違うけれど焦点距離は同じだし、うまくいけば近い絵柄にならないかと、期待したこともありました。

ボケ味は中判に近い

 たしかにボケ味は近いけれど、似て非なるモノです。中判の浮きあがって見える立体感を醸し出すボケ方には届きません。

最短は0.83m

 最短撮影距離は0.83mで、テーブル上の小物を撮るには適していません。コレで限界ギリギリです。なにせ絞れないものですから、ピントを深くすることは出来ません。

不便さが愉しい

 オートフォーカスは出来ないし、レンズの絞り値が自動的にボディーへと伝わる仕組みもありません。気軽に撮るわけにはいかずドッコイショと声をあげながら気合いを入れて撮る感じが好きなのです。

愛用の単体露出計

 いまどき使う人は珍しいでしょうが、私が常にカメラとともに持ち歩いている単体露出計は、最新型で撮る場合でも使っています。なぜかというと、コレで明るさを測れば、まるで測ったように正確な露出で撮れるからです。測っているのだから当然です。その出た目のとおりに撮らず、いくらか味をつけるためにアンダー目にしたり、オーバー目にしたりもしますけどね。

 普段から、そういう面倒臭い撮り方を好んでいるので、不便さを愛おしく感じているわけです。

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