美しい英単語ランキング (1)
美しい音が大好きです。
「美しい」とは脳にとって心地よいこと。
わたしの脳が「心地よい」と感じる美しいものは、しかしながら万人に普遍的なものなのでしょうか。
誰でも同じように美しいと感じる何かがあると思いたいのですが、西の海に沈んでゆく美しい夕日を見ても、誰もが同じような深い感動を感じるわけではないのです。
美的感覚は先天的であるよりも、学習によって学ばれる後天的な感覚なのではないのかなと私は考えています。
美的感覚は経験と教育によって養われるものです。
美的な感動を感じ取る能力は学べば学ぶほど深まるのです。
先人たちが美しいとみなした伝統的な美をたくさん経験すると(観て聴いて学んで)美的感覚はますます鋭敏になり、素人にはわからないような審美観を持てるようになります。
「美しい」を知るには、ある程度の経験も必要。
体験学習が必要なのか
毛筆を実際に手にして書道をしたことのない人は、名人や達人の崩れた字体の書に美を見出すことは難しいことでしょう。少しでも筆や半紙や硯を体験した人の方が書道をよく理解できるものです。
漢詩の悠久の詩情を感じ取りたくても、漢文の読み方鑑賞の仕方を知らなければ、漢詩など、ただの象形文字の羅列でしかないことでしょう。
ピアノ音楽を聴くにも、鍵盤に触れたこともなく、ピアノを奏でた経験のない人よりも、ピアノの基礎を学んだ人の方がピアノ音楽に深い理解ができるものです(でも芸術性の理解は楽器の鳴らし方を知っているかどうかにはあまり関係ない)。
語学もまたそうもの。
あるひとは自分の知らない外国語を音楽のように美しいと感じることもあれば、なんという醜い響きの言葉なのだと感じることもありえます。
子どもは感性豊かなので、生まれつき「美しい」を本能的に好む子供もいるけれども、ほとんどの子供は美しさの意味をもっと大きくなってから学ぶものです。
美しさとは、数多の経験を経て、初めて体感できるようになるのだとわたしは思うのです。
外国語の美
ゆえに美は極めて主観的なものですが、美を知覚する能力は、経験の深さに深く影響されるとわたしは思います。
歳をとればとるほど、沈んでゆく夕日の美しさが心に沁みるように。
言葉の場合、難しい意味の言葉を「美しい」と心から感じるようになるには、いろいろな人生経験が必要でしょう。
でもですね、音としての言葉は「音楽」です。
言葉を感じる人の喋る言葉との経験がどんな言語を美しいと感じさせるのかの基準となりえます。
つまり、母国語との親近性が外国語が自分にとって美しいか美しくないかを決める要因になるのです。
いまでは英語世界で暮らしているわたしは子供のころ、日本語しか知らず、英語の響きが好きではありませんでした。
ひとによっては、日本語にはないアメリカ英語の深い響き(喉の奥から響かせる深いR音や、Tを濁らせてDとして発音したりする癖)を美しいと感じることもあるでしょうが、わたしには不快でした。
いまでもアメリカ英語があまり好きではない理由なのですが、日本語にはない英語の弾むリズムを楽しいと思えるようになると、なじみの薄いアメリカ英語でさえも、とても音楽的で美しいと感じるようになるものです。
見知らぬ言語の音への耐久性はある程度は慣れですね。つまり経験。
でも誰にでも好き嫌いや相性もあります。美は本当に主観次第。
中国語の個性
わたしには中国語ネイティヴの家族がいるので、うんざりするほど中国語のシャワーを浴びて、中国語の響きに人並み以上に親しんでいますが、いまもなお、中国語特有の日本語にも英語にも存在しない中国語の母音Uや、自分には正確に発音できない子音 Zh, Ch, Shの響きの独特の濁りが大嫌い。
英語のJudge=Zh, Church=Ch、Ship=Shという風に、英語の音に似ていると言われていますが、わたしの耳には全然違う音に聞こえます。
中国語の特徴の上がり下がりする声調も全然好きではない。つまり、中国語はわたしと全く相性が悪い。
ほんとに美とは主観的。
英語の特徴
英語の場合、英語の強弱アクセントのリズムに馴れたためか、いまでは英語の独特な子音や弱い母音の響きを美しいとさえ感じるのです。
特に素晴らしい英語詩を朗読したときには。
さて長い前置きでしたが、英語が本当に美しいと感じるようになるには、まとめると日本語とはかけ離れた発音構造を持つ英語に慣れ親しまないといけないと思います。
英語の美は英語独特の強弱アクセントに基づいていますが、どこか西洋音楽の肝である強音と弱音の繰り返しに酷似していると気がつくことが、私にとって英語に親しみを覚えるためのとっかかりでした。
クラシック音楽の基本は、美しい歌声で歌われる強弱の音の交代です。
教会堂で歌われる合唱は音の終わりが漸減してゆく響きが美しく、その音の揺らぎがどこか英語そのものの自然な響きとよく似ています。
洋楽を通じて英語の美に触れられる方もたくさんいらっしゃることでしょう。
英語そのものは教会音楽やオペラなどの伸びる音を重んじるクラシック音楽とは全く相性が悪いですが、ビート音楽的なリズム要素を持つ英語は二十世紀以降隆盛した大衆音楽のミュージカルやロックにはぴったり。
また中世の歌でも世俗音楽のリズムにはやはりぴったりなのです。
ここに英語の面白さを感じたりもします。
上記の教会音楽を書いた十二世紀のラテン語のヒルデガルド・フォン・ブンゲン Hildegard von Bingen (1098-1179) の世俗音楽を英語にして歌うと、英語がオリジナルであったかのように、本当に素晴らしい。
日本語の美しさとは
英語と日本語の違いはアクセント以外にも、短い音と長い音の組み合わせの違いとも言えます。
四分音符の八分音符の組み合わせのように。
全ての音が均等な長さを持つ日本語はいわば全て四分音符。
だから五七五の俳句が成り立つのです。
英語にも俳句は輸出されていますが、英語俳句は音節を数えて作らないので、厳密には俳句とは別物の英詩ですね。
同じ長さの音から成るので、日本語の美は大和言葉のような柔らかな音の組み合わせが美しい。
「木漏れ日(こもれび)=Komorebi」
「朧月夜(おぼろづきよ)=Oborozukiyo」
「澪標(みおつくし)=Miotsukushi」
「もふもふ=Mofumofu」
「ふわふわ=Fuwafuwa」
これらの美しい日本語の単語には、音の上がり下がりやアクセントの強弱は関係ないのが日本語らしさ。
一語一語に同じ長さ (音価) が与えられるのに、中国語のように音程が上がったり下がったりもしない。日本語にも顕著な微妙なイントネーションの差異がありますが、基本的に日本語は平板な言葉。
日本語は外来語が日本語化した漢語(明治以降はカタカナ語)と純和製の和語との組み合わせが特徴的な、世界で稀なる言語です。
母音の数が五個だとか、そんな音素に関しては似た言葉はいくらでもありますが、やはりこの点はユニーク。
だから漢文読み下し文のようなものも成立するし、古今和歌集のような大和言葉の詩集も編めるのです。
英語話者が最も美しいとみなす英単語とは?
最近になるまでようやく英語が美しいなと思えるようにならなかったほどに英語嫌いだった英語話者ですが、それは次のような理由のためですした。
英語の美しさに気がつけるようになったのは、発音矯正をして、口の周りの筋肉を鍛えて、舌を動かせるように鍛錬して、喉の奥を広げられるような発声練習を繰り返したからです。
日本語とは全く異なる発声方法を持つのが英語です。
以前にも書きましたが、大きな口の動きと舌遣い、英語喉と呼びたくなる口の奥の深い部分から息を吹き出すことが英語の音を生み出すに必要な最低条件なのです。
そしてそれができるようになると、あら不思議!
英語の英語らしい音ほど (つまり日本語式発音では発声不可能な音) ほど美しいと思えるようになったのです。
体験を通じた学習の結果です。
具体的には、舌をよく動かさないと発生できないLやRの組み合わせ、英語特有の曖昧母音のシュワ Shwa = Ə などの響きが連なった響きは特に英語の中で美しいと思います。
そこでインターネットを使って検証してみました。
というキーワードでインターネット検索すると、ネイティブスピーカーが美しい言葉だと感じる言葉を掲載したサイトがいくつも見つかります。
検索結果の上位に表示されたサイトは以下のようなものでした。
上記の七つの人気サイトが挙げた英単語をリストして並べてみると、約二百ほどの英単語の中から重複する言葉が見つかりました。
いろんなサイトの作成者(多くは英語教育者や文芸編集者)が最も美しい英単語の候補に挙げる言葉はきっと多くの英語話者が美しいと感じる言葉でしょう。
日本語の旧暦の月の名(睦月、如月、弥生、卯月、五月など)が日本語として最も美しいことばであるとほとんどの日本人が感じるように、英語にも誰もが美しいことばだと思う言葉があるのです。
美しい言葉は
であると同時に
であると思います。
ランキングNo.1
この基準で最も美しい言葉とされたのは
七つのサイト中、六つのサイトが美しい言葉として挙げていたのは、やはりこの言葉でした。
Serendipity /ˌsɛr ənˈdɪp ɪ ti / [ ser-uhn-dip-i-tee ]
音節が五つもあって長い言葉ですが、「思いがけない幸運な出会い」とも「思いもかけない何かを見つける才能」とも訳される言葉。
Rが最初の音節にあり、短いアイiが二度続きます。
発音は外国人には難しいですが、それだけに素敵な言葉。
英語独特な音の組み合わせが英単語の美しさの決め手ですね。
思いもかけない幸運な出会い、それを一語で言い表した言葉ですが、実はこの言葉は非英語圏である外国のおとぎ話が由来で、この言葉の誕生には裏話があります。
だからこの言葉のアルファベットの並びはどこか外国語的。
'Serenpidity' と綴るとより英語的なのに、この言葉は「Serendipity」。
語尾が-dityで終わる英単語も数少ないのですが、-pityで終わる言葉はこの言葉以外には皆無。ChatGPTにも訊ねてみましたが、見つかりませんでした。
非常に非英語的な言葉ともいえるかもしれませんが、いまでは最も美しい英単語として認知されている単語なのです。
-dityで終わる言葉には他には
Validity(有効性、正当さ、妥当性)ーつまりデータなどの正しさや信憑性
Fluidity(流動性、変わりやすさ)
Liquidity(資産の流動性)
Tumidity(腫れること、膨張性、誇張)
などがあります。Validityは日常語なので、わたしにはこの語尾は自然なものに思えます。
さて、英語世界に稀なる言葉Serendipityの由来となった童話を読むと、どうしてこんな綴りなのかがすぐにわかるようになり、覚えやすくなります。
単語を覚えるにはエピソードに関連づけるとが一番なのです。
ですが、長くなりすぎるので、おとぎ話の紹介は次回に譲ります。
あなたにもSerendipityが訪れますように。