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どうして英語ってこんなに難しいの?: (9)カタカナ語の弊害

以前あるSNSで熱心に投稿を繰り返していた頃、アメリカ在住の英語の卓抜な元看護婦さんと知り合いになりました。

アメリカの病院に長年勤務された英語歴40年という彼女が、日本語のカタカナは難しいとため息をつくように呟かれていたことが非常に印象的でした。

日本語は基本的に発音と書かれる言葉が一致する言葉。

耳で聞いた音の通りに書き言葉を表記します。ですが、表音文字の平仮名とカタカナの存在は世界言語の中でも極めて稀なのです。

英語のアルファベットは全く表音には役立ちません。

ラテン文字の日本語化

明治時代にアルファベットで日本語を表音するローマ字を作り出したヘボンさん(米国人 James Hepburn 1815-1911) 、彼の名前の英語の綴りは、実は女優オードリー・ヘップバーンと同じなのです。

一般にはヘップバーンとカタカナが記されるHepburnさん。
英語では子音のpとbは繋がると、pbは一音になり、むしろヘッバーンのように聞こえます。
ヘップバーンには決して聞こえません。
したがってヘボン式ローマ字創始者は、自分の名前をヘボンとカタカナで表記しました。
これが英語ネイティブな人の正しい感覚です。

英語は書き言葉の綴り通りには決して発音されない、なんとも不便な言葉。

「こんにちは、どちらへ行かれますか」という文の「へ」や「は」は、それぞれ「え」や「わ」と発音されますが、英語ではこうしたことが日常茶飯事。

書かれた通りには発音されない英語という言葉の難しさにわたしは何十年も苦しめられてきました。毎日英語で会話しながら、日々英語の難しさを身にしみて感じている毎日です。

英文を読むときには、英単語から英語の音素を連想しないといけません。

わたしは英語を仕事て山ほど読むわけですが、綴る通りに発音されない英単語とはまさに記号でしかないな、と日々ウンザリしながらも英語とずっと付き合い続けております。

Hepburnという字を見れば、意識は脳裏においては /hé(p)bə(ː)n/ という音に瞬時に変換される必要があるのです。

英語圏の子供は一字一字、音で理解している話し言葉のスペルを一つずつ覚えます。漢字を勉強しなくていいので、英語はいいなあ、なんて考え方は甘いのです。

ローマ字の功罪

日本語に戻ると、日本語にはない外国語の音は似たような日本語に存在する音で表記するのが日本語の決まり。でも日本語に本来存在しない音は表記不能。

だから似た響きの音で代用するという習慣が生まれました。

外来語はカタカナで表記する決まりですが、日本語に存在しないRやL,そしてTHなどを、それぞれラ行やサ行、ザ行の音で表記すると、もう全く英語に変換しなおせない。

曖昧母音は全てはっきりと発声されるアイウエオで記される。

Light vs. Right 

ライトと書いてあると、文脈からどういう言葉かを大体は類推出来るのですが、Lightなのか、Rightなのか、カタカタではわからない。車のヘッドライト Headlight の場合もあれば、野球の右翼手Right Fielder の場合もある。

Thrillって何?

「スリルにあふれる生活」なんて言葉、どんな英語のスペルが思い浮かびますか?

Thrillという日本語には存在しない、ThとRとLにShort Iという日本人が苦手が母音。こんなのはカタカナがない方が分かりやすいですね。

カタカタは難しい。

新しいカタカナ語など、外国に住んでいると理解不能。住んでいなくても、新しい概念をカタカナ語にして市民を煙に巻く政治家さえ現れる始末。

外国人にも日本人にも理解されないカタカナ語の濫用の例

カタカナ語をたくさん知っているから、英語もたくさん知っていると思っていても、発音が全く違う。意味にしても、元の英単語のごく限られた意味ばかりをカタカタ語が表現するだけなので、もう全く混乱のもと。

英語話者を志される方は、自分の知っているカタカナ語を全て辞書を引きなおして、英語として理解して発音できるようになることが不可欠。

何とも大変な作業ですよね。今更ながらですが、カタカナ語は英語ではないのです。

英語を喋るならば、全て覚えなおしましょう。

でも便利で自分自身の外国の知識の大部分ともいえるカタカナ語。本当に全てを英語にするのは気の遠くなるような作業になることでしょう。

カタカナ化された名前の英語化の難しさ

外国の都市の名前が日本語のカタカナ名とは全く違った発音を持つことはよく知られていますよね。

つい先ごろ、ウクライナの首都キエフがキーウとウクライナ式でカタカナ表記されるべきと決められましたが、わたしにはどうでもいいことに私には思えます。

どっちにせよ、こんな発音では通じないのだし。

日本という国は、外国では英語でJapanと綴られます。 

これをある国が、今後はNipponという名を公式表記といたします、と発表したところで不便なだけなのでは。

NHKのラジオでキーフという言葉を聞くと違和感甚だしい。きっとわからない人もたくさんいらっしゃるはず。次の世代はウクライナの首都を今後はキーフと理解してくれるにしても。

かつて、国名ビルマはミャンマーに変わり、セイロンはスリランカになりました。これは向こうの政情を反映しても名称変更。ベトナムのホーチミン市はサイゴンと呼ぶ方がしっくりします。名前には歴史が刻まれているのです。

中国をこれからチョングオと呼ぶことにしても、四声を全く無視する日本語発音では、チョングオを中国と理解してくれる中国人に出会える機会は万に一つもないのでは?

さて、こんな記事を書き始めたのは、以前、偶然観て面白かったと書いた、大人気ディズニー映画の続編を見たからです。

ディズニー映画「ディセンダント3」

ディセンダント3です。2019年の映画。

from Disney chanell wiki, Fandom

三部作の最終作で(第四作目の制作が発表されましたが、主人公たちは入れ替わるので、これが三部作の最終作)、第二作目が今作へのつなぎのような形で造られていて、3で全ての物語が完結して感無量でした。

ディズニー映画特有のアメリカ文化絶対主義が鼻に尽きますが、それを差し引いても良く作られた良い作品でした。

ミュージカル仕立ての映画で、愉しいナンバーにたくさん出会えました。音楽的にこの最終作の挿入歌の出来が一番良かったと個人的に思えます。

前作はビートばかりを全面に押し出し、歌えるメロディ要素に乏しく、音楽的にはあまり感心しなかったのですが、今作はちがいました。

主人公マルの歌うバラード風の「Once upon a time」は良いと思いました。


これならば歌えます。

アクセントだらけの短いメロディの積み重ねばかりではない、シリーズ唯一ともいえるカンタービレな曲。良く伸びる音の使われた唯一の音楽なのでは。踊れない音楽ともいえますが。

Once upon a time
The world was sweeter than we knew
Everything was ours
How happy we were then
But somehow once upon a time
Never comes again
https://www.musixmatch.com/
昔々には、自分達が思ってたよりもずっと、世界はもっと素敵だった。
全部自分たちのものだって思ってて
なんて幸せだったのだろう、あの頃は
でも、何故だか、あの頃はもう再び帰っては来ない
筆者拙訳

ワンス・アポン・ア・タイムと、おとぎ話の世界の映画らしさを表現する言葉が絶妙に引用されていていいなあと感心しました。

主人公マルは自分が仲間達を騙してきていたことを告白して、皆から見捨てられてしまうという場面の歌。でもこの歌は失ってしまった過去を振り返る普遍的な歌へと、映画の文脈を離れても通用するほどに昇華されているように思えます。

覚えて歌ってみたいですね。鼻歌でこういうセリフをフンフン言いながら呟いていると英語は上手くなりますね笑笑。

オリンポス12神の名前

さて、長い導入部でしたが、この映画の登場人物の名前が引っかかりました。

日本語でカタカナ表記するところのハーデス。またはギリシア神話の冥王ハデス、ローマ式ではプルートゥ。

「ヘラクレス」という1997年のディズニー映画の悪役ですが、この映画に出てくるギリシア神話の神々の名前、もうまったく英語と日本語では違う。

わたしはギリシア神話に通じていて、大抵の神様の名前をカタカナで暗記していますが、これがまた英語とは大違い。

ですので、日本語吹き替えではなく、是非とも英語音声でディズニー英語をご覧になってください。字幕付きで。

特にギリシャ神話の神様の物語「ヘラクレス」、とても勉強になるのです。

冥界の神の名前は?

まずはここまでハーデスと書いてきたHades。

これは英語では、カタカナ式だと

ヘイディーズ

と聞こえます。

国際発音表記だと

Ha・des /héɪdiːz/
研究社 新英和中辞典

アクセントは第一音節に。

Aは一文字だとエイと発音されますが、子音の後だとアの音やアとエの中間音や、アクセントがないと全く発音されないこともある。ああややこしや。

読むコツとしては、音節が二つというところがポイント。どこで音節を切るかで大抵の発音パターンは類推でするのですが、法則を無視する例外だらけなのが英語という言語。

例えば、Alias (偽名)という単語の最初のAはエイ。アクセントがつくから。三音節の言葉ですが、もしLiにアクセントがあれば、読み方はアライアス、でもアクセントは最初なのでエイリアス。

Asymmetry(不均等)とかAtonal(無調)もエイ。でもアクセントはAにはない。否定接頭辞だからエイかというと、必ずしもそうでもない。

Astigmatism(乱視)の冒頭のAは曖昧なアの音。英語圏では眼医者に会えば普通の言葉。

本当に英語は無節操。嫌になってくる。規則正しさに乏しいがために、全部ひとつひとつ暗記するしかない。

さてHadis以外のオリンポス12神は以下の通り。

ピンタレストより


神様の名前はあまり英語で口にすることはないかもしれませんが、教養ですので覚えておくと鼻が高いですよ。

  1. 主神ゼウス。Zeus /zúːs|z(j)úːs/。これは映画のヘラクレスにも何度も出てきます。英語発音をカタカナで書くと、ズースかジュースというふうになります。

  2. 結婚の神ヘラ、ゼウスの正妻。He・ra /hí(ə)rə/。このeをエと読むと通じません。ヒラかヒアラ。神話を読むとゼウスの浮気に怒ってばかりいて、嫉妬の神ではないかとも思えるのですが、神聖な誓いの上に結ばれた結婚と守護神として、とても大切な女神さま。ギリシアやローマでは崇拝の対象だった方です。

  3. Hadesは上記の通り。ヘイディーズ。

  4. 鍛冶の神へファイストス。He・phaes・tus/hɪféstəs|-fíːs-/。Hephaestusはヒフェスタスかヒフィースタスのように聞こえるはずです。

  5. ゼウスの娘で、戦いや技術、学問の女神さまのアテネまたはアテナは超重要。英語圏ではAthenaという名前の女性名は人気で、あなたもどこかでお会いする可能性もあります。お会いしてきちんと発音できないと残念ですので、アシーナという読み方を覚えておくといいですね。でもカタカナ式は表記不能なthの音。A・the・na /əθíːnə/というのが正しい発音。舌を噛んでくださいね。冒頭のaはアクセントがないので曖昧母音で聞こえなくて、シーナみたいに響くかもしれません。

  6. 弓矢を持った姿で表現されることの多い狩の女神アルテミスは英語ではローマ式のダイアナでよく知られています。ダイアナというと月の女神ですが、Ar・te・mis /άɚṭəmɪs|άː‐/ アータミスというと狩を連想してしまいますね。

  7. 戦争の神アーレスはローマ式だと火星のマーズですね。Ar・es /é(ə)riːz/ は見ただけでは発音できない。音節はarとesに分けられるのです。アクセントは冒頭に。エリーズまたはエアリーズ。

  8. ヘスティアーはあまり一般的には知られていないかも知れませんが、生活には欠かせない炉(炎)の神。つまり家庭の守り神。暖炉やかまどは家庭の暖かさの象徴です。Hes・ti・a /héstiə/ とギリシア語と英語ではアクセントの位置が違います。ギリシア語で最後のアは長母音。でも英語ではアクセントは一番前に。ローマ神話ではヴェスタ。ベートーヴェンと魔笛の劇作家シカネーダーとの未完の共作は「ヴェスタの火」という名前の劇でした。ベートーヴェンらしい良い曲ですが、作品番号も与えられなかった不遇の隠れた名作です。

  9. ヘルメスはローマ神話のマーキュリーの名前でよく知られた足の速い伝令の神。Her・mes /hˈɚːmiːz|hˈəː‐/ はカタカナではハーミーズ。音節は二つであると理解されるならば、発音できますが、カタカナのヘルメスに捉われてしまうと間違えますよね。

  10. アポロ、またはアポロンは超有名。詩の神様。でも英語発音は難しい。A・pol・lo /əpάloʊ|əpˈɔləʊ/は米語だとアパロ、英語でアポロ。でも最初のアは曖昧母音でアクセントはpoの部分に。形容詞になると、Apollonianで、アクセントはロの部分に。

  11. ゼウスとハデスの兄弟で海の支配者であるポセイドン。Po・sei・don /pəsάɪdn/ は二重母音がサイとなり、カタカナではポサイドン。アクセントは真ん中の音節に。ローマ神話式のネプチューンNeptune はよく聞きますが、ポセイドンは英語でほとんど聞かないですね。

  12. アフロディーテは美の女神ですが、愛欲の女神であるという解釈より、一般英語化しています。AphroditeはAph・ro・di・te /`æfrədάɪṭi/。発音が日本語カタカナと全く違う。カタカナ表記すると、アフラダイティー。アクセントはDiの部分に。このiというアルファベット。ある時にはイなのに、アイとも読まれて、a同様に非常にややこしいのです。形容詞のAphrodisiacとは、「催淫の」。この場合はDiはディーと発音されます。ローマ式ではもちろんヴィーナス。

さて、12神の英名を調べてみましたが、超有名な酒の神のディオニュソス、ローマ神話的にはバッカスはここには含まれていません。

Di・o・ny・sus /dὰɪənάɪsəs/はダイアナイサスで、日本語とは全然違いますね。

ローマ式のバッカス Baccusは日本語とほとんど同じですが、アクセントが最初の母音にあり、二つ目の母音は曖昧母音です。

英語の固有名詞の難しさ


神話の神様の名前はともかく、会う人の名前はきちんと発音できないと、時には失礼になることもありえます。

日本人は普通、HilaryとかRuthとかAnthonyとかElizabethとか苦手ですが、英語の名前はきちんと発音できるようになりたいですね。

きちんと言えると一目置かれて友達になれるかも。

よく失敗するのはシンデレラ。

カタカナのラ行の音は全部辞書で調べて覚え直すしかないのです。スペルはCinderella。RとLの違いを鮮明にしないと絶対に通じません。

でもアクセントさえreの上にあれば大抵は通じます。アクセントが英語の命。

rをlにしてもアクセントが正しければ理解されます。Cin・der・el・la /sìndərélə/。四音節のちょうど真ん中で、前の音節の最後のRと、次のelがつながるのです。

シンデエラの方がきっと理解されやすくなります。Rは聞こえないこともありますよね。巻き舌で強いRの東欧や中東、インドの方の場合はこの部分が非常に強かったりしますが。

またアニメのハイジでお馴染みのクララ。

これはClara。

でもこの名前は元々はドイツ語で人気の名前。ドイツ語式だとrの音が全然違う。フランス式もまた別の音。

ああカタカナって難しい。日本語表記されたカタカナから元の音を推測するのは諦めたほうが良さそうですね。

1974年のアニメ「ハイジ」よりClara

舌をよく動かして、RとLを全く別の音にして響かせて下さい。

あと、この動画が勉強になりました。英語ばかりですが、神様の名前の発音を聞くのに最適です。

ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。