抑えるべきだと思っていた欲という感情は、願いという名前をしていたことに気がついた話

美味しいものを　
食べたい

仲の良い人と　
話したい

好きな景色を　
眺めたい

あれも　これも　それも
全部

全部　全部　全部
心からの　願いだったんだ

＊

我慢を　しなさい

何かを　やりたいと思った時に
その気持ちを　抑える言葉だ

なるほど　確かに
自分の好きなことばかり　では
誰かと　共に暮らす社会で
諍いを　生み出す原因となる

節制は　時に必要になる

その節制を　より強固なものにするために
やりたいという　気持ちに
僕は　欲　という名前をつけていた

そうだ
欲は　抑えなければならない

そう　頭に刻んでいた

＊

そのしがらみが　解けたのは
しばらく　体調を崩した時

回復が　芳しくなく
身体のことが　心配になった

これが　悪化の兆候だったら
嫌だな

明日も　快方にむかわなかったら
どうしよう

考えるのは　身体のことだけ
不安だけが　頭を支配した

一日　一日が
いつもより　長く感じた

＊

お医者様の　聞いた話より
数日　経った後　
ようやく　自分でも回復を体感した

ふぅ　やっとだ
気が抜け　安堵の息を漏らす

心の中から　不安が薄らぎ
落ち着いた状態に　戻る

その静かな　心の中から
ぼこっと　音を立てるように
泡が　湧き出る

あんぱんが　食べたいな

欲だ

抑えようとしていた　欲が
自分に　戻ってきたのだ

それからは　今までの不安が
嘘だったかのように　欲が
ぼこぼこと　産まれてきた

＊

心の中の様子を
観察していて　僕は知った

この欲という気持ちは
健康な　身体があって　はじめて
産まれてくる　ものなのだと

書いてみると　
なんて当たり前のことだろう

けれど　僕はこの時
自分の欲を　愛おしいと思った

節制し　
抑え込むものではなかった

身体が　魂が　欲している
大切に　愛でるものなのだと

＊

僕は　
大きな勘違いを　していた

この間違った眼鏡を外し
やりたいことを
しっかりと　愛ていこう

あれも　これも　それも
全部　全部　全部

大切にすべき　願いなのだから