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阿部慎之助に見た「ベテランの怖さ」。CS争いのキーポイントは…

 阿部慎之助は、やっぱり阿部慎之助だった。

 9月16日の試合の7回の裏、読売ジャイアンツの攻撃。2アウト満塁というシチュエーションでマウンドに立っていた中日ドラゴンズの岩瀬投手の投じた2球目を振りぬくと、阿部選手のこの打球は一瞬でライトスタンドに突き刺さった。両者譲れない2連戦の初戦。元キャプテンのグランドスラムが、白星を決めた。

■常勝軍団の主力にしかない怖さ

 やはり、経験のあるベテランは対戦相手からしてみれば怖い。それが常勝軍団で主力を張っていた選手ならなおさらだ。東京ドームでの2試合を通じて、私はそのように強く感じた。阿部選手のこの一撃はその象徴だったが、そもそもの存在感が相手にとっては恐怖である。これもまた、前回の記事に引き続き数字では語れない部分ではあるが。

 言うまでもなく、阿部選手は主に原監督時代の強いジャイアンツで正捕手・4番・キャプテンを務めた主力中の主力。日本代表でも同じような役割を果たしていた。確かにここ数年は衰えも見られ、出場試合数も減っている。39歳のこの大ベテランは、今季に関してはスタメン出場は32試合に留まっている。加えて53試合に途中出場しているが、成績は182打席で打率.244/9本塁打/39打点/出塁率.326/OPS.763と、物足りなさは残る。だがそれでも、阿部慎之助は腐っても阿部慎之助なのだ。

 17日の試合にも5番・ファーストで出場した阿部選手。この試合は4打数1安打と、前日のようなインパクトは見せなかったが、やはり「怖いな」と感じた。8回の裏には陽岱鋼選手のソロホームランで2対4の2点差に詰め寄ると、岡本選手が四球を選び、一発同点の場面で阿部選手が登場。結果はどん詰まりのサードゴロだったが、「もしかしたら一発も…」と思わせるような恐ろしさがあった。若手選手ならば余程打ちまくっていなければ同じような恐怖感を相手に与えるのは難しいだろう。

 ちなみに、陽岱鋼選手もそのような選手だと思う。当然、「大物度」では阿部選手には劣る選手ではあるが、この選手も北海道日本ハムファイターズで日本一を主力として経験している。陽岱鋼選手も特にジャイアンツに加入してからは怪我に悩まされるうちにスタメンが確約される選手ではなくなってしまったが、やはり相手としては怖い。もはや絶対的な存在ではなくなってしまった印象の長野選手や、ドラゴンズから加入したもののコンスタントな活躍を見せることができていないゲレーロ選手にも同じことが言えると思う。

■ここからのCS争いを制すのは…

 さて、ジャイアンツが17日の試合で白星を飾っていればドラゴンズがCS争いから脱落する可能性が高いと個人的には考えていたが、これにドラゴンズが勝利した。首位カープ、2位東京ヤクルトスワローズまではほぼ100%決定と見ているが、依然3位の座は大混戦だ。現在3位のジャイアンツから最下位の阪神タイガースまで1.5ゲーム差。ジャイアンツが残り10試合、4位ドラゴンズが残り9試合、5位横浜DeNAベイスターズが残り15試合、タイガースが残り20試合となっており、最後まで目が離せない。

 個人的な見解にはなるが、こうなってくるともはや短期決戦に似ている。各チームこれまでは143試合トータルで戦い方やチームビルディングをして来ただろうが、ここからはいかにして1試合1試合を勝利で終えるか。そういった意味で、戦い方も変わってくるだろう。チームビルディングで言えば、若手選手とベテラン選手の起用法も一つの重要な要素だ。

 例えばジャイアンツは、昨シーズン終了後のオフに「まだやれそう」な村田選手を戦力外通告とした。これは様々な議論を呼んだが、明らかに「チームの若返り」に舵を切ったアクションであり、同時に岡本選手への期待度の表れだった。岡本選手自身にも、高橋監督にも村田選手というある意味での「逃げ道」を残さない判断だったと思う。その結果、岡本選手はこれまで132試合に出場。打率.311/31本塁打/95打点/出塁率.397/OPS.943と大ブレークを果たした。今季82試合で4番打者を務めるこの「奈良のジョニーデップ」の今季のWARは3.9。これはベイスターズの筒香選手の3.4を上回る。143試合トータルで考え、同時に「若手育成」を掲げたジャイアンツが残した素晴らしい成功例だろう。

 しかし、残り15試合を考えたらどうか。岡本選手は文句のない成績を残しているのでいいとして、どの球団に関してももはや「若手重視」などと言っている場合ではないように思う。それよりも、もう一度フラットに戦力を見つめなおし、一試合一試合を取るために必要な選手を起用する必要がある。そんな中で、大一番に強い阿部選手や長野選手、陽岱鋼選手がチームにいるというのは大きな強みだ。全員を同時に起用するのは難しいとしても、彼らを上手く生かさない手はないと思う。繰り返しになるが、ドラゴンズファンとして今回の2連戦で感じたことは、このような状況下での「阿部選手の打席は嫌だな」ということ。恐ろしい存在だ。

 阿部選手は別格としても、ジャイアンツのみならずその他の球団もいかにして「怖い」ベテランを活かしながらゴールラインを目指して突っ走れるか。ここがカギになるのではないだろうか。正直なことを書けば、実績のあるこのような素晴らしい選手たちが何人もいるという点でジャイアンツは一つアドバンテージを持っているのかな、と感じている。

 重信選手や吉川尚輝選手の台頭にも貢献した高橋監督がここからどのようにして反対に実績ある選手たちを起用していくのか。そして3位の座を狙うその他の指揮官たちがどのようにベテランを活かして戦うのか。目が離せない。

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