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今の中日ドラゴンズに伊東氏は適任か!? 「監督選び」が全てではない!

 思わぬダークホースが登場した。6日、東京スポーツが来季の中日ドラゴンズの監督に前千葉ロッテマリーンズ監督の伊東勤氏(56)が浮上していることを報道した。

 これまでの各報道では主に森繁和現監督の続投、小笠原道大2軍監督、森脇浩司野手チーフコーチのほか、落合博満氏の再登板、立浪和義氏の誕生などが挙がっていた。しかしここに来て、現在スタッフでもなければこれまでドラゴンズには縁のなかった伊東氏が候補に浮上したのである。東スポの同記事によれば、森監督はSD(シニアディレクター)かGM(ゼネラルマネジャー)の役割でフロント入りする見込みだという。

■伊東氏のこれまでの実績は今のドラゴンズにぴったりだ

 2004年に西武ライオンズで監督デビューを飾った伊東氏はこの年に日本一の座(レギュラーシーズンは2位)に輝くと、同チームを2007年まで指揮。ペナントレースの結果は2位、3位、2位、5位。2013年からはマリーンズの指揮を執り、2017年まで3位、4位、3位、3位、6位の成績を残している。

 まず間違いなく言えるのは、これまで報道されてきた監督候補者の中では落合氏と同レベルの監督経験値を持つということ。実績、という意味で言っても、日本一に1度輝き(この年は落合監督1年目のドラゴンズを日本シリーズで下した)、ポストシーズンも計6度戦っている。更に2009年WBCでは侍ジャパンの総合コーチを務め、世界一の座を勝ち取った。

 監督としての伊東氏を評価すべきポイントは、彼が率いてきたチームが決して戦力的にずば抜けていたわけではないという点だ。ライオンズ就任時にはそもそも自らが引退したことで経験のあるキャッチャーを一人失った。更に絶対的なレギュラーだった松井稼頭央選手がメジャーリーグに移籍し、打線の軸だったカブレラ選手も長期離脱を強いられるなど、台所事情は厳しかった。それでも細川選手が正捕手の座を奪い、中島選手がショートのレギュラーに定着すると、フェルナンデス選手も見事にカブレラ選手の穴を埋める活躍。その後も2005年に豊田投手が読売ジャイアンツに移籍するなどした上、この期間中のFA補強は0。自ら若手を積極的に起用し、4年間で3度のAクラスという結果を残した。

 より厳しかったのはマリーンズ時代。そもそもの戦力層も薄かった上に、目立った補強もないまま現場を任された。最終的には自らが望む補強を球団が行なわないことから「けんか別れ」のような形でチームを去ったが、それでもこちらも4年間で3度のAクラス入り。「スター軍団」をまとめ上げた経験はないかもしれないが、限られた戦力の中で上手く選手をやり繰りしながら戦う術を身につけている監督だろう。

 そして今のドラゴンズは、まさにそのようなチームだ。戦力的に見れば、やはりトップレベルとは言えない。特にレギュラー以外の選手の層の薄さは深刻だ。更に今シーズン限りで岩瀬投手、荒木選手、浅尾投手、野本選手といった、これまでの功労者が次々に引退。チーム内には派手なスター選手も存在しない状況であり、その点ではこれまで率いてきたチーム(ライオンズは今のドラゴンズよりかは戦力的には優れていたと思うが、特にマリーンズは近いと思っている)に似ているのかもしれない。マリーンズのように「大砲の獲得を希望していたのに走り打ちのサントス選手が補強された!」なんてことはないかもしれないが、例えばFA権を獲得した浅村選手を獲得できるかと言われれば、そんなはずはない。「上手いことやらないと優勝争いはできないチーム」であることは間違いない。その点で同じようなチームを率い、結果を出してきた伊東氏は適任のように思える。

■問題は監督だけではなく、長期的なチーム作り

 中日ドラゴンズという球団は、GMの起用で一度大失敗をしている。私は監督としての落合氏は本当に素晴らしいと思っているが、GMの座に就いた3シーズンの間に、チームが全く結果を残せなかったのは紛れもない事実だ。さらにこの3年間が今に繋がっているかと言われれば、そうも思えない。

 しかし何よりも残念だったのが、落合GMの退任と同時にGMのポジション自体がなくなってしまったことだ。「現場レベルではなく、球団としての長期的なチーム作りの方針を固め、それを補強や監督・コーチ人事を含めて実現させ、現場に落とし込む」役割がGMにはあるはずだが、3年間でこのGM自体がなくなってしまうのでは何の意味もなかった。結局はGMというポジションではなく、「落合」というポジションだったのだ。もし森GMが誕生するのであれば、ぜひこのGM制も継続してほしいと思う。

 特に今のドラゴンズは(そしてきっと今後も)選手の年俸につぎ込める資金が限られている。「マネーゲームはしない」という今の方針は理解できないこともないが、それでも投資すべきところにはしなくてはならない。そういう意味で、決して西山球団代表を批判するわけではないが、この「取捨選択」はせめて現場レベルの分析を的確にできる人物であるべきだ。その点において、これまで投手コーチ、監督という現場レベルの仕事だけでなく、自ら海外スカウトとして数々の助っ人を獲得してきた森監督はこれ以上ない適任者と言える。

 やはり資金面で限られているドラゴンズは、長期的に一貫性のある組織づくりをしなくてはならない。1年単位で「このポジションにレギュラーがいないから補強!」なんてことができればいいのだが、これができる球団ではない。戦力の穴埋めはどうしてもドラフトに頼るしかないし、世代交代も実現しながら長期的に強いチームを作る方法上でもやはりこのドラフトが重要なのである。しかしそのドラフトは、残念ながら今まで主に現場レベルの監督が代わるたびに方針も変わり、、その結果長期的なチーム作りに失敗している感じは否めない。(今年の二軍選手の年齢と成績をぜひ確認していただきたいと思う)

 現場レベルの意見は当然重視しなくてはならないが、監督が目先の結果を長期的なチーム作りよりも大切にするのは当たり前である。むしろ、監督の仕事はそうであるべきだし、「今は負けても長期的に勝てるチームを」という意識を持って日々戦う指揮官は残念ながら自らの役割を理解できているとは言えないだろう。その点、GMはそもそもの役割として「目先の結果以外」の部分も含まれるため、より長期的な目線を持てるし、持つ必要がある。言ってしまえば、監督選びもその仕事の一部だ。分かりやすい現場レベルの監督人事の話が盛り上がりがちだが、実は今のドラゴンズにとって最も重要なのはこの中長期的な組織づくりだと確信している。

 東スポの報じる森GM・伊東監督体制が実現するかはまだ分からないが、どんな人事になろうとも、ぜひとも目先の結果はもちろんだが、長期的にも強い組織づくりを実現させてほしいと思う。

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