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TUE申請から見るクリーンスポーツ ~モリー・サイデル選手のケースを基に~

皆さんは、TUE(治療使用特例)ってご存じですか?
TUEは、ドーピング禁止物質を病気の治療に使うための特例手続きです。このTUEのおかげで、アスリートは病気の治療とアンチ・ドーピングを両立することができます。逆に言うと、TUEが無ければアスリートは禁止物質を使えないために病気の治療ができなくなったり、治療をするために競技を諦めたり禁止物質を摂取してドーピング違反を犯したり…という事態に陥ってしまいます。

今回はTUEに関連して、違反事例ではないけど気になる記事があったので、紹介しつつ私個人の見解を載せたいと思います。

記事はこちら↓

東京オリンピックのマラソンで銅メダルを獲得したモリー・サイデル選手とTUE申請のお話です。

事の経緯

元々メンタルヘルスの不調を抱えていたサイデル選手。東京オリンピックまでは(それまでの治療薬が合わなかったこともあり)薬を使わない治療を受けていました。
2022年に入ってから、セラピストを替えて、混合型ADHDと診断を受け、治療としてアデロールという薬を使い始めました。この治療は奏功したようです。
ところで、アデロールに含まれているアンフェタミン、及びデキサンフェタミンは禁止表国際基準の“興奮薬”に当たり、競技会時に禁止されている物質です。そのため、サイデル選手はTUE申請を行ったのですが、判定が間に合わなかったため、大会出場を見送りました。

禁止物質の使用は問題ではないのか?

禁止物質を使ってたのか!?って思う方もいるかもしれません。まずはこの部分を整理しましょう。
禁止物質には3つのパターン(区分)があります。

  • いつでも禁止される物質

  • 大会期間中にのみ禁止される物質

  • 特定の競技で禁止される物質

大会期間中にのみ禁止される物質について、大会期間外に使用することは違反ではありません。治療目的というのが明確であるのでなおのことです。
ただし、競技会時に禁止されている物質を競技会外時に使用し始めた治療であっても、治療が競技会時にまでかかる場合は当然禁止物質となってきます
そして、治療のためにどうしても禁止物質を使わないといけない場合に必要な手続きがTUEです。

大会辞退という判断は?

TUE申請の判定が間に合わなかったために大会を辞退する、というサイデル選手の判断に私は敬意を持っています
TUE申請が認められていない状態は禁止物質(アデロール)の使用を認められていない状態。その状態で大会に出ることはクリーンスポーツに反することになります。競技よりもクリーンスポーツを守ることを何よりも優先したその姿勢に学ぶべきものがあるように思います。
また、今回の件を発信するにあたって、自身のメンタルヘルスについて公表することに葛藤があったかもしれません。そこも踏まえると、サイデル選手がクリーンスポーツを伝えていく気持ちがより強く感じられますね。

なぜTUEが間に合わなかったのか?

一点、今回の件で引っかかるのが、なぜTUEの判断が間に合わなかったのかです。(これがこの記事を書こうと思った一つの理由でもあります)
TUE申請は受付されたら21日以内に判断結果を返すことがルールになっています。日本では少し余裕を持って大会の30日前までに申請してね、と言っています。
サイデル選手はInstagramの投稿内で『大会の6週間前に申請した』と述べています。通常のプロセスであれば時間的猶予のあるタイミングだと思います。そのため、サイデル選手がTUE申請の必要性を充分理解して行動していたと考えられます

では、なぜTUEの判断が間に合わなかったのでしょうか??
この理由については確たる情報が見つかりませんでした。
分かっていることとして、7月頭の時点でまだ手続きは進行中だとサイデル選手が明かしています。そのため、あくまで私個人の憶測として、TUEの遅延理由として考えられることを挙げてみます。

・申請書類が完全な状態でなかった可能性
TUEの申請書類は所定のフォーマットに必要な情報を記載していくのですが、不完全な状態だと差し戻されます。記入漏れや記載の不備などがあると申請を受理してもらえない、ということです。この場合、単に突き返されるわけではなく、具体的な不備の指摘や指示が返ってきますので、しっかりと修正すれば受理されるようになります。
(可能性として挙げましたが、この部分で長時間かかることは考えにくいかとは思います)

・追加情報が求められている可能性
TUEは申請をすれば無条件で認められるわけではなく、TUEが認められるための要件が存在します。具体的には以下の4つを全て満たす必要があります。
 ・適切な臨床的証拠に基づいて診断された病気であること
 ・禁止物質を治療で使うことで通常の健康状態よりも競技力を向上させることがないこと
 ・禁止物質の使用がその病気の治療の適応であり、かつ他に変えられる治療法がないこと
 ・ドーピングの副作用に対する治療でないこと
審査の過程でこの4つの要件を基に承認(付与)してよいかが判断されるのですが、判断には詳細な医療情報(診断・検査データ・禁止物質の投与量・投与期間、など)が必要になります。提出された情報だけでは判断できない場合には追加で情報の提出を求められることがあります。
(長期化していることを考えると、この可能性が高そうだと思っています)

最後に

今回はTUE申請をテーマにした話でしたが、まずはサイデル選手のスポーツに対する真摯な思いを感じ取ってもらえたらなと思っています

そして、TUE申請は慣れないうちは労力のかかる手続きだと思います。TUE申請が必要となった時のサポートもお任せください。
詳しい私の仕事内容はこちらからご覧ください。
グッズ販売はこちらのネットショップで行っています。
よろしくお願いいたします。

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