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TUEは合法的ドーピング?? ~TUEの仕組みを正しく理解する

こんな記事が出ていました↓

女子テニスのシモナ・ハレプ選手がドーピング検査で陽性となった件で、サプリメントへの禁止物質の混入が原因であったとする記事なのですが、この中で男子テニスのフェルナンド・ベルダスコ選手に資格停止が課された一件について触れられています。

テニス選手のドーピング疑惑をめぐっては、元世界ランキング7位のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)が出場停止処分を科されたばかりだ。彼の場合は注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療のために以前から禁止薬物のメチルフェニデートを処方されており、治療使用特例(TUE)の申請によって服用が認められていたところ、申請の更新を失念したために検査で陽性反応を示したことが規定違反となった。ITIAは「重大な過失はない」としてベルダスコの出場停止処分を2年から2ヶ月に短縮している。

ベルダスコの処分に関してはテニス界で大きな話題となっており、試合中の集中力を高めるために世界ランキングでトップ100に入っている選手の半数以上がADHDの治療薬を服用していると匿名の男子選手が漏らしたという話まで伝わっている。TUEの申請さえすればドーピング違反にならないため、元世界ランキング17位のライリー・オペルカ(アメリカ)や元世界33位のジョン・ミルマン(オーストラリア)はこれを「合法的なドーピング」として批判。TUEは治療薬として禁止薬物を必要としている選手の救済措置になっている一方で、ドーピングの抜け道を作っていると主張した。

上記リンクより

さらに、ハレプ選手の件と絡めてこのように続いています。

「ドーピングをしたければTUEを申請すればいいというのは昔から言われている」と話すミルマンは、TUEの存在はハレプが無実であることを裏づけるという。「彼女が何かを摂取してパフォーマンスを上げたければ、TUEを申請すればいいだけのこと。(そうしなかった)彼女は無実だと思っている」

上記リンクより

さて、TUE(Therapeutic Use Exemption:治療使用特例)を申請さえすればドーピングができるという衝撃的な内容ですが、果たして本当なのでしょうか?
今回は、そもそもTUEとは何なのか、どういう仕組みなのか、そして「合法的なドーピング」は可能なのか、解説していこうと思います。

前提:アスリートが薬を使うということ

本題に入る前に、そもそも“アスリートが薬を使う”ということはどういうことかを少し考えたいと思います。
アスリートが薬を使う時には必ずアンチ・ドーピング規程や禁止表が関わってきます。禁止表で禁止される薬(成分)は確かにあります。しかし、アンチ・ドーピング規程は、あくまでドーピングを防ぐためのルールであって、アスリートに薬を使わせないルールではありません。言い換えると、アンチ・ドーピングのルールは“スポーツの価値を守りながらアスリートが適切に薬を使えるようにするためのルール”と言えます。

TUEとは

アスリートが適切に薬を使えるために重要なルールがTUEです。
アスリートのであるあなたが、病気やケガをして病院にかかった時に、治療できる薬が禁止物質であったらどうしますか?治療をすればドーピング違反になるし、ドーピング違反にならないようにすると病気やケガは治らないし…。このような時に、禁止物質・方法を治療に使えるようにするためのルールがTUEです。
病気やケガをして禁止物質・禁止方法を使わなければ治療できないとなった時には、アスリートが禁止物質・禁止方法の使用を申請します(TUE申請)。TUE申請は、国際競技連盟や国内アンチ・ドーピング機関に提出し、審査されます。TUE申請が認められれば、禁止物質・禁止方法を治療目的で使用することができるようになります(これをTUEの付与と言います)。

TUEの条件

ただし、TUEは申請すれば必ず付与されるものではありません。TUEが付与されるには、以下の4つの条件を全て満たす必要があります。 

  1. 適切な検査を基に診断されていること

  2. 禁止物質又は禁止方法を治療に使用することによって、健康を取り戻す以上に競技力を向上させないこと

  3. 禁止物質又は禁止方法が治療法の適応であり、それ以外に適切な治療法がないこと

  4. ドーピングの副作用に対する治療ではないこと 

一つ目は、病気の診断に対して、客観的に判断できる適切な検査結果が必要であることを意味しています。これは、他の医師や専門家から見ても確かにその診断は適切だと判断できることが必要です。実際、TUEの審査はTUE委員会という医学の専門家で組織された委員会で審査されますが、ここでも医学的に適切に診断されているかチェックされます。適切な検査・診断が必要ですので、病院の受診は必須です。
二つ目は、禁止物質・禁止方法をドーピングになるような多量・頻回では使わないことを示す必要があります。通常治療に必要な投与量を超えていないかといった内容がチェックされます。
三つめは、禁止されていない物質・方法で適切に治療ができるならそちらを優先する、ということを意味しています。アスリートとしては、TUE申請の前に禁止物質・禁止方法を使わなくても医学的に根拠のある治療が可能であるかを確認する必要があります。
四つ目は、過去にドーピングをした結果起こった病気やケガであったらTUEは認めないことを意味しています。

TUEでドーピングはできない。ただし…

TUEの条件から分かるように、TUEの付与がドーピングとならないように定められています。病気の診断が正しくついていること、薬が治療に必要な量だけ使われること、禁止物質でなければ治療できない状況であること、病気の原因が過去のドーピング違反でないことを第三者の専門家がチェックした上で初めてTUEが付与されます。これらをかいくぐってTUEをドーピングに使うことは「TUEの制度上は」無理です。




ただ、それは診察した医師が正しく対応していれば、という話…


アスリートにドーピングをさせるため・アスリートのドーピングをサポートするために、医師が診療情報を偽造してしまえば、TUEによる「合法的なドーピング」ができてしまうと考えられます。特に、冒頭の記事で出ていたADHD(注意欠陥多動性障害)などの精神疾患系の診断は患者の主観的な訴えを中心に評価することになります。あくまで推測ですが、このような“都合の良い診断”を付けやすい状況が「合法的なドーピング」疑惑の要因なのかもしれません。

しかし、当然こういったズルは許されていません。アンチ・ドーピングの規則違反の一つに”アンチ・ドーピング規則違反を手伝い、促し、共謀し、関与する、または関与を企てること”があります。これは、アスリートだけでなくサポートスタッフ(指導者、医療関係者や家族など、アスリートをサポートする人)も対象となる違反項目です。もし医師も含めてこのような形で「合法的なドーピング」を行っているとしたら、医師も含めて違反となります。

まとめ

  • TUEは禁止物質・方法を治療に使えるようにするためのルールである

  • TUEが付与されるには4つの条件をクリアする必要がある

  • TUEをドーピングのために悪用しようとすることはアンチ・ドーピングの規則違反である


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