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アルペンスキーの競技特性を考えてみた

自己紹介以外で初の投稿はアルペンスキーがどんなスポーツなのか、大枠で見たときに感じることを書いていきたいと思います。

これを読んでいる人のほとんどはスキーに興味のある人だと思うので、そんなことかよと思う人が大半かもしれませんが、当たり前のことでも再度認識すると新たな視点が見えてくるかもしれません。また競技自体を知らない人にもわかるように書いたつもりなので、知るきっかけになれば嬉しいです。

・競技特性とルール

まず、競技特性面から見てみます。他のスポーツに比べて特殊なことが多いように思います。まずどんな競技か知らない人のために動画を載せておきます。

これは4種目あるうちの一つで、回転(Slalom)といいます。他の種目でも旗門あるいはポール(Gate)と呼ばれる、通る場所を規制する目印が設置されていて、それらの間をすべて通過することが必要です。下図では左はゲートをすべて通過していますが、右は2旗門目を通過していないので反則です。

ルール

ここからはもう少し内容的な特徴を考えてみました。

・ 個人スポーツで対戦相手がいない

スタートしたらチームメイトはいないので自分次第ですべて決まります。サポートしてくれる人はいても、最後は選手個人がどうにかするしかありません。また、競い合う相手はいますが、テニスや卓球のようにお互いが直接対戦するわけではないですよね。対戦相手がいないということは、相手を分析して対策(心理的、戦略的)をする必要がないという特性をもちます。

・ スタートからゴールまでいかに速く降りられるか

これほど単純な指標は無いですよね。途中の過程や見た目がどうであれ、ゴールしたときのタイムがすべてです。

ここまでだと陸上や水泳のような記録型の競技のように思えますが、それとはまったく異なる点があります。

・ 一つの失敗が命取り

アルペンスキーでは種目にもよりますが、競技時間が一本あたり1分弱~1分半程度で、競技時間とその性質から陸上の400mに近いと言われます。アルペンスキーでも最終的に0.01秒を競い合うことになり、1秒間の間に数人~10人程度の選手が入ります。このように非常に微小な差を争うにも関わらず、400m走とは決定的に異なるところがあります。それは、アルペンスキーにおいて失敗はつきものだということです。先ほど申し上げた通り選手は旗門を通過することが求められますが、これを通過できないことが起こりうるのです。「いやいや、選手ともあろう人が通りたい場所を通れないなんてありえないだろ」と競技を知らない人は思うでしょう。しかし、微細な差を争うことを考えると悠長に滑ってられないので、選手はできるだけ高速で、旗門間を直線的に滑走しようとするため、このようなことが起こります。ちなみに大会で80人程度選手がいた場合、10人くらいは失格になります。難易度が高くなると、多い時は半分くらいなります。また通過できたとしても3秒程度のタイムロスをしてしまう失敗でも優勝を狙うには少し厳しいことになります。失敗例をいくつか載せておきます。

内倒:身体のバランスが保てなくなり、スキー板の雪面との相互作用が十分でなくなり、スキー板が雪面から離れてしまうことで操作不能になる失敗

内倒

片足不通過反則:旗門の間を両足が通過する必要があるが、片足しか通過していないときの反則。通過し直さない限り、失格。

片反

失敗で通過できないとなった場合、その大会は出たという記録しか残りません。これは他のスポーツではあまり見られない残酷さだと思います。球技では一つ失敗が一発で負けに直結するということは少ないですし、陸上等ではフライングで失格はあるとはいえ、そこまでの頻度では起こりません。

そのため、選手は失敗するリスクとタイムを縮めることのバランスをとって、滑ることになります。

・ 環境要素に大きく左右される

陸上競技場やプールのようなどこでも同様な施設で行うスポーツ(細かく見ると、場所ごとに風速や水の感触等違うのかもしれませんが...)とは異なり、スキー場という場所ごと、日ごと、時間帯ごとで大きく変化する雪上でパフォーマンスを発揮しなくてはなりません。大会では一度として同じコースを滑ることはなく、一本ごとにコースセッティングが変わります。挙げればきりがないほど、パフォーマンスに影響する環境の要素があります。対戦相手という競技中に変化する対象が雪面やコースセッティングに置き換えられたものと考えることができ、そこに戦略性が生まれます。

・ 強い人ほど有利な状況でスタートできる

アルペンスキーはほとんどのレースで、過去の大会で獲得したポイント順(低い方が強い人)に応じてスタート順が決まります。このスタート順が早ければ早いほど、それまでに滑った人数が少ないので、コースがきれいで、一般にタイムが良くなりやすいですが、ポイントが低い人(つまり、競技力が高い人)ほどスタート順が早くなる仕組みになっています。他のスポーツでも強いチームがシード権を持っていたり、野球の日本シリーズのように元の勝利数が少し多い状態からスタートしたりという制度が見られますが、その試合が始まる時点ですでにフェアではない状況が、アルペンスキーでは常に行われているということです。ここで重要なことは、結果を出すためには強い人と同じではダメでそれ以上のパフォーマンスが必要になるということだと思います。それだけで大変な競技に感じますが、このような状況を覆せたときは爽快です。

・ 身体以外の要素が運動に与える影響が大きいスポーツ

雪面を下る際に滑走者はブーツやスキー板などの道具を介して、重力をエネルギー源として雪上を移動します。スポーツには移動がつきものですが、これは相当特殊な移動だと思います。

例えば、陸上では主に身体をエネルギー源として地面に力を伝えることで移動します。この際、靴を介して地面に働きかけるわけですが、靴が移動に貢献する量はわずかで、直線を移動する場合には競技者の身体能力が大きく反映されます(僕が世界一良いスパイクを履いてもボルト選手には勝てません)。これは大抵のスポーツで見られる移動方法でも同様でしょう。一方、モータースポーツでは、身体の運動をきっかけとして、ガソリン等のエネルギー源により移動を可能にします。この時車の性能が最も大事でしょう。直線であれば運転技術が速度に与える影響はそこまで無いように思えます(僕でもF1カーに乗れば、軽自動車に乗るプロに勝つことができるでしょう)。

ここでスキーの話に戻ると、スキーは陸上とモータースポーツの中間のように感じられます。身体からエネルギーを生み出すというよりは重力を主なエネルギー源として(身体能力があまり影響しないという意味でモータースポーツに近い)、道具を介して移動します(道具の役割が身体の運動を比較的直接地面に反映させるという意味で陸上に近い)。しかし、両者とは明確に異なる部分もあります。重力によって滑走するとはいえ、曲がるためにはある程度の身体運動によってエネルギーを生み出す必要があります。一方で、この道具を介してということの内容を考えると、スキー板が果たす役割は靴より大きいでしょう。雪面と接触する面を足裏からスキー板に拡張し、そのたわみ特性により身体の運動を雪面に反映させる。これが僕が特殊だと思う理由です。

・ 幼少期にスキーを経験しているかどうかが大きい

これはどのスポーツでも同じことが言えると思いますが、特にスキーはこの傾向が強いと思います。この要因として先ほど言った道具を使い方が大事であるという特殊性があると思います。

運動能力を高めるためによく言われるのが、ゴールデンエイジ(だいたい5歳から12歳くらいまで)にいろんな運動をやっておけということですよね。これによって身体の様々な動かし方を学ぶことができるといわれています。日本では複数種目を小学生のうちにやることはあまりないですが、スポーツ大国のアメリカではこの時期に多くのスポーツを経験しています。これは道具を使うということにも共通して言えることだと思います。

加えて、シーズンスポーツであるが故に技術向上のための練習量が他のスポーツに比べて取りづらいことも要因の一つだと思います。

とりあえず今回はこんな感じで終わろうと思います。特に何かメッセージ性のあることを述べては無いですが、現状感じることを書いてみました。

おわり


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