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「強さの秘訣はコミュニケーション能力?」東京五輪のインタビューから垣間見る、久保建英選手の強さ

今回の東京オリンピックでは惜しくも4位のという結果に終わった男子サッカーですが、同時に久保選手の見事な試合後インタビューは皆さまの印象にも残ったのではないでしょうか。ネット上では、「ジョークも良い」「20歳に見えない」「さすが久保」と称賛されておりましたが、実はあの言動から彼の強さが垣間見えていました。今回は久保選手のその強さについてスポーツメンタルコーチである鈴木さんと紐解いていきました。

対談者プロフィール

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・鈴木颯人 ~スポーツメンタルコーチ~
1983年、イギリス生まれの東京育ち。一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球、BMXレーシングなど、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

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・畠山大樹 ~BMXレーシング元日本代表~
1992年、神奈川県寒川町出身。株式会社Winspired代表取締役社長。学生時代にBMXレーシングにて日本代表経験あり。BMXレーシングとマウンテンバイク4Xの競技経験を活かし、現在はアクションスポーツ業界の発展のため、アスリートマネジメントを始め、翻訳・通訳、スポーツライター、BMXスクール運営を多岐にわたり行っている。
実妹がBMXプロレーサーの畠山紗英。


スポーツメンタルコーチが思う久保選手の印象

畠山) 今回の東京オリンピックの試合後インタビューで、まるで20歳には見えないような分かりやすく的確で落ち着いた受け答えを見て、久保選手の人としての強さを僕は感じたんですが、鈴木さんが久保選手にどういった印象をお持ちでしょうか?

鈴木) 久保選手の最初の印象はサッカーが単純に上手い選手でした。ただ最近のインタビューとか見てるとすごい自分の考えがはっきりしていて、何にしても明確なんだと思います。彼のやること・なすことへの軸が明確っていう印象は感じますね。

畠山) 確かに本当に迷いはないというか、ゴールが決まってるっていうのは見えますね。前回の堀米選手の話じゃないですけど、目標が目先の結果じゃなくて常にその先に向けられていると言うか。

鈴木) すごいですよね。 バルセロナに行きたいって言い始めてからどうしていくかを逆算していたという話も聞きますからね。

日本と海外での文化の違い

畠山) 僕が読んだとある記事では、久保選手が選手としてのキャリアが短かろうが周りからレベルが低く見られていようが、ピッチに入れば年齢は関係ないと話しているものがあったんですが、日本だとそういう考え方って生意気に思われたりとか、なんか敬遠されるような対象にもなりかねないと思いますが、まだ若いのにも関わらず、年上の選手とか格上の選手に対しても物怖じしないことだったり、そういう意識はどうやって培ったのか気になるのですが鈴木さんはどう思われますか?

鈴木) これは推測でしかないんですけど、最初からバルセロナを見ていたっていうところで、予めスペインの文化を知っていたのかもしれないですよね。サッカーってアンダー世代でカテゴリー分けをしているので日本の文化に染まってしまえば、上下関係のような関係性になりやすいですが、もしかしたら早い段階から意識が高くて親御さんもそれを理解していて、スペインの文化やそういう情報を久保選手に提供し続けていたんではないかなと思います。じゃないとピッチでは年齢関係ないっていう考え方にならないですよね。

ちなみに私が高校の部活動で野球をしていた時の話なんですが、上下関係がすごくて1年生の時って、2年生は神様みたいなもの、3年生は雲の上の存在だったんですけど畠山くんはそういう経験ってないですか?

畠山) BMXレースが特殊なのかもしれないんですけど上下関係が全然なくて、年齢関係なく私語で話しますし、上手い年上の子が年下の子を教えてみんなで一緒に楽しんで練習するような文化なのでそういう経験はないですね。

鈴木) 私が高校で1年生の時に教わったのは、3年生と目を合わせちゃいけないっていうことだったんですけど、その理由って上級生がガンつけられているように思われないようにするためだったんです。今思えば本当に訳のわからない文化だったなって思いますよ(笑)

話を戻すと、久保選手はそういう変な文化に染まる前に世界基準の文化に触れていたんではないかなって思います。世界の文化を体感させるっていうのは、結果的に個人の能力を上げるのにとても大事ですよね。日本のものさしでやっていても、その範囲内でしか物事って判断できないですが、世界のものさしがあればその分成長できますからね。

違うことをすることで海外かぶれって言われるかもしれないですけど、海外を知っている選手からするとそういう発言する人がダサいと思われちゃいますよね。

畠山) そうですよね。海外かぶれとか言われたって、結局それがまた十何年も経ってみたら、ちゃんと自分でいろんな海外のそういう情報を得て、どんどん行動してきた選手の方が成功するっていうことですもんね。

ところで、日本の型にはめるようなそういう文化って何なんですかね?

鈴木) 日本人らしさだと思いますよ。「空気を読む」っていう言葉があるくらいなんで、みんな足並み合わせて同じ意識を持つことが重要視される、独特の日本の文化です。それをおかしいと思わない従順な心もまた日本人らしさですよね。高貴なものとしては日本独自の文化を守るためなんですけど、スポーツ界として悪く言えば、そのせいで世界に置いてかれたっていうことですよね。

ちなみに高校でサッカー強豪校だと部員は大体何人くらいいるか分かります?僕の知ってる高校は全員で200人でした。

畠山) そんなにいるんですね! その人数の中で1軍のレギュラーとして出場できるのがベンチ入れても20人とかですよね。全員トップの1軍でプレーしたくてその入ってきたのに、もし4軍とかだったら1軍になれる機会はほとんど無いと思いますし、部員の10分の1しか表舞台で戦える選手がいないっていうことですか?

鈴木) そうですね。でもこれがいわゆる日本の文化ですよね。それこそ久保選手が行ったバルセロナっていうクラブは、きっと試合に出る可能性がある選手だけをチョイスしていると思うんです。なぜなら下部組織は選手を育てる成長させていくカテゴリーだからです。日本みたいに全国高校選手権大会で優勝するのではなくて、カテゴリーを上がっていって、プロで選ばれて活躍する選手を創出するが目的ですからね。そういう意味ではスペインでは育成の文化がある。そういう文化の違いが大きいですよね。

畠山) 確かに前回の話にもありましたが、その選手がどこで開花するかわからないですもんね。本当はもっと伸び代があって当時の1軍選手よりも4軍選手の方が結果的に強くなる素質があっても、そういった文化とか環境のせいで足並み揃えさせられて大多数の1人になって可能性が潰されることもありますもんね。

鈴木) 本当にその通りですね。

久保選手の基準

畠山) そう考えると納得ですね。普通に日本の文化の中にいれば大多数の1人になる可能性の中で、久保選手が海外に出てそういう発言ができるようになることが彼自身の自信になるし、物怖じしなかったりとか大きいことを言うことで自分が前に出るチャンスを戦略的にも作ってるんじゃないかなって感じます。

鈴木) いや、久保選手の場合は本気で思ったことを口にしていると個人的には思います。本人的にはビックマウスじゃないんですよ。世界基準では普通なんですよ本当は。

単純に日本人の僕らが久保選手の考える世界基準に達してないだけで、世界基準にいない人から見るとビックマウスだって思っちゃうんですよね。そもそも見てる世界が全然違うんです。彼は良い意味で日本人じゃないんですよね。しかし、彼の感覚で日本でプレーするときっと浮いてしまうので彼は海外でプレーし続けることに意味があると思います。

じゃあどうして今日本代表では上手くプレーできるのかって言ったら、他の日本代表の選手も海外でプレーしているからなんですよね。チームに彼を共感できる人がいるわけです。

そう意味ではもう久保選手は日本人じゃなくてスペイン人だと思った方が良いと思います(笑) 日本語を話すスペイン人だと思った方がしっくりきますよ(笑)

畠山) なるほど、確かにそう言われるともはや日本人じゃないですね(笑)
そうなると幼少からスペインに渡ったことが今の彼の日本人離れした性格を作り上げた転機ですよね。同時に早い段階に久保選手がそれだけの素質のある選手と親御さんが理解していたっていうのはすごいと思います。

久保一家の献身的なサポート

鈴木) そうですよね。いろんな親御さんが同じように子どものためにやっているのも聞いたことありますが、本気度が違いますよね。ある記事で読んだんですけど、神経系の発達が10歳までだって分かっているんで、久保選手にいろんなスポーツたくさんやらせたって書いてありましたしとにかく外で遊ばせたって言ってました。

今読んでいる為末大さんの本にも同じように書いてあって、彼は幼少期でんぐり返しとか椅子でグルグル回ってからダッシュしたりしたみたいです。当時は遊びだと思っていたけど本当は非常に効果的な神経系のトレーニングになっていたんですよね。そういう科学的なバックボーンもしっかり理解されていた親御さんだったんだと思います。

畠山) 久保選手だけではなく久保家がすごいですし、最強の久保選手を作り上げるための戦略的なプロセスが親御さんから既に始まっていて、今それがバッチリ生きているっていうことですよね。

鈴木) その中でも一番大事なのが、バルセロナに行くという目標を定めたところからしっかり逆算したっていう話です。バルセロナっていうチームを正しく理解していて、そしてバルセロナのサッカースタイルをちゃんと踏襲してくれるような町クラブを選んだって言っていましたね。そこまで考えた親御さんってすごいなって思います。
そういえば今までの対談してきた大谷翔平選手、堀米雄斗選手、久保建英選手と全員親御さんの話が出てきますよね。

畠山) そうですね。海外で活躍する選手はご両親がキーパーソンになっていることが多いですよね。そう考えると選手も大事ですけど、親御さんがどういう意識で競技に向き合っているのかがすごく大事ですね。実は選手のことよりも親御さんたちの方が重要なんじゃないかっていうくらいです。

コミュニケーション能力の重要さ

畠山) 今までのお話で、もちろん土台は親御さんのサポートがある中で作られてきたものだとは思いますが、今の性格や行動が作られているのは日本と違う海外の環境で久保選手自身がいろんな苦労や挫折を経験したからだと思うのですが、そういった意味ではプロになってからも環境の変化が与える影響って大きいですよね。

鈴木) そうですね。その話で言えば、久保選手もいろんなチームでプレーした経験があっていろんな環境でも結果を残している選手だと思うんですよね。

特にサッカーはコミュニケーション能力、意思疎通能力が問われるスポーツで、選手としてのスポーツの技術と同じくらい大切な要素なんですよね。
意思疎通がうまく図れないと試合で使ってもらえないんです。なぜならチームごとに戦術というものがあり、チームとして目指すサッカー観があるので。じゃあどのようにして指導者のサッカー観を知るのかって言ったらコミュニケーションしかないんですよ。

そこで久保くんの良い点をいうと、環境が変わっても活躍してきたっていうところで、コミュニケーション能力の高さはそれこそオリンピックのインタビューとか報道陣への受け答えや言葉選びから垣間見えますよね。

自分の意思をしっかり伝えることができて、かつ相手も納得させることができるコミュニケーション能力っていうのは、おそらく海外のいろんなチームで活躍するために必要な能力なんだと本人もどこかで気付いたんですよね。でもこれができない選手ほど環境が変わった瞬間に活躍できなくなるんです。

サッカー選手は特に。これは国内外関係なくあることなんですけど、いくらプレーが上手でも監督とうまくコミュニケーションを取れない選手は基本的に使ってもらえないんです。

畠山) 確かにそう考えてみると、サッカーっておそらく一番コミュニケーション取りながら行うスポーツですよね。ピッチ内でも仲間からパス回してもらう時に、パサーが求めているポイントにいれるのかってコミュニケーション取れてないと絶対できないし、それこそ海外でプレーするとなると言葉や考え方が元々違うので普段のコミュニケーション以上に難しいものになるし、本当に感覚レベルで合うくらいのコミュニケーション能力が必要になりますよね。

監督とのやりとりも同様で、ピッチ内で目まぐるしく戦況が変わる中で判断するので、そこで監督の戦術通りに選手が動いてくれないと意味がないので、監督とコミュニケーション取れないと使ってもらえないのも分かります。

鈴木) だから、もしかしたら日本人の多くは久保選手のサッカーの上手さに注目するかもしれないですけど、個人的には彼のコミュニケーション能力に着目してくれると良いと思いますし、またそのコミュニケーション能力があるから安定したメンタルが生み出せるんじゃないかなって思います。

畠山) 確かにコミュニケーション能力が高ければ、自分の意思も伝わりやすいし自分自身にストレスを溜めにくいですよね。特に団体競技であれば尚更大事な気がします。

鈴木) これもまた環境の話になるのですが、日本の監督は自分から一方的に伝えて終わりになっちゃうことが多いんですよ。でもスペインの監督はちゃんと選手の意見を聞いてあげることができるんですよね。

日本にいると選手に発言させてくれる機会がないんですよ。「伝えたい!」っていう気持ちの強い指導者が多すぎるので、だからサッカー界でも最近メンタルコーチングっていうのが主流になってきています。

畠山) そうなんですね。監督に一方的に言われて、自分の発言するチャンスがないから、メンタルコーチングを通して自分の考えを整理したり発言する場にしているんですね。でも本来監督とこのやりとりができれば問題ない話ですよね。

鈴木) 1つ面白い話があって、元日本代表監督の岡田武史さんが中国のサッカーチームを監督していたときのある出来事なんですが、当時中国は一人っ子政策で、過保護に育てられた子どもたちが多いっていう背景から自分たちで考えて行動するのが苦手な人が多かったみたいなんです。とある遠征に行ったときに明日〇〇っていう場所で試合だから明日会おうって行ったら、夜のうちに選手みんなで現地に行ってしまって問題を起こしたみたいなんです。その際に監督が選手に注意したら選手たちは謝るわけでもなく、何食わぬ顔で「監督は何も言わなかったから」って言ってたみたいです。

どういう育ち方をしているかによって指導者も伝え方を変えなきゃいけないと思ういます。

畠山) いかにコミュニケーションが大事かがまずまずと感じさせられますね。
そう考えると久保選手のコミュニケーションの高さは本当に目をみはるものがあると思います。

鈴木) そういうコミュニケーションが上手な人ほど、やっぱり上手くもなりやすいですよね。
彼は中西哲生さんからトレーニング指導も受けているらしいですが、指導者が1を伝えて理解できるのか、もしくは10を伝えないと理解できないのかで教えるスピードって変わるじゃないですか。
それはサッカーだけに限らず他の競技にも言えることなんで、やっぱりコミュニケーション能力って大事だなって思います。

畠山) そうですね。久保選手から学べることとしてコミュニケーション能力を上げることが、結果的にメンタル的にも競技のパフォーマンス向上にも大きく生かされるということを学べました。
今回も鈴木さんお時間頂きましてありがとうございました。

鈴木) ありがとうございました。

最後に

今回は久保選手のオリンピックのインタビューの一コマから派生して、久保選手の強さについて知ることができた。
今の彼を作り上げた大事な要素として、若いうちに世界基準を身に付けるということを可能にさせた献身的な親御さんのサポートがあるものの、彼の強さの1番の秘訣は弱冠20歳とは思えないほどのコミュニケーション能力の高さだった。

前回の対談においても、海外という異なる環境で活躍するために必要な要素として、コミュニケーション能力に関して触れてきたがその最たる例というものを、最もコミュニケーションを必要とするスポーツ、サッカーを通じて久保選手から学べたと思う。

是非これから海外に挑戦したい・結果を上げたいという選手の皆様にはコミュニケーション能力をさらに伸ばすという観点から今回の対談を参考にして頂ければ幸いだ。

弱冠20歳にして世界から最も注目される日本人選手の1人となった久保選手。世界基準で我々の想像の超えたさらなる成長を成し遂げ、今後のワールドカップやチャンピオンリーグ、オリンピックで大活躍する姿を期待したい。


Text and Interview by 畠山 大樹

外部リンク
・鈴木颯人

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・畠山大樹
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